85話 静電気と妹
おはようございます
ペルシア姫へのお願いをした後は、他愛ない雑談をしながら地下街の住民が往来する街中を抜けていく。
建物の間を抜ける心地よい風を頰に感じながら、短い間ではあったが、兎人族の牢屋フレンドである、ノーチェの妹を探す。
「もう直ぐで診療所ですわ」
迷いのない足取りで、石畳の道を行く。
「ペルシア姫さっきの約束お願いしますよ」
「もちろんです!これでここに居る小鬼病の方々が良くなるのであれば、私は幾らでも協力させていただきます!」
「ありがとうございます。おっ!あの建物ですか?」
目の前に見えるのは、修道着の様な衣類を着た女性が、両手を組んで祈っているような彫り物がなされた看板。
その看板が壁に掛けられている建物が診療所だろう。
「先生ありがとー!」
建物の中から、膝に包帯を巻いた少年が走り出してくる。
「こらあ!またころぶぞぉー!」
俺の横を通り過ぎた子供は、ちらりと診療所に振り向くと「大丈夫だーい!」と言い元気に走り抜けて行った。
少年を心配する声の主は、その白い毛皮で覆われた腰に手を当て、短めに溜息をつく。
一瞬、目が合い、こちらに気がついた様子で、軽く会釈をしてきた。
「こんにちは。貴方が最近診療所に来た薬師さんですか?」
ペルシアが声をかけた人物が、牢屋フレンド、ノーチェの探していた妹だという事は一目見てわかった。
ピーンと立った大きな耳。
全身を覆う、降り積もったばかりの雪のような、真っ白でふわふわの毛が全身を覆っている。
そして、兄であるノーチェと同じで、真っ赤に透き通るルビーの様な瞳が、彼女が彼の妹である事を一目で確信させた。
兄同様に思わず抱きしめたくなるような、愛くるしい二足歩行のうさちゃんがそこにはいた。
◇
診療所の奥にある一室。
俺たちはクッキーの様な平たいお菓子と、温かい紅茶が用意されたテーブルを挟んで彼女と向かい合った。
一つのテーブルを挟みあって3対1。
何まるで就職活動をする学生を面接する、面接官の様な座りかただ。
「はぁ……。全く、兄さんったら……」
目の前の彼女はカップに入った紅茶を啜る。
向かい側に座る彼女の名前はニエヴェ=ビラ。
ノーチェと同じくA等級の冒険者で、双子の妹だ。
事の顛末を伝えると、彼女は頭を抱え大きくため息を吐いた。
大きな耳が力無く垂れている。
「私はお家のテーブルの上に置き手紙をしていったんですよ。『数日、家を空けます。すぐ戻りますから待っていてください』って」
「じゃあその置き手紙を見ずに王宮に殴りこんだってことね……」
「そういう事みたいですね……。そそっかしい兄ですいません……」
「あはは……」とペルシアはなんとも言えない笑顔で返す。
「それで、先程のお願いなのですが、受けていただけますか?」
俺は脱線しかけた話を元に戻す。
「はい。ドルガレオ大陸に行くのはちょっと怖いですけど、この未知の病気を治すことができる様になるなんて、薬師として見逃すわけにはいきません!」
「それに私もA等級の冒険者ですから!」と力こぶを作っている。
頼もしい限りだ。
事前に行ったライアとの話し合いの中で、ニエヴェには血清を作ってもらう為の手伝いをお願いする予定だった。
一緒にドルガレオ大陸に来てもらう事も視野に入れたお願いだ。
俺たちにとって僥倖だったのは、ここでの彼女の滞在期間が長期ではなく残り三日だった事、次にニエヴェの冒険者等級がAだった事、そしてドルガレオ大陸への同行を了承してもらえた事だと思う。
もし、彼女の地下街への滞在が長期だった場合、小鬼病を治すための血清を作ってもらうのに、他の薬師を探さなければ行けなかった。
ライアは知識として血清の作り方はわかっても、実際作ることはできない。
良質な血清を手に入れるためには、王国側から依頼が来る様な優秀な薬師の存在が必須不可欠だった。
それにドルガレオ大陸に行くためには、三人以上のA等級の冒険者がパーティーを組まないと大陸を渡る許可が下りないらしい。
うさぎ兄妹がA等級の冒険者なので、後は俺が冒険者ギルドでA等級になれば許可がもらえるはずだ。
何とかなりそうな予感はするが、ここまでの計画はあくまで計画である。
後はペルシア姫がなんとか国王陛下を説得し、俺とノーチェを牢屋から出してもらえるように祈るしかない。
これが成功すれば花ちゃんにも会いに行けて、ペルシア姫も助けることが出来る。それにこれからこの地下街で小鬼病に罹患した患者を治療することが出来るようになるのだ。
「それじゃあ、三日後、また来ます」
ライアはフィーをしばきに魔工学研究所へ戻り、俺はニエヴェと三日後に再度会う約束を取り付け、不安と期待が綯い交ぜになりながらも、ノーチェの待つ牢屋へと戻った。




