80 緊急お茶会
「ちょっと! 待ちなさい!」
帰るために馬車乗り場に向かっていると、エリザベートとマルゴットが走って来た。
「ハウゼンで緊急のお茶会をするわ! 二人共来なさい!」
「マルゴットも一緒なの?」
「そうよ。四人でお茶をするの」
「嫌そうだけど」
マルゴットは表情をしかめていた。
「当たり前でしょう? 私は土属性でアルード様の婚約者候補なのよ? だけど、ルクレシアとアヤナがいるなら平気って思うことにしたわ」
本当はハウゼン侯爵家に行きたくないけれど、話はしたいということらしい。
「無理をしなくていいのよ?」
「絶対に行くわ! 三人でこそこそ何を話すかわからないもの!」
「三人より四人ってことみたいね」
それぞれの馬車があるので、三台の馬車を連ねてハウゼン侯爵家に向かうことになった。
「わかっているとは思うけれど、レベッカのことよ!」
エリザベートは怒っていた。
「婚約者候補になった途端、チヤホヤされちゃって!」
「生意気だわ!」
そういう系の話だった。
「しかも、ルクレシアのグループを乗っ取ったのよ?」
「最低ね!」
「それは違うわ」
両親に言われてグループから抜ける人が多くいたため、残った人が不安になったり嫌な思いをしたりしないように私はグループを解散することにした。
グループリーダーだったからこそ、グループメンバーのことを考えた。
レベッカも自分を支持してくれる人だけを集めればいいのに、私のグループだった人でレベッカのグループに入りたい人を受け入れてくれると約束してくれた。
サブリーダーだったレベッカも、グループメンバーの今後を考えている。
婚約者候補のことは王家が決めたことで、事前にコランダム公爵家にもスピネール男爵家にも話がなく、突然の発表だった。
きっとアクアーリ伯爵家も同じ。レベッカも両親からいろいろと言われてつらい立場になっている。理解してあげてほしいと話した。
「ルクレシアは優しいわね。いつからそんな優しくなったのよ!」
エリザベートは怒っていたけれど、私の説明を聞いたことで少し落ち着いたようだった。
「大人の事情に巻き込まれたのはわかるわ」
レベッカとは親しいほうであるマルゴットは理解を示した。
「グループを抜けて自分のグループを作るだろうとは思っていたのよ。レベッカにはそれができるわ。サブリーダーとしての経験もあるしね」
私もそう思う。
「だけど、ルクレシアのグループを乗っ取るなんて卑劣だと思ったのよ!」
私は悪役令嬢。私が悪く思われるのはゲーム的におかしくない。
そういう補正もあるだろうと思う。
だけど、レベッカについては私が余計なことをしてしまったかもしれないと感じた。
「私がグループを解散したせいで、レベッカが誤解されてしまったようね。だから、エリザベートとマルゴットから誤解だってことを広めてくれない?」
エリザベートは上級貴族の令嬢、マルゴットは下級貴族の令嬢への影響力がある。
二人が誤解だと広めれば、貴族の令嬢はそれを知ることになるだろうし、それが平民の女性にも伝わっていくはずだと思った。
「二学年からは勉強も大変になるわ。属性勉強が増えるでしょう? だから、お願い。レベッカがグループのことで悩んで勉強できないと困るわ」
「むしろ、そのほうがいいと思う人もいるはずよ」
エリザベートが言った。
「アクアーリ伯爵家は大した家柄ではないもの。スピネール男爵家なんか没落寸前よ? レベッカとアヤナが婚約者候補に選ばれたのは、魔法学院での成績がいいからに決まっているわ!」
「私もそう思うわ。女子の成績五位までの女性は夏休み、冬休み、春休みに招待されたでしょう? あれで婚約者候補にしていいかをチェックしていたのよ!」
「そうかもしれないわね」
アヤナもその考えに同意した。
「冬休みは礼儀作法の勉強だったじゃない? 一人だけ平民がいたから」
「そうね」
「初心者のためって感じだったわ」
「私はスピネール男爵令嬢だけど、実際は養女。元平民よ。冬休みに招待された平民と同じように礼儀作法ができていなくてもおかしくないわ。まあ、独学で勉強していたけれどね」
アヤナはスピネール男爵家の人に教えてもらったわけではなく、マナー本などを読んで勉強したらしい。
「仰々しいとか古臭いとか散々スピネール男爵家の人にケチをつけられたわ。だけど、王宮ではそれがいいみたいね?」
「アヤナの礼儀作法はできているわ。基本はね」
「そうね。状況次第だから、本に載っていないことについては無礼にならないよう対応する経験を積むしかないわ」
「普段からもっと礼儀作法に気を付ければいいのに」
「図々しいわよね」
「そっちだって同じよ! 五十歩百歩だわ!」
互いに遠慮はしない。
夏、冬、春の長期休みを一緒に過ごした仲間だという感じがした。
「それで、ルクレシアはどうするの?」
「アヤナと二人だけでランチを食べていたでしょう? よかったら二私のグループに入らない?」
「ダメよ! 私のグループに入りなさいよ!」
エリザベートが激高した。
「そのために屋敷に呼んだのよ!」
「私だってそのために来たのよ!」
争い出す二人。
「どうする?」
アヤナが尋ねて来る。
「自分のグループを解散したばかりだわ。しばらくはアヤナと二人でいいと思っているの。コランダム公爵家が後見人になったから仲よくしたいし、両親からもアヤナの面倒を見るように言われているのよ」
「ルクレシアはコランダムの監視役なのよ」
「お目付け役でしょう? コランダム公爵家の名誉がかかっているわ!」
「そういうことだから、放っておいてくれる? コランダム公爵家の機嫌を損ねるわけにはいかないのよ。屋敷を追い出されてしまうわ!」
日常的なマナーの練習も必要ということで、アヤナはコランダム公爵邸に住むことになった。
「仕方がないわね。気が変わったら言うのよ?」
「いつでもいいから」
「それより、春の流行について話しましょうよ」
無難な話題を上げてみた。
「ルクレシアが魔法以外の話題を言うなんて!」
「また変わってしまったの?」
「ちょっと……貴族らしい話や年頃の女性らしい話だってするわよ!」
「私も知りたいわ。コランダム公爵家が服を用意してくれるのは嬉しいけれど、どこが流行しているのかさっぱりわからなくて。学校は制服があるから私服の流行がわからないでしょう?」
「任せて! 私の得意分野よ!」
マルゴットが胸を張る。
「衣装のテストだったら私が一位ね!」
「私だってわかるわ! 一位は私よ!」
また揉めだした。
なんとか私とアヤナで修正し、衣装の流行やお菓子の流行について会話をする。
細かい部分はとりあえず、大まかには年頃の女性らしい話題に興じる時間を過ごすことができた。




