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有明のジェミリオン  作者: 豊平ののか
第二部

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08 皇妃の打診

 入城した際に認識阻害の魔法を解除すると、使用人たちが驚いたような顔で王子の客人たちを見る。


(あの方、スヴェア伯爵では?)


(すごく綺麗な女性とご一緒だわ)


(他の方々は……?)


 使用人たちは余計なことを言わないし、じろじろ見ることもない。


 それでも、彼らが何かを察するのはとても早かった。



 国王や王妃との会談は、ガラス温室にて執り行うとのことだ。


 アリィたちはそれぞれドレスを借りて、参加することになる。


 これは先日会った、イルタ王太子妃の便宜であった。


(また、変な着付けをされたらどうしよう……)


 喜代古のことがあり、使用人たちからの着付けには少し抵抗があったが――この王城は皆が優しかった。


「まぁ、お嬢様はとてもお綺麗でございますね!」


 それどころか、細かいところまで褒めてくれるので、嬉しくなってくるほどだ。


 一部の使用人たちには、ユオの正体を通達されたようだ。


 アリィのことまでは知らされておらず、“お嬢様”と呼んだのだ。


「皆は、スヴェア伯爵がユオシェム皇子だって気付いていたの?」


 気軽に話せるようになったアリィは、着付けされながら話しかける。


 すると、使用人たちはぱっと嬉しそうな顔をした。


「まさか。誰も思っておりませんでしたよ」


「ジナビアでは、“ユオシェム”っていうのはよくある名前だからかしら」


「そうですね。こちらの髪飾りは、スヴェア伯爵……ユオシェム皇子殿下からの贈り物ですか?」


 使用人たちは、少しはしゃぐようにアリィに話しかける。


 それでもしっかりと距離は保たれていて、教育が行き届いているのを感じた。


「えぇ、そうよ。それはいつも身につけておきたいの」


「かしこまりました! お任せ下さい!」


 ジナビアは王子ばかりで、結婚しているのも長子の王太子だけだ。


 あまり女性王族の着付けをする機会がなく、彼女たちも張り切っていた。


(イルタ様、ドレスの種類まで指定してくださったのね)


 アリィには淡い水色のドレスを、ララネには桜色のドレスを。


 それぞれ充てがうよう、イルタはわざわざ伝書鳩で通達していたようだった。



 そして、着替えたアリィはララネと合流する。


「アリィ、綺麗ですね! 童話に出てくるお姫様みたい……いえ、お姫様ですが!」


 いつもは流している髪をアップにして纏め、蝶のような髪飾りを付けたララネ。


 真っ先にアリィに駆け寄って、目を輝かせた。


「ララァこそ……とても綺麗だわ。貴女だってお姫様じゃない」


 くすっ、とアリィは笑う。


 アリィの髪は、青い薔薇のような結び目に仕上がっていた。


 そこにいつもの髪飾りをあしらわれ、愛らしくも優雅に輝いている。


 使用人たちは自分たちで着付けしたのに、そんな二人の美しい姫君に見とれていた。


「エレンディル殿下ならびに、お連れ様も身支度が終わられたようでございます」


 侍女長と思われる女性が、二人を呼びに来る。



 男性陣が待つ部屋に案内され、そこに向かった。


 普段の格好から一変、男性陣も西方風のスタイルに身を包んでいる。


「あら、皆さんも似合っていますね。どうです? 私たちも綺麗でしょう? 王太子妃殿下のセンスが素晴らしいです!」


 ララネは自信ありげにドレスを翻しながら、男性陣に自慢した。


 胸はそこそこで、スタイルはとてもよく、ウエストはアリィよりも締まっている。


 アリィはふと、喜代古の言葉を思い出してしまっていた。


 ここ最近は思い出すこともなかったのだが、纏わり付くように蘇ってきて――。


“何をしても痩せないようですね。いっそ胸を切り落としてみては?”


