60 怖い昼食会
お昼になった。
私は午前中で帰るつもりだったのに、ダメだと言われた。
「一緒に昼食を取りなさい。断るのは許さないわ。失礼よ!」
大人しくエリザベートと一緒に昼食を食べることにした。
案内された場所は食堂。
噓でしょう!
ハウゼン侯爵夫妻、アレクサンダー様がいた。
「お父様、お母様、お兄様、ご存じだと思いますが、クラスメイトのルクレシア・コランダムです。今日は魔法の勉強をするため、特別に彼女を招待しました」
「ルクレシア・コランダムです。本日は由緒あるハウゼン侯爵家への訪問をお許しいただき、心からお礼申し上げます」
「よく来ることができたな?」
そうですよね……普通は。
「勇気として評価する」
えっ? 良い方に評価してくれるの?
「ルクレシアと呼ぶが、構わないな?」
「はい」
「着席を許す。食事をするように」
「光栄です。寛大なご配慮に感謝いたします」
私はエリザベートの隣の席に座ることになった。
「招待した理由はアレクサンダーから聞いた。勉強ははかどったのか?」
ハウゼン侯爵が聞いてきた。
「はい。かなりはかどりました」
エリザベートが答える。
「かなり? 説明しろ」
そう言ったのはアレクサンダー様。
「私は浮遊魔法の練習をしていました。ようやく浮きました!」
「そうか!」
「さすが私の娘だわ!」
ハウゼン侯爵夫妻が瞬時に満面の笑みを浮かべた。
「どの程度浮くことができた?」
アレクサンダー様は冷静なまま。
「階段で二段分ほど、三十センチぐらいでしょうか。ルクレシアが具体的に浮遊する高さを決めてイメージしなければ浮かないと教えてくれました。ルクレシアも高さのイメージを明確な目標にしていなかったので、浮かない状態が長く続いたようなのです」
「なるほど」
「同じところでひっかかっていたのね」
「魔法ができない理由は千差万別。そのせいで何がダメなのかに気づけない場合もあります。偶然、私とルクレシアは同じだったようです。ルクレシアの克服方法を聞いたあとで試すと、すぐに浮くことができました」
「本当に惜しいところまできていた証拠だ!」
「そうね! わずかなことが邪魔をしていただけなのよ!」
「浮遊魔法をより向上していく日々の練習についても教えてもらったので、私も同じように試してみようと思います」
「どんな方法を教えてもらった?」
「まずは寝室で、ベッドの高さまで浮いて乗るという反復練習をしたそうです。人目につきにくいので、失敗しているところを見られにくく、自分だけで練習できるので落ち着いて取り組めるそうです」
「そうだな」
「とてもいい練習方法だわ!」
「発動率が上がったら、階段や馬車の乗り降りでも練習したそうです。でも、未熟なうちは上がる練習だけにしないと危ないと言われました。階段から落ちそうになったことがあるそうです」
「安全な方法で練習するように!」
「そうよ! エリザベートに何かあったら困るわ!」
「ルクレシアに教える方はどうだ?」
アレクサンダー様が尋ねた。
「私の教え方が上手でしたので、ルクレシアは雷魔法を発動させることができるようになりました」
「おお! さすがエリザベートだ!」
「エリザベートのおかげね! ルクレシアもよかったわね!」
「……ありがとうございます」
エリザベートを褒めるのはわかるとして、エリザベルのライバルである私にハウゼン侯爵夫人がよかったと言ってくれたのは意外だった。
もしかすると、ハウゼン侯爵夫妻は私のことをそれほど悪く思っているわけではないのかもしれない。
「どうせ貧相なレベルだ」
アレクサンダー様は厳しい。
でも、雷と風を使いこなす優秀な魔導士からみれば、貧相なレベルなのは事実。
「ルクレシアは努力しています。私よりもあとから練習を始めた浮遊魔法を先に使えるようになりました。同じ年齢でアルード様の婚約者同士、何かと比べられてしまいますが、私はルクレシアとクラスメイトになることで、これまでは知らなかった一面を知ることができました。さすがに雷の魔法使いにはなれないと思いますが、小さな雷は護身用に使えます。練習してみても悪くはないと思います」
かばってくれた……エリザベートが!
