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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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59 教え合い



「疲れたわ……」


 私は床にぺたりと座り込んでしまった。


「発動させることができないのに、どうしてこんなに疲れるのかわからないわ……」

「集中して魔力を動かそうとするからに決まっているでしょう?」


 エリザベートは当然だと言わんばかり。


「大体火魔法は大雑把なのよ。適当に火を出せば勝手に燃え広がってくれるわ。でも、雷は違うの。適当ではダメよ。雷が伝わる範囲をしっかり考えないといけないの!」

「細かい魔法と言いたいわけね」

「繊細と言いなさい! 雷にも大きなもの、小さなもの、太いもの、細いもの、長いもの、短いものというように様々な種類があるのよ。でも、それは初歩。高度になるほど扱いが繊細になるから難しいのよ!」


 雷が繊細だなんて……。


 エリザベートの言葉は私にとって意外だった。


「雷って……繊細ってイメージがないのよね」

「そのせいでできないのよ!」


 私の失敗続きにエリザベートはかなりイラついていた。


「雷でよく見えるのは一部だけなの! 一番大きい部分、太い部分、長い部分が見えるでしょうね。でも周囲には小さくて細くて短い雷の筋が数えきれないほどあるのよ!」

「確かにそうね……」


 私のイメージとしては、太い雷がズドンと空から落ちていく感じだった。


 でも、その雷の周囲には無数の筋が流れて放電が起きている。


「木があるとするでしょう? 普通は太い幹の部分に目が行くわ。でも、太い幹からは太い枝や細かい枝があって無数に分かれていくわ。それと同じ。雷も一つに見えて一つではないの。無数に分かれているのよ」

「言いたいことはわかるわ」

「私の雷をもう一度見なさい!」


 エリザベートが魔法を使った。


「一筋に見えるけれど、実際は細かい筋がいくつもあるわ。勝手に目や意識が細かい筋をないものとして捉えてしまっているだけなのよ。はっきりとした一筋の周辺も全部雷の範囲内。空気の中に雷の力が伝わっているのよ!」

「そうね」


 ようやく雷というものが少し見えてきた。


 手本として雷を落としながら説明してくれたエリザベートのおかげで。


 私はエリザベートの教えてくれたことを頭にも心にも留めながら必死に練習した。


 その結果。


「できたわ!」


 雷魔法を発動させることができた。


「やったわ! ついに! 雷魔法も使える可能性を証明したわ!」


 私の指先にとても細くて弱々しくて短い電流のような雷が発生するのが見えた。


「そうね。正直、ムカつくわ。でも、良かったわね」


 エリザベートの口調は相当な刺々しさ。


 でも、ずっと付き合わされているので、当然だと思う。


「ありがとう! エリザベートのおかげよ!」

「そうよ。私のおかげだってことをよーく覚えておきなさい! でも、これで雷魔法が使えるようになったなんて勘違いしないで。あまりにも恥ずかしいわ! まぐれってこともあるのよ!」

「そうよね」

「とりあえず一息入れなさいよ」

「でも、今の感覚を忘れたくないわ! もう少し!」


 私はもう一度雷魔法を使った。


 発動しない。でも、諦めない。


 何度も繰り返す。自分の力を信じて。


「またできたわ!」


 まぐれの一回ではないことが証明できた。


 何度も繰り返すほど、雷魔法の発動率が改善されていく。


 私は雷魔法に夢中だった。




「疲れたわ……」


 さすがに集中力が切れた。


 エリザベートを見ると、私と離れたところで浮遊魔法の呪文を唱えていた。


 でも、浮いていない。


 エリザベートが私に気づいた。


「休憩?」

「そうよ。浮遊魔法はまだまだのようね」

「練習はしているわ。子どもの頃からずっとずっとずっーーーーーーっとね!」


 相当苦労しているようだと思った。


「私もそうだったわ。必死に練習しているのにできなくて、無理かもって思ったわ」

「無理ではないわ。お母様は風の系譜だもの。絶対に私にも使えるわ!」


 両親から資質を受け継いだと信じられることはとても大きい。


 きっとできる。必ずできる。その想いが魔法の成功につながる。


「予感はするのよ。もう少しだって感じが。でも、浮かないのよ。一ミリもね!」


 一ミリ?


