両様
遅れてご飯を食べたあと僕たちは一度に集まった。
というのもエリウスさんが話をしたい、と僕たちを集めたのだ。
「今日は心配をかけてすみませんでした」
深々と頭を下げて彼女は謝った。
「気にすんな~。ウジ虫に絡まれたりとかしてなくてよかったよ」
ドバルが食後のゼリーを食べながら笑った。
僕もそれに頷く。
モンスターに襲われたりもしなかったようだし。
「それで、わざわざ謝るために呼んだの?」
暖かいみんなの声の中にメリッサさんがつまらなさそうに口を開いた。
エリウスさんはごめん、と再度謝って話を続けた。
「その、あそこにいた時に声が聞こえたんだけど、ここの近くに星水の原水が見つかったって。本当に少しらしいんだけどウジ虫が動いてるんじゃいないかなって思ったの。原水は私たちじゃ何もできないけどウジ虫には気をつけたほうがいいと思う」
ここの近くでも原水が発見された、か。
エリウスさんの言うとおり原水を発見しても僕たちができることはほぼない。
もう見つかっているのならなおさら、誰かの所有物になっている可能性が高い。
それにわざわざウジ虫に会いに行きたいとも思わないが、近場ならすでに動いているかもしれないので気をつけるに越したことはないと思う。
「そうですね。向こうも僕たちのことは気にしているでしょうしなるべく静かに動いたほうがいいかもしれませんね」
といっても施設を破壊するのなんて僕たちくらいだから静かに、なんて難しいのだが。
「で、それを聞いたのはいつ?」
僕の言葉にみんなが頷く中、メリッサさんは深追いするようにエリウスさんを睨み付けた。
「え、んと…よく覚えてない」
「それを聞いてあんたはすぐに帰ろうとは思わなかったの?」
「おい、メリッサ」
気まずい雰囲気を察してダイチさんが間に入った。
しかしメリッサさんは不敵な笑みを浮かべてじっとエリウスさんを見ていた。
「いくら家に偶然帰ってこれたからといっても時間忘れるほどいるかしら。…あんた、ウジ虫のやつに会ってたんじゃない?」
「会うわけがないよっ!!」
エリウスさんは顔をしかめながらメリッサさんを睨み返した。
ドバルもメリッサさんの言葉に怒ってか二人の間に入った。
「メリッサ、さすがに言いすぎだぞ。どうしたんだよ」
皆に見つめられメリッサさんは深くため息をついた。
「会ってないのならいいのよ。私はただラズ様を心配させたから怒ってるだけよ。それじゃ寝るわ~。ラズ様、夢の中で待ってるわ」
メリッサさんはラズさんにウインクをして部屋を出て行った。
僕にはメリッサさんがそこまで疑う理由がわからなった。
家の状況を見るになにやら訳ありみたいだったし長居してしまうこともあると思う。
色々考えているとラズさんが僕の方へ来た。
「夜も遅い、明日に備えて寝るとしよう。…エリウス」
ラズさんの声に下を向いていたエリウスさんが顔を上げた。
「あまり気にするな。メリッサの方が無言で失踪したり多いだろう。疑えばきりがない。ただ、約束は守れ。仲間に心配をあまりかけるなよ」
「…はい」
そう答えるエリウスさんの顔は曇ったままだったが僕たちはそれぞれの部屋に戻ることになった。
今日のエリウスさんとの同室はドバルだったので僕個人としてはとても安心していた。
部屋に戻っても僕はなんだかもやもやしてずっと窓辺の方で唸っていた。
「…エリウスさんのことですか?」
それを見かねてか奥のベッドで横になっていたライルさんが頭もとにおかれたライトをつけてベッドに座った。
「あ、すみません。僕もそろそろ寝ます」
申し訳なくなって僕はベッドに向かった。
「そうじゃないんです。私もなんだか心配になってて家の事情は言いたくないこともあると思うから無理に聞こうとかは思わないんですけど、それでもやっぱりあんなに元気がないエリウスさんは放っておけないなって」
「僕もです。エリウスさんの笑顔に沢山助けられてますしね…」
ライルさんと同じ気持ちということもあるが、メリッサさんの言葉も妙に閊えた。
先日の怪しいウジ虫のことを気にしているだけとは思えない。。
それに何か確信がなければいくらメリッサさんでもあそこまで言わないと思う。
疑うわけではないが一応エリウスさんの行動を見ておくべきだろう。
もしかしたら僕のせいで彼女の弱みを使って脅されるかもしれない。
「あの、ラズさんのところに一緒に行きませんか?」