私はそれだけで胸がいっぱいになってしまった。
「エリザベートも努力家です! エリザベートはハウゼン侯爵家の令嬢としてふさわしい才能と強く大きな可能性を持っています! 魔法学院で学ぶことで、その才能が美しく開花すると思います!」
私もエリザベートのこと、いかに頑張っているのかをクラスメイトとして伝えたかった。
「雷属性の授業に出た時、エリザベートはリーダーとしてチームをまとめていました。初戦の作戦が見事に成功したのはエリザベートのおかげです。あれでチームは完全にまとまりました」
「私もそう思ったわ。絶対に初戦を勝って士気を上げたかったのよ」
「二戦目は苦しい戦いになりました。ですが、エリザベートの鼓舞によって全員が粘り強く頑張っていました」
「本当に苦しかったわ。攻撃しても邪魔されてばかりだったわ」
「相手チームの生贄役だったイアンが的確な指示を出していたからです。エリザベートは魔法を撃ち、動き回りながら指示を出していました。指揮の出しやすさにおいて不利でした」
「そうね。でも、三戦目はやり返したわ!」
エリザベートは私に笑顔を向けた。
「ルクレシアの作戦で一発大逆転だったわ!」
「そうですね。ですが、基本的には初戦と同じです」
問題は相手が警戒して邪魔をするので、同じようにできないこと。
そこで相手の警戒を解き、邪魔をしないようにするための状況を作ったことをエリザベートが説明した。
「楽しかったわ。あのゲームから雷属性の授業を選択している生徒たちとの交流も増えたわ。人数が多くないでしょう? だから、テストではライバルだけど、普段は仲が良いのよ」
「友人が多いのは素晴らしいことです。一生の財産になると思います」
「お父様、お母様、お兄様、ルクレシアと友人として交流することをお許しいただけないでしょうか?」
突然、エリザベートが申し出た。
「私とルクレシアはアルード様の婚約者候補です。そのせいで交流ができませんでした。ですが、魔法学院に入学したこと、クラスメイトになったことで親しくできると感じたのです」
私は嬉しくて仕方がなかった。
「エリザベート、私も」
「待って」
エリザベートは私の言葉を抑えるように言った。
「最後まで聞いて」
「わかったわ」
「家の事情、家族の事情、王宮や社交界での事情があることは重々承知しています。ですが、私は魔法学院で三年間学びます。他の者に勉強を邪魔されたくありません。ここだけの話ですが、私とマルゴットが仲良くするのは無理でしょう。雷と土だからです」
でた。属性論。
「マルゴットは最近レベッカやアヤナに近づこうとしています。自分の味方を増やしたいのは明らか。見過ごせません。私は自分の才能にも力にも自信がありますが、数による優位性を覆すのが大変であることをわかっています。ですので、ルクレシアという強い友人がほしいのです。ご検討いただけないでしょうか?」
エリザベートらしい言葉だった。
ただ友人になりたいというだけではない。
魔法学院の状況を考え、自身の立場や優位性を確立するためのものだと説明した。
「そうか。雷も風も火との相性は悪くない。個人的に親しくできるのであればいいが、ハウゼンとコランダムの関係は悪い。危うさをはらんでいることを忘れるな」
「そうよ。こちらがどう思っても、向こうは向こう。コランダム公爵家の考えと合わなければ、対立することになるのはわかっているわね?」
「はい。ですので、今は魔法学院に通う間と考えています。勉強に励む期間ですので、それを邪魔する者を排除することで協力し合うだけです」
エリザベートはアレクサンダー様のほうを見た。
「お兄様はどう思われますか?」
「検討する」
「ありがとうございます」
ようやく話が終わった。
「それで?」
エリザベートは私の発言を止めたことを忘れていなかった。
「私にも家族やコランダム公爵家の事情があるけれど、魔法学院ではクラスメイトとして仲良くできればと思っているわ。離宮に招待された時にはどうなるかと思ったのよ。でも、皆で一緒に食事をしたり、話し合ったり、とても楽しかったわ。またあんな風に過ごせたらと思っているのよ」
「私も楽しかったわ」
エリザベートはにこりともしないけれど、冷たい感じはしなかった。
「水泳の授業がね。あのゲームも白熱したわ!」
「ボールのゲームでしょう? プールではない場所でしてくれればいいのに。それなら私も参加できたわ」
「学祭でそういうゲームがあるかもしれないわ」
「そうね。楽しみだわ」
「お父様、お母様、お兄様、学祭のことはご存じのはず。どのような催しやお店があったのかご教授いただけませんか? 実行委員がアルード様なので、良い案を出したいのです」
「そうか」
「そうねえ」
ハウゼン侯爵夫妻は次々とアイディアを出した。
「でも、やっぱり一番の思い出は対戦よね!」
「非常に刺激的だった!」
ハウゼン侯爵夫妻は同じチームのメンバーとして共闘したとのこと。
「どのようにして勝ったのかを教えてやろう!」
自慢話に花が咲いた。