 私は気づいた。


「一ミリでいいの?」

「えっ?」

「エリザベートはどれぐらい浮きたいの? それをイメージしている?」


 エリザベートはハッとした。


「していないわ……」

「曖昧に浮かぶというイメージではダメよ。もっと具体的にここまでっていうのがないと」


 私は周囲を見回した。


「ここには段差がないわ。段差がある場所でこの上に乗るまでとか、はっきりとわかるような目安があるといいのよ。そこまで浮かぶっていう具体的なイメージができるから」

「そうなのね……」

「階段とかでもいいけれど、私は自分のベッドの前で練習したわ。浮遊魔法で浮いてベッドに乗るのよ。ベッドの高さまで浮くってこと」

「なるほどね。それなら確かに具体的な高さがわかりやすそうだし、使えるようになったら実際にそうすることができるわね」

「階段とか、馬車に乗る時とか、とにかく日常生活の中で浮遊魔法を使いまくっているわ。それでだんだんと安定してきたわ」

「もう完全に習得しているの?」

「ちょっとした段差は問題ないけれど、高い場所はまだまだ。調整も難しいわ。上がることはできても、下がるのがものすごく難しくて」

「そう聞いたわ」

「私が目安になってあげる」


 私は浮遊魔法をかけると宙に浮いた。


「このぐらいはどう?」

「見下ろされて嫌な感じ」


 エリザベートらしい感想だと思った。


「もう少し下げるわ」


 ぐらぐらしながら高度を下げた。


「ぐらぐらじゃない!」

「そうなのよ。まだまだ練習中なの。でも、きっとスムーズにできるようになるわ。母親が風の系譜のエリザベートのほうがこういうのは得意かもね。両手を出して」

「両手を?」

「上ではなくて、前よ。私のほう」

「こう?」


 私はエリザベートの両手を取った。


「浮遊魔法をかけるわ」


 エリザベートの体がふわりと浮いた。


「あっ」

「待って! 落ち着いて! 私を見て! バランスを取ってくれないと、私も共倒れしてしまうわ!」

「安定感がないわけね。それではエスコートはできないわ。男性じゃなくて良かったわね」

「そうね。でも、こうやって浮けば同じ場所にいるみたいだし、ぐらぐらしにくくなるわ」

「そうね」

「落とすわよ」


 浮遊魔法を消すと、エリザベートが真下にストンと落ちた。


 でも、三十センチぐらいなので問題はない。


「階段で二つ分ぐらいかしら。ここまで浮くイメージをするの。難しければ、私が浮遊魔法を使うわ。その時の感覚を覚えておいて、できるだけしっかりとイメージしてみて」

「ルクレシア先生の登場ね」

「エリザベート先生のおかげで雷魔法を使えるようになったから、私もエリザベートのために協力したいのよ」

「もう一回、浮遊魔法をかけてくれる?」

「わかったわ」


 私はエリザベートに浮遊魔法をかけた。


「消して」


 エリザベートが下に落ちる。


「やってみるわ。今の感覚が消えないうちに」


 エリザベートが呪文を唱える。


 すると、


「あっ!」


 わずかに浮いた。でもすぐに消えてしまい、バランスを失って倒れそうになった。


「危ない!」


 助けようと手を出した私はエリザベートと頭をぶつけた。


「痛い!」

「痛いわ!」


 最悪だと思いながら頭を抱える。


「大丈夫? 私は回復魔法を使えないわ」

「知っているわよ!」


 互いにぶつけた場所をさすって痛みが引くのを待つ。


「余計なことはしないで! 支えようとしてぶつかるほうが危険だわ!」

「そうね……でも、浮いたわね?」

「そうね!」


 エリザベートの表情が明るくなった。


「ほんの少しだけだけど、バランスを崩す程度に浮いたわ!」

「浮くことができれば、あとは練習よ。浮くまでが一番大変というか、心がつらいから」

「そうね。言葉にできないくらいつらかったわ」

「このあと百回連続でやっても浮かない場合もあるわ。でも、浮いたことがあるのは事実。諦めないで。百一回目に浮くかもしれないわ!」

「そうね!」


 エリザベートは頷いた。


「ありがとう。コツがわかった気がするわ。ここは確かに何もない平面の場所だから、高さを意識した浮遊をするのは難しいわね。でも、具体的にどの程度浮くのかをイメージすることが大事だってわかったわ」

「私も最初はわからなかったのよ。でも、教えてくれる人にどのぐらい浮くのかって聞かれて気づいたの」

「そうなのね」

「誰でも最初はできないわ。でも、エリザベートはもうできたのよ。あとは確率を高めて、しっかりと浮くことができるようにするだけよ。頑張って!」

「ルクレシアの雷魔法も同じよ。頑張りなさい!」


 私とエリザベートは頷き合った。



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