 今となって思うのは、喜代古の方がずっと太っていることだ。


 アリィはララネよりほんの少し肉付きがいいだけで、ドレスの腹周りがきつかったわけでもない。


 そう考えると、かえっておかしくなってくる。


(喜代古なんて人もいたわね。今はどうでもいいわ。私はもう、好きな人に囲まれて、愛されてるから)


 呪いはすぐに掻き消された。


 アリィは少し高いヒールに少し戸惑いながらも、ユオに駆け寄っていく。


「綺麗だね! こんなに可愛い女の子と婚約してるなんて、僕は幸せだなぁ」


 ユオはニコニコと笑いながらアリィに近付いた。


 抱きしめたくなって手を伸ばし、何とか踏み止まったようだ。


 いつもより髪が落ち着いていて、フォーマルな装いになっているので、アリィも見とれてしまった。


「ユオシェム様も素敵よ。小さい頃に思い描いた、闇天将様そのものだわ」


 アリィは少し背伸びをして、勇気を出して幼い頃の憧れを語る。


 彼にだけ聞こえるように、耳元で。


「それは嬉しいな。僕たち、お互いに好感度が高いみたいだね」


 ユオは涼しい顔で返事をする。 


 だが、内心は冷静などではなかった。


(可愛すぎるんだけど……陛下に会う前に集中力なくなりそう……)


 傍から見て分かるほどアリィに夢中で、触れたいのを抑えるのに必死だったのだ。



「信じられますか、あれでまだ形式上の婚約者だそうですよ」


 少し離れたところから、邪魔しないようにララネはシノやエレンに言った。


「この計画が決まった時、元職人のオッサンに注文してたんですよ。髪飾りと、確か指輪も……」


「それって、今は娼館を運営しているという方ですか?」


「あぁ、その人です。俺たちの溜まり場になってたとこの」


「なるほど。指輪はまだみたいですから、それを渡したら本格的にって感じなんですかね」


「たぶん……ユオって女関係は堅いけど、姫様のことは損得抜きで本気なんだろうなと」


 長年付き合ってきたエレンから見ても、ユオはアリィに夢中だ。


 アリィの方もユオのことを好いているように、周りからも見える。


 それ以上に、ユオからの愛は深く、大きすぎて。


 ピアスを外したエレンは、苦笑いして二人を見ていた。


「東雲丸さんとしては、アリィが幸せそうでよかったですね」


 ララネは何気なく、シノの顔を覗き込むようにした。


(……また不整脈だ)


 また心臓が跳ねるのを感じ、少し戸惑いながら視線をそらす。


「そうだな。後は国のことに没頭できる」


 それだけ言って、髪をポニーテールにしたシノはまたアリィを見る。


 彼にとって、妹は可愛い存在でありながら、同時に弱点でもあった。


 今はユオに託せたから、自分の責務に集中できるのだ。


(貴方自身の幸せは、考えないんですか?)


 そんな彼に、ララネは口に出そうとした。


 ここで言うのも変だと感じて、静かに引っ込める。


「イチャついてるところ悪いけど、そろそろ行こうぜ」


 エレンが頃合いを見て、ユオとアリィに言った。


 このまま放置していれば、二人が延々とイチャイチャしていそうだと感じたからだ。



 ☾



 いよいよ、国王や王妃との茶会の時間となる。


 フレイ・ド・ジナビア国王はエレンをそのまま老けさせ、髭を蓄えたような男性だ。


 ただ違うのは、末息子とは比べ物にならない威厳を放っていることである。


 厳格さを保つような風貌にしているが、よく見れば実年齢よりもずっと若い。


 王妃の方は朗らかで、金髪に碧眼をした微笑みの絶えない女性だ。


 二人の王女は、緊張しながらも何とか挨拶を交わす。


 ユオとシノは対照的に、スマートで慣れた様子だった。


(ユオシェム様、素敵だわ)


(東雲丸さんって普段はボケていますのに、こういうところは本当に洗練されていますね)


 アリィとララネは、彼らに感想を抱く。


 エレンにとって国王は身内なので、さほど考えることはなかったのだが。



 それぞれが席に着くと、王妃の侍女たちが紅茶を注いでいく。


 それから彼女たちが温室から退散し、中には王族と皇族だけが残る形となった。


「ラーシュ王太子から、話は聞いております」


 フレイ国王は、相手を同格の存在として見ているのだろう。


 王太子であるシノはともかく、皇太子でもないユオに対しても丁寧に接していた。


(この対応だけで、ジナビアの国王陛下の品格が分かるわね)


 アリィは国王の言動を観察し、静かに分析する。


 つい比べてしまうのは、カナンの皇后や皇太子だ。


 彼らは横暴かつ、ヒステリックな態度だった。


 ユオと元から仲がいいとは言え、こういった場でも礼儀を崩さない。


 そんなところを見ると、賢王と呼ばれるに相応しい人だと思える。


「話が早くて助かります、フレイ陛下」


 国王がカップに手を付けた後、ユオがそう言った。


 名前を呼ぶほどに、親しげな仲なのを示している。


 優雅で品のある皇子を演出していた。


(彼は……本当に色んな顔があるのね。外交の場では、とても素敵な紳士だわ)


