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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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67 バレンタインデー



「ルクレシア様、ありがとうございます!」

「嬉しい!」

「やったー!」

「さすが公爵令嬢!」

「太っ腹です! いえ、スタイルは抜群です!」


 特級のクラスメイトたちは喜んでくれた。


 ランチタイムにグループメンバーにも配った。


「ルクレシア様からいただけるなんて!」

「嬉しいです!」

「大事に食べます!」

「家宝にします!」


 グループメンバーも喜んでくれた。


 でも、まだ渡せていない相手がいた。


「アルード様」


 下校時間、馬車乗り場に向かうアルード様に声をかけた。


「何だ?」

「これを」


 アルード様には特別なチョコレートを用意した。


 婚約者候補なので、他の人と同じチョコレートを贈るわけにはいかない。


「他の人に渡したのとは違うので目立ってしまいます。なので、あとで渡そうと思いました」

「目立たないほうがいいと思ったのか?」

「そうです。他の人のチョコレートと比べられてしまいます。いろいろ言われるのがわかっているので」

「アヤナたちは堂々と教室でくれたが?」

「そうですけれど、そのせいで休み時間が……お話中に割り込むのはまずいと思って」

「受け取れない」


 アルード様から衝撃の一言。


「このような場所で隠れるように渡すのはおかしい。婚約者候補であれば余計にそうだ。教室で堂々を渡すべきだった」


 私は言葉が出ない。


 確かにエリザベートやマルゴットは堂々と教室で渡していた。


 でも、二人は自分以外の女子がアルード様に渡すチョコレートにケチをつけていた。


 アヤナが渡したチョコレートにも毒々しい包装紙だと言ってからかっていた。


 私もチョコレートを渡したら絶対に何か言われてしまう。


 でも、クラスメイトとは仲良くしたいし、喧嘩もしたくない。


 だから、エリザベートやマルゴットがいないところで渡そうと思った。


「エリザベートやマルゴットを気にしていることはわかる。比べられたくない。できることならクラスメイトとして親しくしたいのだろう? だが、チョコレートは別だ。ルクレシアはクラスメイトやグループメンバーに配った。優しい配慮だと感激した者もいただろうが、自分はその他大勢の一人だと思った者もいただろう。なぜなら、全員同じ品だからだ」


 全員に渡すチョコレートを同じ品にすることで公平にすれば、それは特別ではないことの証明とも言える。


「イアンは自分からもらいに行った。同じ箱のチョコレートがたくさんあるとわかったからだ。全員に同じものを配るなら早くもらった者のほうがより特別ということになる」

「あっ……」


 私は気づいていなかった。


 近くにいる人から渡そうと思っていたので、自分から来る人以外はそうした。


「だが、ルクレシアからチョコレートを受け取った時、本心としては嬉しくなかっただろう。イアンはルクレシアと親しくなりたがっていた。学祭でも身分の高い者がいて困っているのではないかと心配していた。病気の時にも見舞いに行った。だというのに、何もしていないクラスメイトと同じチョコレートだった。嬉しいわけがない」


 私はうなだれることしかできない。


「感謝の気持ちは大事だ。だが、ルクレシアに尽くした者と何もしない者を同じにしてはいけない。尽くした者にはふさわしいものを与えるべきだ。私は王子だ。私に尽くしてくれる者に報いたい。報わなくてはならないし、それが務めでもある。だからこそ、ルクレシアのしたことは許せない。間違っている」

「申し訳ありません。配慮が足りませんでした」

「そのチョコレートは別の者に渡せ。最もルクレシアに尽くした者か、最もルクレシアが好意を持つ者のどちらかだ」


 アルード様はそう言うと歩いて行ってしまった。


 私は廊下に立ち尽くした。


「渡せなかったって言ったら両親がなんていうか……」


 私は深いため息をついたあと、コランダム公爵家の馬車で王宮に向かった。





「こちらを渡したくて」


 私はアレクサンダー様に面会した。


 水曜日ではなかったけれど、バレンタインデーの贈り物を届けることは伝えていたので、面会できた。


「チョコレートか?」


 アレクサンダー様は箱を嫌そうに見つめながら尋ねた。


「ピスタチオのチョコレートです」

「受け取る」


 良かった! 


 なぜなら、


「実はお願いがありまして……ヴァン様に会うことはできないでしょうか?」

「無理だ」

「では、アレクサンダー様からヴァン様にチョコレートを渡していただくことはできないでしょうか?」

「用意してきたのか?」

「そうです」

「私に渡したのと同じものか?」

「リボンが違います」


 アレクサンダー様は紫。


 ヴァン様は緑。


 属性の色にした。


「中身は一緒か?」

「いいえ。何味がお好きかわからないので、普通のチョコレートです」

「普通のチョコレートで満足すると思うのか?」


 そう言われると……満足しなさそう。


「でも、変わった味ではないという意味での普通です。品質が普通ということではないのですが?」

「もう一つある。大きい。それは誰に渡す?」


 アレクサンダー様は紙袋に残っている箱に視線を移した。


「アルード様に渡すつもりでしたが、受け取れないと言われてしまいました」

「カードか何かが入っているのか?」

「ないです」

「では、それに変えればいいのではないか? 王子用なら特別なチョコレートのはずだ」

「でも、特殊な味なのです。お気に召さないかもしれません」

「何味だ?」

「プリン味です」


 しばしの沈黙。


「なるほど。王子用らしい」

「なので、ヴァン様には普通のチョコレートを」

「ルクレシアが決めていい。だが、本当に普通のチョコレートでいいのか?」


 そう言われると……困ります!


 私は深いため息をついた。


「わかりました。特別なほうにします。でも、アルード様に渡すものだったことは秘密にしてください。絶対にヴァン様は怒ります!」

「普通のチョコレートも置いていけ。本人にどちらにするか選んでもらう。そうすれば中身がどのようなものであっても選んだ者の責任だ」

「さすがアレクサンダー様です! 頭が良いです!」

「バカか? 私は王太子殿下に仕える魔導士だ。この程度のことは普通に思いつく」

「そうですね! 常に優秀さが溢れています!」

「帰れ。忙しい」

「はい。失礼いたします!」


 私はコランダム公爵家に帰った。


 夕食時、両親から特別なチョコレートについて聞かれた。


「アルード様は喜んでくれたか?」

「喜ばないはずがないわよね!」


 好物であるプリン味のチョコレート。


 喜んでほしくてパティシエに頼んで作ってもらったのに、渡せなかったとは言いにくかった。


「アルード様にチョコレートを渡す人があまりにも多くて……」

「そうだろう。王子だからな」

「当然よね」

「なので、中身について説明できませんでした」

「そうか。まあ、食べればわかる」

「そうね。きっと大喜びだわ!」

「間違いなくルクレシアの評価は上がるだろう」

「上がらないわけがないわよ!」


 高らかに笑う両親。


 私はその笑顔を壊したくなくて、うまく話題を変えることにした。




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