第八十一話 結界都市
最初に落ちたのは。
城壁じゃなかった。
◇
結界だった。
◇
夜空を覆っていた光膜が。
ある日突然、
砕ける。
◇
その瞬間。
魔物が流れ込む。
瘴気が侵入する。
都市機能が崩壊する。
◇
今の世界で。
結界とは。
壁そのものだった。
◇
北東防衛都市、
フェルン。
◇
レイン達が到着した時。
空の結界は、
半分以上消えていた。
◇
淡い青光が、
断続的に明滅する。
不安定。
今にも壊れそうだった。
◇
「西区画、
瘴気侵入!」
「魔物群接近!」
「結界核、
出力低下止まりません!」
◇
怒号。
鐘の音。
避難民の悲鳴。
◇
都市全体が、
限界寸前だった。
◇
レイン・ヴァルト
は、
即座に状況を見る。
◇
不足しているのは。
兵士じゃない。
◇
魔石。
修復材。
技師。
治癒士。
◇
つまり。
維持要員だった。
◇
「第三輸送列、
結界炉へ直行!」
「技師班を中央塔へ!」
「治癒士は修復作業員優先!」
◇
灰燕隊が一斉に動く。
◇
荷車が走る。
魔石箱を運ぶ。
資材を下ろす。
負傷技師を担架で搬送。
◇
まるで。
都市そのものへ、
輸血しているみたいだった。
◇
イヴァン
が、
剣を抜きながら笑う。
「最近、
兵士より修理屋守ってんな」
◇
事実だった。
◇
結界技師が死ねば。
都市が死ぬ。
◇
だから。
今一番重要なのは、
修理する側だった。
◇
中央結界塔。
そこでは、
技師達が必死に作業していた。
◇
「魔力流路、
焼き切れてる!」
「核出力、
三割切った!」
◇
火花。
煙。
焦げ臭い空気。
◇
老人技師が、
レインへ怒鳴る。
◇
「魔石が足りねぇ!」
「あと十分で完全停止だ!」
◇
レインは、
即座に地図を見る。
◇
「第六列車を切り替えろ」
「燃料用高純度石、
全部こっちへ回せ」
◇
補給官が驚愕する。
「他都市の暖房が止まります!」
◇
「都市が消えるよりマシだ」
◇
即断だった。
◇
そして。
数分後。
灰燕鉄道隊の列車が、
轟音と共に到着する。
◇
荷台いっぱいの魔石。
修復材。
予備炉。
◇
技師達が歓声を上げる。
◇
「繋げ!」
「出力再起動!」
◇
魔力が走る。
結界塔が振動する。
◇
そして。
空へ。
青白い光が再び広がった。
◇
砕けかけた結界が、
再構築されていく。
◇
避難民達が、
空を見上げる。
泣き崩れる者もいる。
◇
都市が。
まだ生きている。
◇
レインは、
その光景を見ながら理解する。
◇
戦争とは。
破壊力じゃない。
◇
どれだけ修復できるかだ。
◇
壊すのは簡単。
燃やすのも簡単。
◇
だが。
維持するには。
人がいる。
技術がいる。
物流がいる。
◇
つまり。
文明が必要だ。
◇
空の結界が、
ゆっくり安定していく。
◇
その青い光を見ながら。
レインは静かに呟いた。
◇
「修理できる側が、
最後に生き残る」