 そんな彼を見ていると、アリィはドキドキと胸が弾むのを感じた。


「我が国はあくまで中立ですがね。世界の中心とも言えるカナンの皇位継承につきましては、我が国も無関係ではいられぬと存じております。この件は既に、我々が決めたことです」


 フレイ国王は水面下で大臣たちと話をつけ、今後の方針を決めている。


 ユオやカナン帝国のためではなく、あくまでジナビアという国の未来のために。


「大地が揺さぶられるでしょうね」


 ジナビアの根幹にある、大地の魔力。


 それにあやかるように、ユオは静かに言った。


「縛るほどに膨れるものもございましょう……既に民心は揺れていますから」


「そのようですね。少し前に訪問した時よりも、市井がかなり変わっていました」


「でしょうな。しかし、多少の犠牲は仕方がない。民衆に目覚めてもらうためには……そうでしょう?」


「私もそう思います」


 少し緊迫した会話の中、ユオがそう言い切ると、フレイ国王は豪快に笑った。


「相変わらず面白いですな。ユオシェム殿下が皇帝になられれば、東大陸も更なる発展を遂げるでしょう」


 発言に含みはなく。


「その際、我が娘のエルザを皇妃にいかがですかな? 後継者問題も……あることでしょう」


 国王は鋭く、観察するようにユオを見た。


 エルザ、というのは即ちエレンの姉である。


(ユオシェム様は了承しないはず。でも、どうやって断るのかしら)


 アリィはユオのことを、心から信じている。


 他に妃を娶るつもりはないという言葉も、彼の本心だろう。


 だが、それはユオの個人的な感情であり、政治的に断る理由はない。


 むしろカナンのような大国においては、妃を何人も付ける方が効率がいい。


 現行でもそんな制度だ。


「陛下、それはお断りいたします」


 ユオの返事は迷いがない。


「皇妃の役割は、優秀な補佐官で代用できます。宮廷を荒らす火種もけせますから。それに、後継者問題につきましては……目の前にいらっしゃる両陛下が希望でしょう」


 少し口調がフランクになりながら、含みのない笑顔で国王夫妻を見る。


 高魔力保持者同士、つまり貴族になればなるほど、子どもができにくい。


 古来から、カナンの皇帝が市井から妃を召し上げていた理由の一つだ。


 内部での仕事と、後継者に困ること。


(そうよね。同じ夫婦で二人できればいい方だと言われているのに、両陛下は六人も子宝に恵まれていらっしゃるわ)


 アリィは嫌味もなく、少し冗談っぽく返すユオの返答に感心する。


「なるほど、そうきましたか」


 国王は納得しつつ、ユオとアリィに柔らかな視線を送った。


「父上、やめてくださいよ! 俺はこいつと家族になるのは嫌です! 姉上だって可哀想ですよ!」


 そこで息子であるエレンが、青ざめながらようやく口を開いた。


 助け舟というわけでもなく、単に我慢ならなかっただけのようだ。


「あなた、ユオシェム殿下を試すのも勘弁してあげてくださいな。そもそも、エルザには立派な婚約者がいるでしょうに」


 見かねた王妃が息子に便乗する。


 エルザ王女は既に伯爵家の婚約者がいて、降嫁することが決まっているのだ。


「失敬、つい遊んでしまいました」


 国王は笑うと、またアリィの方を見る。


(さっきから陛下と目が合うわ……気のせいかしら)


 どうして見られているのか、彼女は全く見当がつかないわけでもない。


 話しかけられたらと思うと、それだけで緊張が走る。


「やれやれ、陛下の冗談はきついですよ」


 ようやく本音がそのままの言葉で出たユオは、少しだけいつもの姿に戻ったようだった。


「そうでしたかな?」


 冗談めいて、国王も笑う。


「して、有明殿下」


 恐れていたことが起こる。


 国王直々に、アリィを指名したのだ。


「ユオシェム殿下を支援したところで、ジナビアに見返りはございません。それでも何故、我が国が協力するのだと思われますか?」


 まるで、話しかけるタイミングを待っていたかのように。


 この場にいる人間で、そういったことを答えるのに適任なのは王太子のシノの方だ。


 それを、継承者でもない一人の王女に問いかけた意味は――。


(国王陛下は、最初から私を試すおつもりだったのね……ユオシェム様じゃなくて)


 唐突だったが、動揺は見せない。


 事前にユオとは話していたから、ある程度は予想がついていたことだ。


 アリィが何を言うのか――婚約者であるユオや、兄であるシノは見守った。


 静かに、彼女の緊張を受け取るかのように。

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