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プロローグ

週一〜隔日くらいの頻度で書き進めて行こうと思います。拙い文ではございますが、何卒よろしくお願いいたします。

 満天の青空、若々しい緑で満たされた森。柔らかな風がさらさらと木々を揺らす。彼方には山が天高く聳え立ち、正に絶景と呼ぶに相応しい画を作り上げていた。そんな美しい森の中、木陰に腰を下ろす少女が一人。


 見た目は十代後半といったところだろうか。整った顔立ちからは幼さが抜けきっておらず、金のショートボブの髪も相まって愛らしく見える。服装はゆったりとした白に金糸をあしらったアカデミックドレスで、華奢な肢体に貫禄を持たせていた。


 そして何よりも目を引くのは、少女の手の上に開かれた一冊の巨大な本。閉じても少女の顔をすっぽりと覆える程の大きさの本には、びっしりと走り書きの文字が記されていた。そして現在も、少女の握る羽根ペンによって新たに文字が綴られている。


 彼女の名は、リーヴル=エクリストール。若くして数多くの賞を取り、今や知らぬ者はいないとまで言われる稀代の天才作家である。彼女は事あるごとに街を出て森に来ては、こうして作品のアイデアを書き連ねているのであった。


「この場所は初めて来たけど、中々良い景色じゃないか。ここでなら良いインスピレーションを得られそうだ」


 リーヴルは軽く辺りを見回しながら呟く。その間も、羽根ペンを執る手が止まることはない。綴られているのは一見すると纏りのない、落書のようにも見える言葉たち。彼らが如何なる意味を持ってそこにいるのか、少女の他に知る者はいない。


 ふと、少女がペンを墨壺に立てて手放す。そして傍に置いてあった大きな革の肩掛け鞄から、小さなグラスを一つ取り出した。当然、その中には何も入っていない。


 続いて少女は、開いていた本の頁をぱらぱらと遡り始める。全ての頁が一面の文字列で満たされている中、ある一箇所を境目に全ての文字が途絶えていた。彼女はそこで頁を捲る手を止める。


「《グリモワール》」


 リーヴルがそっと頁に手を翳して呟く。その言葉は彼女だけに許された、この世界に奇跡を齎す呪文である。


 次の瞬間、先ほど取り出されたグラスの中に、僅かに白く濁った液体が湧き出てくる。そしてそれに呼応するように、綴られていた文字がゆっくりと光に変わり、虚空へと消えていった。


 本に綴られた文字を対価とし、常軌を逸した奇跡を起こす。これが、彼女に許された魔法だった。


 リーヴルが生み出した液体を口に運ぶ。その正体は単なるレモネード。彼女の大好物であるが、それを口にした本人は浮かない顔をしていた。


「うーむ……やはり、自分でこうして作ってもあまり味は良くならないね……。想像力(イメージ)が足りていないのかな?」


 グラスに残ったレモネードを見つめながら分析を続けるリーヴル。


「……《グリモワール》!」


 再び、呪文を唱える。すると、突如として彼女の目の前に光の玉が現れる。それは尾を引いて空高くへと飛んでいき、昼には似つかわしくない花火を咲かせた。


「こういうものだったら、僕も容易にイメージが付くんだけどね。美味しいレモネードを作る、という行為がこうも難しいとは……つくづく、料理人という職業は恐ろしい」


 ぼやきながら、グラスに残っていたレモネードを一気飲みする。出来に納得がいっていなかったとはいえ好物は好物だったようで、少女の表情が僅かに綻んだ。


「さてと、そろそろ行こうか。帰ったら地獄の原稿作業だ……もっとクールに、素早く終わらせたいのだけれどね」


 リーヴルは立ち上がると、尻に敷いていた大きな布をばさばさと振って砂を落とし、取り出していた物を全て鞄に仕舞う。後に何も残されていないことを確かめると、体のサイズには合わない鞄を肩にかけて歩き始めた。

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