3話 魔女の尋問
遅くなりまして申し訳ありません。暫くはこんなペースが続くかも……
「と言っても、尋問なんてモノはした事がなくてね。どうすれば、全部吐いてくれるんだい? やはり、圧倒的な実力の差を見せつければ良いのかな」
リーヴルがゆったりとした足取りで男の方へと歩み寄る。途端、眼帯の男の全身に降り注ぐあまりにも強大な圧力。それに耐えかねたように、男は一歩、また一歩と退いていく。
「チッ……やるしかねえか」
男は本能的に動こうとする脚を無理矢理抑え、ゆっくりと剣を下段に構える。
「おぉ、向かってきてくれるとは丁度良い。立場の違いを分からせることが出来るというものだ」
男が、意を決したように地を蹴った。左右に足運びを散らしたような独特の歩法で間合いを詰め、手首を返してリーヴルの首に切先を合わせる。
「ふッ……!」
地面を裂き、刃が風を切って迫り上がる。対するリーヴルはそれを一瞥すると、右足を一歩引いて半身になる。それだけで剣は斬るべき対象を失い、ただ虚しく空を切った。
「先程の者たちとは比べ物にならない、良い剣だね。でも……まぁ、大した問題ではないか」
リーヴルが左手を掲げ、指で弾くような動作をする。途端、男の体が凄まじい勢いで後ろに吹き飛ぶ。そのまま彼はリーヴルの築いた壁に激突した。男が剣を取り落とす。
「がはッ……!?」
「大人しく全てを吐いた方が、お互いにとって幸せだと思わないかい? 僕に勝てない事が分からない程、君も馬鹿じゃないと思うけれどね」
リーヴルが左手を男の方へと翳し続けている間、彼の体は壁へと押し付けられている。ともすれば肋骨がへし折れるかという重圧に耐えかね、男の口から苦悶の声が漏れ出た。
「さぁ、教えてくれ。君の主人は誰なんだ? そしてどんな命令を受けているんだい?」
「悪いが、答える気はねえぞ……」
「ふぅん……まだ足りないか。随分と粘り強いね」
リーヴルが開いた右手を虚空に掲げる。するとその動作に呼応するように、辺りに転がっていた小石がふわふわと浮かび始める。
「そう言えば、古来より投石による尋問なんてものも行われていたらしいね。実際に効果があるのか、試してみようか?」
リーヴルがぱちんと指を鳴らす。その号令に合わせて、浮遊した小石が一斉に男の元へと飛び込んでいく。
「ぐッ……」
頬、肩、腹、脚、腕……男の全身の至る所に石礫が着弾し、痛々しい痣を形成していく。しかしその一つ一つの威力は男の命を奪うには到底足りず、ただただ痛みを与えるだけに終わる。
「さぁ、もう一度聞こう。君の主人は誰で、君はどんな命令を受けているんだい?」
「だから答えるつもりは……ッ!?」
男が最後まで言い終わる前に、リーヴルがさっと左手を横に振る。すると男の体もまたそれに呼応するように横に投げ出され、別の壁に正面から激突する。
「おっと、君があまりにも口を割らないものだから手が滑ってしまった。でもまぁ、これじゃあまだ話してはくれないんだろう? ほら、まだ続けるよ」
リーヴルは半ば楽しむかのように、腕を右へ左へと振る。その度に男の体は壁へと叩きつけられ、まるでボロ雑巾かのような形相までに成り果てる。
「さて、これが最後のチャンスだよ。君の主人は誰? その目的は何? 答えなければ申し訳ないが君を殺さないといけない。裏に誰かがいる事自体は間違いんだ、僕の手間が増える以上のメリットはないよ」
リーヴルが左手を下ろすと、男は勢いを失って地面に投げ出される。その傍には、既に生気を失った仲間の亡骸。
「……悪いが、やはり言う気はねえな」
「そうかい。それじゃあ心苦しいけれど……っ!?」
男が、突如跳ね上がってリーヴルへと肉薄する。その手に握られているのは、亡くなった男が持っていた片刃の剣。
「まだ向かってくるか! 流石に想定外だね」
男がリーヴルの喉元に向けて剣を突き込む。彼女は僅かに身を捻って躱すと、再びその手に一本の剣を顕現させる。
「そんな君に敬意を評して、こっちでやり合ってあげよう。光栄に思いたまえ」
リーヴルが一歩踏み込み、未だ突きを放ったままの体勢の男に切り掛かる。大上段に振りかぶりつつ、とても自然な所作のまま軌道を変え、男の腹部へと横薙ぎに剣を振るう。男は辛うじてそれを受け止めるが、金属音と共に大きく体勢を崩す。
「たかが小娘の膂力だと油断したかい? 残念だがそう力も捨てたものではないよ、僕は」
リーヴルは威嚇するように虚空に剣を振るうと、彼我の距離を無造作な足取りで侵す。
「はぁ……どいつもこいつも滅茶苦茶しやがって、魔女共は!」
歩み寄るリーヴルへと、男が斬りかかる。難なく弾かれる。再度斬りかかる。再び弾かれる。幾度繰り返せども、彼女にその剣が届くことはない。
「悪くはないんだけど、少し単調なんじゃないかい? これでは──」
続く男の剣に先回り、リーヴルが剣を振るう。するとそこに吸い寄せられたかのように、男の剣が振りかぶられる。互いの斬閃が交わり合い、男の剣が宙へと放り出された。
「──簡単に動きが読めてしまうよ。さて、勝負ありだ」
振り切った剣を引き、男の心臓を一突きする。鮮血が迸り、辺り一面を赤く染め上げた。
「ぐふッ……」
「これでもう、君は死ぬわけだけど……最後に一言だけでも教えてくれるかい? 君の上にはどんな人物がいるんだ?」
男は口の端から血を垂らしながら、ぼそっと呟く。
「はぁ、仕方ねぇか……お前と同じ、"魔女"が……い……」
そこまで言って、男は力を失ったようにばたりと倒れ込む。森に、久方振りの静寂が訪れた。
「魔女……まぁ、予想はしていたけどね。厄介なことになりそうだ……」
剣に付着した血液を振り落とし、リーヴルはそう嘆息した。




