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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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65 冬休み



 私の熱はなかなか下がらなかった。


 白魔導士に回復魔法をかけてもらうと楽になるけれど、しばらくするとまた熱が上がってしまう。


 別の白魔導士か魔法医に診察と合わせて総合的な判断をしたいと言われ、両親は別の白魔導士と魔法医を呼んだ。


 その結果、私は魔力放出症という病気だと診断された。


 魔法を使っていないのに魔力が同じように放出されてしまい、体に負担がかかって熱が出るらしい。


 長時間魔力を出し続けるようなことをしているとなりやすいらしいので、学祭で肉を焼くためにずっと火を出し続けたのが原因かもしれないとなった。


「とにかく魔力も魔法も使わないように。魔力が減るほど疲労感が強くなり、最悪の場合は命にかかわります」


 そんなふうに言われたら怖くなってしまう。


 魔力や魔法を使わないようにして安静にしていればいいだけなので、私は魔法学院を休む間、教科書を読む勉強に専念した。


 意外と休む期間が長く、ようやく通学できると思ったら期末テストの予定が発表された。


「もう期末テストなんて……」


 エリザベートやアヤナからノートを借り、私のグループの人から火属性の授業の話を聞いて、できるだけのことはした。


 でも、期末テストは難しかった。


 火属性のテストは一位だったけれど、座学の成績が悪かった。


 今回は男女別の授業で男子のほうの平均が低かったせいで、総合順位の上位に女子が多くなった。


 ベルサス様が相変わらず一位だけど、二位はアヤナ、三位がエリザベート、四位がレベッカ、五位がマルゴットだった。


 私は十位。


 ずっと休んでいたのに総合十位なら誇っていい、むしろ魔法学院に行かなくても結構大丈夫であることを証明したなんて言われたけれど、アヤナたちと差がついたのは順位で示されている。


 出席日数が少なくなったので、冬休みは補習を受けるよう言われてしまった。





「魔法を使いたい……」


 再発すると困るため、魔力や魔法を使うのは極力禁止。


 魔法の練習も当分は控えないといけない。


 魔法の練習ばかりの日々から真逆の状態、魔力なしの人と同じ生活になった。


 寂しくてせつない……。


 魔法に恋をしたのに失恋してしまった。


 そんな風に思える冬休みだった。





 三学期。


 久しぶりに会うクラスメイトたちは元気で楽しそうだった。


 当然だけど、冬休みはどのように過ごしたのかという話題になる。


 私は自分の冬休みがつまらないものであることをわかっていたのでさっさと白状し、アヤナたちの話を聞いた。


「王宮に招待されたの?」


 女子の成績で総合五位までの人が招待されたらしい。


「ルクレシアが呼ばれていなくてびっくりしたわ」

「招待する人が期末テストの順位で決まったなら仕方がないわよね」

「そうよね」

「夏休みと同じです」


 アヤナ、エリザベート、レベッカ、マルゴットは招待されたため、夏休みに引き続き王宮で冬休みを過ごした。


「五人目は平民だったわ」

「王宮内のマナーなんてわからないでしょう?」

「それでマナー講座を全員で受けたの」

「私たちが受ける必要はないと思えるような内容でした」


 王宮内でのマナーについてみっちり教わるような講義を受けたらしい。


 ようするにまたしても勉強のための招待。


「みんなで楽しく過ごせたなら良かったわ」

「楽しくなんかないわ」

「勉強三昧よ?」

「マナー講座だなんて」

「今更です」


 エリザベート、マルゴット、レベッカは上級貴族だけに幼い頃からマナーについてはしっかりと学んでいる。


 アヤナと平民の女性、マルゴットとレベッカで話をしていたので、一人だったエリザベートはかなりイライラしていたらしい。


「ルクレシアがいないとつまらないわ!」


 きっと私がいれば一人でイライラする必要もなかったとエリザベートは思ったみたいだった。


「三学期の期末テストでは絶対に五位に入るのよ! いいわね?」


 エリザベートが圧をかけてくる。


 凄む感じがアレクサンダー様に似ている。


 やはり兄妹だと思ってしまった。





 帰る途中、アヤナに声をかけられた。


「魔法関連の本で頼みたいことがあるのよ」

「うちに来る? お菓子を用意するわよ」

「お菓子目当てで行くわ」


 コランダム公爵邸に着くと、アヤナは早速秘密の話があると言った。


「冬休みに王宮に招待されるのはゲームのイベントなの」

「そうなのね」


 ゲームのことをすっかり忘れていた。


「悪役令嬢も取り巻きも招待されていて、いじめられるのよ。それを好感度の高い攻略相手が助けてくれるはずなのに、ルクレシアがいなくてびっくりしたわ!」


 悪役令嬢がいなければいじめられない。


 それだと好感度の高い攻略相手から助けてもらえない。


「とりあえず、一番関係なさそうな平民と仲良くしていたのよ。そうすればエリザベートやマルゴットやレベッカからいじめられるか仲間はずれにされて、イベントが発生するかもしれないでしょう?」

