81 双子とランチ
翌日のランチタイムはお弁当を持って来てアヤナと一緒に食べるつもりだった。
すると、イアンに一緒しようと誘われた。
「レアンがベンチを取っているから、四人で食べようよ!」
「ありがとう」
アヤナがすぐに返事をしたので、四人で一緒に持って来た弁当を食べることにした。
「どんなものを持って来たの?」
「僕のはチョコレートとピーナッツバターを塗ったものだよ」
「僕のはチョコレートだけ。一つ交換しない?」
全員でサンドイッチを交換して、それぞれのサンドイッチについて感想を言うことになった。
「コランダム公爵家の料理長は偉いね。栄養を考えている」
「野菜も肉もはいっているよね」
「ルクレシアがどんなサンドイッチにするか考えて作らせることもあるらしいわ」
転生前の知識を活用。
この世界では珍しいとなり、喜ばれるものもある。
アルード様がモリモリ食べていたマヨタマゴトルティーヤのように。
「どうやって考えるのかな?」
「ルクレシアは料理なんてしなさそうだよね。焼肉も木の実も美味しかったけれど」
学祭でも古城での宴会でもちゃっかり私が焼いたものを双子は食べていた。
「火魔法は活用しにくい魔法って言われているわ。でも、料理に活用できるのよ」
コランダム公爵家の料理長もパティシエも火魔法の使い手。
強力な火魔法が使えなくても料理人として就職。修行を重ねて公爵家の料理長やパティシエになったことを教えてくれた。
公爵令嬢が料理人として働くことはなさそうだけど、火魔法を料理に活用できることがわかったのはとても大きいと思った。
「学祭のために料理長にあぶり焼きを習ったのよ。だから、本番でもうまく焼けたでしょう?」
「そうだったのか!」
「事前に練習していたのか!」
「当たり前でしょう? 公爵令嬢の私が黒焦げの肉を焼いたら醜聞だわ! 名誉にかけてそんな失態は許されないのよ!」
「わかる」
「わかるよ」
「料理長やパティシエと話した時に、栄養や食材の知識があるのはいいと思ったのよ。それで私も本を読んで知識を蓄えて、新しい料理を考えることにしたの。でないと、料理長や他の料理人たちの考えたメニューばかりになってしまうわ。好きなものを食べたいでしょう?」
「そうだね。好きなものが食べたいよね」
「今日の僕たちも好きなものをリクエストしたから」
「美味しいわ。チョコレートのサンドイッチ。私は好きよ」
アヤナは双子が持って来たチョコレートサンドを気に入った。
「もちろん、コランダム公爵家のサンドイッチも美味しいわ。こっちがメインと前菜なら、チョコレートサンドはデザートね」
「デザートなら別にあるわよ」
「ダメよ!」
アヤナが私の手を止めた。
「これは私のリクエストよ! だから、私に決める権利があるわ!」
アヤナはチョコレートタルトを取り出した。
「チョコレートタルトだ!」
「美味しそう!」
「食べたいでしょう? だったら、私に呼び捨てでもいい許可を出して! 取引よ!」
「チョコレートタルトで呼び捨ては釣り合いが取れないよね?」
「さすがに無理だよ」
「いいのよ。これはチョコレートタルトを奪われないための策略だから!」
私も双子も納得した。
無理難題にすることで諦めさせるつもりなのだと。
「そう言われるとちょっと……抵抗したくなるね?」
「アヤナの策略通りになるなんて嫌だよね」
双子の言葉は検討の余地があるということだった。
「でもさすがに呼び捨ては無理だ。僕には伯爵家の者だっていうプライドがある」
「チョコレートタルトで取引したら、笑われてしまうよね」
「私から別の提案をするわ」
私は別の方法を思いついた。
「今日はランチに誘ってくれてありがとう。ベンチで食べることができたし、おしゃべりを楽しめるランチタイムになったから、お礼としてタルトをあげるわ。これからは友人として仲良くしてくれないかしら? 別に断ってもいいのよ。タルトはランチに誘ってくれたお礼だから関係ないわ。友人にしてくれるかどうかはゆっくり考えておいて」
「さすがルクレシア、大人だなあ」
「大人だよねえ」
双子はにやにやしながらアヤナを見つめた。
「私は子どもでいいの! 未成年だしね!」
「アヤナ、これでいいでしょう? 帰ったらまたチョコレートタルトをたくさん作るように言うわ。私の考えに賛成してくれるならたくさんのチョコレートタルトを食べることができるわ。イアンとレアンが私たちを心配してランチに誘ってくれたのはわかっているでしょう? お礼を言うのがマナーだわ」
「そうね。ありがとう。これはお礼としてあげるわ」
アヤナはイアンとレアンにチョコレートタルトを渡した。
「やったー!」
「アヤナも優しいね!」
双子はまだサンドイッチを食べ終えていないのに、すぐにチョコレートタルトを食べてしまった。
「美味しい!」
「美味しいね!」
「食べれば奪われないね!」
「安心だよね!」
なるほど。
「アヤナのやり方はよくない。でも、友人になるのは悪くないと思うよ」
「僕もそう思う。身分差はあるけれど、アヤナはアルード様の婚約者候補だしね。友人になっておくのはいいよね」
打算的に思えるけれど、お互い様でもある。
「個人的な意見だけど、アヤナの後見人がコランダム公爵家になってよかったと思った。スピネール男爵家は金銭的な援助が欲しい。アヤナをお金で売り渡すようなことになるかもしれないって心配していた」
「クラスメイトだし、長期休みの招待でも一緒だった。大人の事情に巻き込まれて、お金で売られるような状態になったら可哀そうだから」
「私もまさかコランダム公爵家が手を差し伸べてくれるとは思っていなかったのよ。ルクレシアが婚約者候補だったら、絶対になかったわね。でも、病気のせいなら仕方がないわ。ルクレシアと親しくしていたから同情してくれたのだと思っているわ。長期休みの時も面倒をみてくれたしね」
「ルクレシアのおかげだよ」
「アヤナはルクレシアに感謝しないとだね」
「ありがとう。ルクレシア。お礼としてアルード様の情報を仕入れるわ! 属性別授業で一緒だしね!」
「スパイがいるよ!」
「明らかだよね!」
「そっちこそ、私たちのことを調べにきたスパイじゃないの?」
スパイ同士のなすりつけ合いが始まった。
「もしアルード様と話すことがあったら、私は大丈夫って伝えておいて。アヤナもね。一緒に暮らすことになって良かったわ。アヤナが貧乏で苦労しているのはわかっていたし、魔法学院や勉強のことについても相談し合えるわ。妹ができたようで嬉しいの!」
「同じ年齢でしょう?」
「双子と一緒よ。年齢が同じでも顔が違う双子だっているわ」
「そうだね!」
「双子はいいよ!」
イアンとレアンが賛同してくれた。
「双子と双子みたいな姉妹のランチタイムだ!」
「楽しいね!」
二年生になって二日目。
これからどんなふうになるのかわからないけれど、きっと楽しい時間がたくさんある。
そう思えるランチタイムだった。




