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監獄ダンジョンと追放英雄  作者: ゆきのふ
最終章 遥かなる旅路
212/219

崩壊の光

 ついにそのときが来たと確信し、ソラは目を開いた。


 フェノムが言っていた通り、先ほどヤヌシスの中からもう一つの魂が姿を現した。その魂は眩しいほどの光を放ったかと思うと、いま消え入りそうなほど弱っている。


 いまなら、彼女・・を手に入れられる。


 フェノムはソラに全てのおぜん立てをしてくれると言った。


 目当ての魂を、彼女の身体の奥底から引っ張り出すこと。

 そしてその魂を弱らせること。


「お前も、たまには役に立つことがあるのダナ、フェノム!」


 ソラはうきうきしながら、自分の指に嵌まる指輪を見つめた。

 それはフェノムがくれた、とある魔法の起動装置だった。この指輪が破壊されたとき、刻印された魔法が発動するのだ。


 その魔法の正体を、ソラは知らない。が、フェノムが言うには街を一つ消失させるほどの威力を持つ巨大魔法ということらしい。


「至れり尽くせりとは、まさにこのことなのダナ! わしはここでゴロゴロしながら、この指輪を壊せばいいだけなのダナ!」


 ソラはニヤリと笑い、その指輪を指から外して握りつぶそうとした。


 ――硬くて壊れない。


「え、ちょっと硬いのダナ……」


 ソラは困惑してから、すぐにカッとなった。


「わしでもすぐ壊せるくらいの硬さにしておくのダナ! まったく使えないやつめ! ――コッコ! コッコ!」


 ソラは自室を飛び出し、コッコの名前を呼びながら屋敷を走り回った。


「なんですか、おばあちゃん」

「なんですかはこっちの台詞なのダナ。オマエ、何をしているのダナ?」


 コッコはフェノムの部屋で跪き、手を組み合わせていた。


「何って、祈りを捧げているんですよ。フェノムの計画が、上手く行くように」

「祈りなんてものは、一切役に立たないのダナ。そもそも、誰に祈るのダナ? あいつは無神論者どころか、反神論者なのダナ」

「ぼくの神はフェノムです。ですから、フェノムに祈っています」

「トンチンカンなことを言うんじゃないのダナ! いまお前がすべきは、わしのためにトンカチを作ることなのダナ!」


 ソラはイライラして、怒鳴り散らした。


「トンカチですか? なぜ?」

「指輪が壊れないのダナ!」


 ソラが指輪を見せると、コッコはさっと表情を青くする。


「――それはいけません。すぐに用意しましょう。しかし、自分の指を打って泣いたりしないでくださいよ」


 コッコが手をかざすと、そばにある金属の彫像がトンカチのかたちに変わる。


 錬金術だ。


 コッコはフェノム同様、物質変換を可能とする力を身につけている。

 彼が一年に満たない人生の中で開花させたその才能には、フェノムすら舌を巻くほどだった。


 ただ、いまそんなことはどうでもいい。いま重要なのは、指輪を破壊する術を手に入れられたという、その一点だった。


「おお、これはいいトンカチなのダナ!」

「さあ、おばあちゃん。いまこそ、きちんと役割を果たすときです。フェノムのために」

「わしはわしのしたいようにするだけなのダナ!」


 ソラはトンカチを握り、躊躇なく指輪に振り下ろした。


 指輪が砕け散る。


 ――その瞬間、グラグラと地面が揺れた。

 窓ガラスが割れ、すさまじい風が吹き込んできて、ソラは目を白黒させた。


「ひゃあ! 何事なのダナ!」

「おばあちゃん、こっちに」


 ソラはコッコに手を引かれて、割れた窓に近づく。

 そしてそこから見える光景に、ハッと息を呑んだ。


 西の空に、巨大な光の柱が立っている。



 ※



 その瞬間――リルパは地面の奥底で、信じられないほど暴力的な力が生まれ落ちたのを悟った。力は解放の雄たけびを上げ、凄まじい勢いで地上へと迫ってくる。


「……え?」

「さあ、一つになりましょう、リルパ……」


 ヤヌシスは笑った。

 その笑みには、ひたすらな喜びがあふれていた。


 ヤヌシスが力に呑み込まれ、赤い紋様を浮かび上がらせた身体を溶かしていく。

 次の瞬間には、リルパも、まっ白な光に包まれていた。それは無垢で悪意を感じさせない、ただただ純然とした力……。


 そうしてリルパの意識は、白い光の中に消えて行った。


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