表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/108

第四十九話 情報統制

 王都は、

今日も平和だった。


 


 少なくとも。


 


 表向きは。


 


     ◇


 


 

王都レグナリア

中央通り。


 


 鐘が鳴る。


 


 新聞売りが叫ぶ。


 


「勇者軍、

西部戦線大勝利!!」


 


「魔王軍後退!!」


 


「王国反攻成功!!」


 


 民衆が歓声を上げる。


 


 拍手。


 


 安堵。


 


 涙ぐむ者すらいた。


 


     ◇


 


「良かった……」


 


「終わるんだな」


 


「勇者様が勝ってくれた」


 


 人々は、

その言葉を信じた。


 


 信じたかった。


 


     ◇


 


 だが同じ頃。


 


 西部街道では。


 


 壊れた兵士達が、

雪の中を彷徨っていた。


 


 軍ではない。


 


 敗残兵ですらない。


 


 ただの、

飢えた生存者達。


 


     ◇


 


 現実と報道。


 


 その差は、

既に取り返しがつかないほど開いていた。


 


     ◇


 


 王城地下。


 


 中央情報管理室。


 


 大量の報告書が積まれている。


 


 戦死者。


 


 脱走者。


 


 補給損失。


 


 部隊消失。


 


 全部。


 


 封印されていた。


 


     ◇


 


「西部遠征軍、

実働率二割以下です」


 


 若い官僚が震える声で報告する。


 


「補給線完全断絶」


 


「現地指揮系統消滅」


 


「生還者多数が統制不能――」


 


「記録修正しろ」


 


 上官が即座に言う。


 


     ◇


 


「ですが、

実数と差が――」


 


「修正しろ」


 


 二度目。


 


 それで終わった。


 


     ◇


 


 官僚は、

震える手で数字を書き換える。


 


 戦死三万。


 


 それが。


 


 “戦線再編による一時離脱”へ変わる。


 


 壊滅。


 


 それが。


 


 “戦術的後退”になる。


 


     ◇


 


 紙の上では。


 


 王国はまだ戦えていた。


 


     ◇


 


 

レイン・ヴァルト

は、

その光景を黙って見ていた。


 


 もう驚かない。


 


 この国は、

現実では動いていない。


 


 物語で動いている。


 


 それを知ってしまったから。


 


     ◇


 


「なぜそこまで隠す」


 


 レインが聞く。


 


 老官僚は、

疲れた顔で笑った。


 


「簡単だ」


 


「真実を出せば、

王都が壊れる」


 


     ◇


 


「民衆は、

勇者が勝っていると思っている」


 


「それが崩れた瞬間、

暴動になる」


 


「配給所は襲撃される」


 


「貴族街も燃える」


 


「だから隠す」


 


 当然のように言う。


 


     ◇


 


 レインは、

反論できなかった。


 


 実際。


 


 間違っていない。


 


 今の王都は、

希望だけで維持されている。


 


 現実を流し込めば、

崩壊する。


 


     ◇


 


 問題は。


 


 その希望自体が、

既に腐っていることだった。


 


     ◇


 


 夜。


 


 新聞印刷所。


 


 刷られていく紙。


 


『勇者軍、

西方要塞制圧』


 


『戦況安定』


 


『王国勝利目前』


 


 インクの匂い。


 


 機械音。


 


 その全てが、

巨大な嘘を量産していた。


 


     ◇


 


 一方。


 


 王都外縁では、

帰還兵達が到着し始めていた。


 


 痩せた兵士。


 


 凍傷。


 


 虚ろな目。


 


 だが。


 


 中央は彼らを、

街へ入れようとしない。


 


     ◇


 


「隔離しろ」


 


「市民に見せるな」


 


「敗残を広げるな」


 


 命令が飛ぶ。


 


 兵士達は、

城外収容区画へ押し込まれていく。


 


     ◇


 


「……俺達、

勝ったんじゃねぇのか」


 


 一人の帰還兵が呟く。


 


 誰も答えない。


 


     ◇


 


 翌日。


 


 王都広場では、

勝利祈念祭の準備が始まっていた。


 


 旗。


 


 音楽。


 


 勇者像。


 


 笑う子供達。


 


 その城壁の外では。


 


 飢えた帰還兵が、

配給待ちで倒れている。


 


     ◇


 


 現実は崩壊している。


 


 だが公式記録の中では。


 


 王国は今も、

勝利し続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