「なるほどね」


 悪役令嬢はいなくても、ゲームにおける悪役令嬢の取り巻きにいじめられれば同じような感じになるとアヤナは考えた。


「イアン様、レアン様、カーライト様からルクレシアのことをあれこれ聞かれたわ」


 三人は王宮に私が招待されていないとわかり、相当怒っているのではないかという話をしていたらしい。


「アルード様とも話したわ。ほぼ光魔法のことだけど。少しだけ魔法を教えてもらったし、冬休みのイベントが発生したことを考えても、好感度は悪くないみたい」

「良かったわね」

「全体的に一学期よりも好感度が上がっている気がするのよね。だから、二学期のテスト結果も良かったのかも?」


 アヤナ曰く、ゲームでは攻略対象者との関係が良好だとテスト結果も良くなる。


「アヤナが勉強したからではないの?」

「確かにルクレシアに負けないよう勉強したわね。絶対にディアマスで一番の光の魔導士になりたいから!」


 ヴァン様の教え子になれなかったことを根に持っていそうだった。


「ディアマスは光の国。光属性の使い手は優遇されるし、大切にされるわ。私の人生を変えるには全ての光魔法を使いこなせるようにならないとね!」


 全ての光魔法……。


 私は火魔法が得意だけど、全ての火魔法を使いこなせるようになりたいとは思っていなかった。


 どんな魔法があるのかに興味があるし、さまざまな魔法が使えたら便利で良さそうと思っていた。


 だから、アヤナが自分の得意な光魔法をとことんつきつめ、その能力を最高に向上させようとしていることに心を打たれた。


「アヤナならできるわ。主人公だもの」

「そうよ! 私は主人公! この世界の中心よ!」


 そうだと思う。


 そして、私は悪役令嬢。


 どんなに頑張っても主人公に負ける存在のような気がしてしまった。


 だけど、それは主人公と攻略相手を巡って争った場合。


 アヤナと争うようなことにならなければいいだけだと思った。


「ところで、ルクレシアにいつもの確認よ。好きな人はできた? 今回は嫌いな人も聞いておくわ。新キャラが登場したでしょう?」

「好きな人も嫌いな人もいないわ。新キャラって誰なの?」

「アレクサンダー様」

「ああ……」


 確かにそれっぽい。


「ルクレシアにとっては一条件クリアじゃない?」

「一条件クリアってどういうことなの?」

「大人よ。二十三歳だから」

「そうなのね。確かに成人しているから大人……えっ? 二十三歳?」


 私はあることに気づいて驚いた。


「エリザベートより七歳も年上なの?」

「そうよ。魔力がある人ほど子どもはできにくいから。それがこの世界の常識よ」

「そうなのね」

「だから、十五歳で結婚相手を考えるのは別におかしなことではないのよ? 十八歳で結婚しても、魔力持ちの人はすぐに子どもができないかもしれないでしょう? 一人目のこともが生まれてから七年かけて二番目の子どもがようやく生まれるぐらいだって思うと、どれだけ大変かわかるわよね? 早く結婚したいのも条件の良い相手を早く確保したいのも普通じゃない?」

「そうね」

「この世界は結婚に対して早くから真剣に考えているし、特に魔力が豊富で身分の高い人ほどその傾向が強いわ。だから、十八歳になったら結婚相手を考えるというのは、魔力なしの人ならともかく、魔力が豊富で貴族のルクレシアが言うのはおかしいことになるわ。今は勉強が優先というのは大丈夫。でも、結婚は遅くてもいいって言うのは絶対にやめたほうがいいわ。非常識ってなるから」

「わかったわ」

「ルクレシアがどう思うかに関係なく、周囲はどんどん恋愛とか結婚のことで動いているわ。あとから変更しようと思ってもできなくなるかもよ? 後悔しないようにね」

「気を付けるわ」

「じゃあ、この本を購入して。ちゃんと便箋に書いたわ。新しい本だから、図書室には絶対にないわよ」


『必見! 貴族流恋愛アプローチ 最新版』

『見逃していない? 彼からの極秘アピール!』

『身分差恋愛 両想いになる秘訣、教えちゃいます!』


「これを買うの……?」

「この世界の常識を知るには本を読まないとね! じゃあ、よろしく!」


 アヤナが帰ったあと、使用人に本のタイトルを書いた便箋を渡した。


 じっと見られてしまい、恥ずかしくて仕方がなかった。


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