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ラブコールは銀河から――僕が地球代表だそうです  作者:


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小森の覚醒

 お茶の水の宇宙船対策本部は、宇宙局と改名され、規模の拡大、諸外国からのメンバー招へいで一気に国際的な組織に変化してく。

 ただ、そのコアは、特殊サポートチームと名付けられた、日本人スタッフで構成されるチームだった。

 肝心の覚醒者に接触できるのは、そのメンバーだけなのだ。


 あまりに閉鎖的すぎると批判の声が上がった。

 それに対しては、人物特定されたら危険なので、調印が完了するまでは厳戒態勢を敷くと言えば、異を唱えられる者はいなかった。


 このドタバタの最中、銀河連合交渉団も大人しくしていてはくれなかった。


 寝る暇もないほどの激務で走り回っている日野に、とにかくファーストコンタクトの人物に合いたいとせっつく。

 マナの懇願に負けた日野は、約束した二週間を待たず、会議を開くことを約束させられてしまった。


 どちらも準備が整っていないので、これは少人数での顔合わせのような、こじんまりした会議になる。

 だが、その会議の中継は天の川銀河中に配信されることになったし、銀河の重鎮、一番から三番までが通信で会議に参加することに決まった。


「これでも、頑張ったんです。一番と二番は絶対的に強いので文句は出ないけど、三番から八番までが戦争を始めそうになって、ギャンブルで三番を決めたんです。そうしたら四番までいいじゃないかとごねられて、私、久しぶりに切れました」


 マナがそう言って愚痴った。特使特権を行使して撃退したそうだ。


「ご苦労、御察しします。こちらは一番から三番が険悪になって貿易戦争が始まりました。どこも一緒ですね」

 二人はふっと優しく微笑み合った。


 それをコントロールルームで見ながら、高橋がぶつぶつとつぶやいている。


「おれは知らねえからな。通信データの加工はしねえぞ」

 



 ある日の実験前に、山田は一つの思いつきを研究者たちに提案してみた。


 会議の後は、交渉が本格的に始まり、目まぐるしい毎日が待っているはずだ。

 そのため、立花たちの覚醒を促す実験は、今の内に思いつく限りのことを試したかった。


「僕が離脱した時は、二度とも虫の音がきっかけになっています。だけど、これは人によって違いがあるのではないでしょうか」


「どういうことでしょう」


「トリガーになるものが、人によって違うのかもしれないと思ったんです。」


 山田は部屋の隅で鳴いているコオロギの方を手で示した。


「僕自身は虫の音ですが、例えば、立花さんなら修行の火の揺らぎや、薪が爆ぜる音とか。小森さんは御経、水野さんはトランス状態に入ることとか。試してみませんか」


 研究員も、その日の被験者の小森も、はっとした表情で考え込んだ。


「そういえば私が離脱した時は、寺で一人、読経していたな。……いつも、そうだったかも」


「それは、可能性がある。やってみましょう」




 その日の実験は、読経しながら瞑想してもらうことになった。


 小森は薄暗い実験室に入り、マットの上で座禅を組んだ。

 山田仕様でセットされていた実験室の椅子と机は、隅に押しやられている。


 低く滑らかな読経の声が実験室から聞こえ始めた。


 研究員も山田も、その様子をモニターで見守る。

 今までの小森と様子が全く違う。

 佇まいに無理がない。


 山田が研究員に目を向けると、彼らも同じように感じているのが見て取れた。

 お互いに、頷き合い、再びモニターに目を戻す。


 山田は小森の読経の声を聞いているうちに、自分の意識が変化するのを感じた。

 低い声のリズムのなかに巻き込まれるような、浮き上がるような気分だ。

 

 ふと浮き上がるような気がした。

 その時、研究員の佐伯が叫んだ。


「脳波に乱れ。異常な高振幅発生⋯⋯鎮静方向に移行。フラットに近い?」


 他の三人が脳波計をのぞき込む。

 山田は小森の様子を確認した。

 読経の声が止んでいる。数珠を握る手もそのまま止まっている。

 

 ふと、体が揺れた。

 小森がこっちを向く。

 驚いたように目を見開いている。

 小森は慌てたように立ち上がろうとし、立ち損ねてマットに手をついた。


「もしかして、今離脱しました?」


 山田は誰にともなく、そう叫んだ。


「もしかしたら、そうかもしれません」


 バンッと実験室のドアが勢いよく開く。

 実験室から小森が飛び出してきた。

 

「今、もしかして離脱したのかな。したような気がしたんだけど、どうかな」


 主任研究員の坂田が、小森を手招いた。 


「こちらへ。モニターの録画映像をお見せします。この一分間、明らかに脳波が変化しました」


 録画が数分前に戻され、実験中の小森の様子が再生された。

 小森自身も食い入るように映像を観ている。


「ここ、ここで急に自分の声の中に浮かぶような気分になったんだ。この一節は私のお気に入りなんだよ」


 その次の一節の途中で、声が途切れた。

 

「ここから脳波が緩やかになっています。アルファ波が強く出ています。深いリラックス状態にあるということです」


 全員が小森を見詰めた。


「私は、あの、何も覚えていない……残念ながら」


「ああっ」と残念気な声が上がったが、皆、興奮したままで、てんでにしゃべりまくっている。


「次ですよ。次。きっかけは掴めたわけだし」


「これは、凄いぞ。水野さんと立花さんにも、この方法を試さないと」


 喜んで話し合う研究員たちに向かって、山田は声を掛けた。


「あの、実は僕も、小森さんの声を聞いていたら、浮き上がるような変な気分を感じたんです。読経の声は、聞いている人間にも、そういう作用を起こしやすいのかもしれません」


「エッ、山田さんも? いつもと同じような感じですか?」


「違いました。声に乗っかって? というか溶け込んで、体が浮くような感じです」


「それで?」


「佐伯さんの声で、戻った感じです」


 他の研究員が佐伯を睨んだが、これはどうしようもない。


「今度、小森さんと一緒に実験室に入ってみます。違った体験が出来るかもしれない」


「他の二人も試してみたいですね。小森さんの声が導火線になるってことか」


 小森はなんとなく胸を張って、まんざらでもない表情を浮かべている。

 口元がピクピクしていて、嬉しそうだ。


「まあ、日頃から声に関しては鍛えてますから。お勤めと、大学の講義で」


「さすがですね」


 山田がそう言うと、小森はさらにそっくり返った。



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