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83話 静電気と環境


青い空に白い雲、自分の存在を主張するような太陽の輝き。


その心地良い陽の光が肌に当たり、時折吹く微風が前を行くペルシアの、縦に巻かれた髪の毛を優しく揺らす。


街へと続く、石畳で舗装された道の脇には、綺麗に切りそろえられた芝生の絨毯が広がる。


「なぁライア、この太陽も土も草も風も全部が魔工具なのか?」


ここが地下にあるなんて俄かには信じられないが、通って来た通路の事を考えるとそう言う事なのだろう。


「ん? 正確に言うと、魔工具自体じゃなくて、魔工具から農産業用に作られた人工のものだな。野菜を栽培するための農作業は、ドルガレオ大陸の中でも出来るだけ魔力の影響の少ない土地で行われてたんだが、そう言う土地は限られているからな。如何にして食料を確保するか、その対策として作られたものだよ」


ライアは「これの元を開発したのはさっきの変態さ」と背後にある建物を親指で差した。


「年中雨が降っていたり、太陽が見える事の無い暗闇の続く土地だってあるからな。変わり映えしない風景よりはまぁ見ていて飽きないが、ひ弱な人族にとって過酷な環境と言ったらそうなんだろう。その点こっちは快適さ。太陽も水も空気もある。それに食べ物だって豊富だ」


「ただ、魔物肉だけはあっちの方がうまいがな」とドヤ顔をしている。


人工の土壌や太陽が必要な環境って……。

どれ程の過酷な環境の中で、魔族達は生活していたんだろう。


その苦悩の歴史が、これを作り出した魔工具から垣間見えた気がした。


「こっちの大陸と、魔族が住んでいた大陸。ちょっと土地が違うだけで、何でそんなに違いがあるんだろうな」


「知らないのか? ドルガレオ大陸には、神の眷属たる六属性の精霊神が住んでいるからな。六属性を司る精霊神達が、日夜、争っているんだよ」


「精霊神? 何それ……。オレガルドでその事を知ってる人っているの?」


神の眷属って事はあの神様の家来って事なのかな。

もし神様に逢えるなら、争わないよう言って貰いたいものだ。


「さぁ? ドルガレオ大陸に行く人間なんて勇者御一行と、往来を許された一攫千金を夢見る高等級の冒険者くらいだからねぇ。あの大陸の事は知らない事の方が多いいんじゃ無いかな? 大体が行ったっきり帰ってこないとか、帰って来た時には心神喪失状態らしいからね」


何それ怖すぎる。

勇者御一行って事はアキラ=ハカマダも行ってるのかなぁ。

王都に来てまだ一日だけども、勇者の話は一言も聞いてないな。あとで情報収集するか。あいつのことも気になるしな。


「そんなところに花ちゃんおいてきたのかよ。本当に大丈夫か? 心配でしょうがないんだけど……」


「大丈夫だって言ってるだろ? それに、そのうち言おうと思ってたけど、魔界草にとってはこっちにいる方が危険なんだよ」


「何だよそれ。危険ってどう言う事?」


「自分が飼ってるペットの事くらい、知っておくべきだと思うんだけどね? いいか? 魔界草が繭みたいにこもってる間、どうやって栄養を補給すると思う?」


「ペットじゃなくて娘だし。どうやってって……冬眠みたいに予め食い溜めしておくんじゃ無いのか?」


「そこまで可愛いと思ってるならしっかりしろよ、お父さん。確かに開花前に食い溜めする習性はあるけど、魔界草が繭になってる間は、主に空気中の魔力を食料として吸収するんだよ。だから空気中の魔力濃度が高いドルガレオ大陸の方が、食糧不足の危険はないって事。わかったか?」


なるほど、そう言われると全く言い返せない。

俺なんかよりもよっぽどライアの方が親らしい。

実際に子育てしたこともあるしな。

事、養育に関しては数段俺より上だ。

何たって教頭先生のおばあちゃんだしな。


「はい、わかりましたよ。じゃあ花ちゃんに会いに行くには、ドルガレオ大陸に行かないといけないって事か〜」


「まぁそう言う事。因みに、《転移》は使えないからな」


「え? 連れてってくれるんじゃないの?」


「バカ言ってんじゃないよ。ったく。近場の移動ならともかく、長距離の《転移》は膨大な魔力を必要とするんだぞ。おいそれと簡単に出来る魔法じゃない。それを二人分の重量なんてとてもじゃないがお断りだね」


クゥー。楽できると思ってたのに。

確かドルガレオ大陸に行くには許可が必要何だよな。

行くことが出来るようになる冒険者等級はA以上だったはず。


現在の俺の冒険者等級はB。

王都の冒険者ギルドで試験を受けて合格しなければAにはなれなかったはずだ。


……面倒臭いな。

いっそのことすっ飛ばして勝手に入っちまうか。

どうせもう既に国家反逆罪だしな。


いや……それだともう取り返しがつかなくなりそうだ。

ペルシア姫の病気治したら帳消しにならないだろうか。


「なぁライア。ペルシア姫を見てどう思う?」


「どう思うって、ただの小鬼病じゃないか。別に珍しい病気じゃないだろ。ほら、そこの角の商店を見てみなよ。この街にだって何人かいるじゃない」


行きは気がつかなかったが、全身を布で包んで見えないようにしている人達がちらほら見かけられる。

肌が露出しないようにしているのだろう。


《花汁》が多少なりとも小鬼病に効果がある事を知りながらも、残りの分を使わず、この姿の方が都合がいいと言ったのは、同じ病の人に変に希望を持たせないためだったのか。


「治療法って、あるのか?」


「あるぞ。あのダンゴムシをすり潰してこい」


「は?」


「だからあのダンゴムシを擦り潰してこいって」


どうやらまだまだ厄介ごとは続くようだ。


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