黙り込んでしまった僕にライルさんが提案をする。
エリウスさんについて何か知ってることがあるのではないかと聞きに行こう、と言っているのだろう。
僕はうなずいてライルさんとラズさんの部屋へと向かった。
ラズさんは部屋で剣の手入れをしていた。
同室のダイチさんが自分のベッドに僕たちを座らせてくれる。
「あの、エリウスさんのことが心配で何か知ってることあれば教えてほしいんです。何か力になれることあるかもしれないって思ったら黙ってらなくて」
ライルさんがラズさんの顔色をうかがいながら用件を尋ねる。
ラズさんは手を止めて小さくため息をついた。
「俺もできることがあればとっくにやっているよ」
少し悲しそうな顔をベッドの脇に置いてあるライトがほんのりと映す。
「実はエリウスの家については全く知らないんだ。俺から聞くこともなかったが自分から好んで話すことはなかったからな」
ラズさんもかなり心配しているようだった。
「そうなんですね。私たちにできることないのかな…」
ライルさんも顔を下に向ける。
落ち込む僕らを励ますかのようにダイチさんが口を開いた。
「エリウスの家は五人家族だよ。三人兄弟の末っ子で、上はお姉ちゃんとお兄ちゃんがいるらしいけど会った事はないな~」
そういえばグズル国王も上の子は元気かと聞いていた。
「病院に来てるときも家族の話はしてなかったし、入学式でも誰かと一緒にいたって記憶はなかったかな。ただ入学と同時にいくつか上の学年に転校生が同じクラスに一気に二人入ったって話聞いたからそれが兄弟なんじゃないかな。本当は俺と同じ学校にずっといるはずだったんだけど…親父が俺と仲良くしてるのが気に食わなかったみたいで7歳のときに根回しして引越しさせたんだ」
知ってるのはこれだけ、と手を広げた。
僕は顎に手を当てた。
「つまりエリウスさんのご兄弟は年もそこまで離れているわけではなく双子、または義兄弟ってことですね」
ダイチさんがうなずく。
「ここに住んでいて何かしら事件があり家がああなってしまった…その事件が何かわかればいいのですが」
僕らが考え始めようとするとラズさんが首を振った。
「気にはなるがあまり詮索するのもどうかと思うぞ。知られたくないこともあるだろう」
僕はうなずきながらもひとつの可能性を考えていた。
「それもそうですね…考えていることが杞憂ならいいのですが」
ライルさんが立ち上がり二人に頭を下げた。
「お話しありがとうございました。色々考えたんですけどいつも通りエリウスさんに接するのが一番ですよね。明日にはこの村ともさようならだし、また元気になってくれますよ~」
「そうだな」
話もまとまり、僕たちは二人に再度お礼を告げ、また明日と挨拶をし部屋に戻ろうとドアに手をかけたときだった。
「二人とも落ち着けって!!」
向かいの部屋―ドバルとエリウスさんの部屋からドバルの大きな声が静かな宿屋に響いた。
僕たちは急いで部屋へと向かった。
僕がドアを開けるとラズさんが走って部屋へと突入する。
「エリウス!」
室内では窓が開き、そこに翼を生やしたエリウスさんが真っ暗な外へと羽ばたこうとしているところだった。
そしてそんな彼女を寝る直前だったのだろう、髪を結ばずラフな格好のメリッサさんが拘束魔法で捕らえていた。
「メリッサ離して!私…ちゃんと帰ってくるから!」
「あんたね、いい加減にしなさい!!」
必死に二人を落ち着かせようとしていたドバルが困ったのか僕を見つけるとすぐさま駆け寄ってきて事情を説明してくれた。
「急にエリウスが用事があるから出かけるって窓を開けたんだけど、窓にメリッサが魔法をかけてたみたいで」
それで今の状況ということか。
「誰が夜に窓からお出かけするってのよ。王子様にでも会いに行く気?」
皮肉たっぷりメリッサさんが冷たく言う。
エリウスさんは顔を暗くしながらメリッサさんをじっと見つめていた。
その表情は少し悲しげに見えたのは彼女の周りに明かりが少ないからだろうか。
「だんまりなの?いつも大事なこと黙って勝手にやる癖あるわよね、あんた。また事後報告なの?それでいいのかしらね」
「エリウス…」
ラズさんが近づく。
「今どうしてもしないとならないことなのか?」
彼女は少し考えてから深く頷いた。
ラズさんはしっかりとエリウスさんの顔を見てメリッサさんの肩を叩いた。
「メリッサ、離してやれ」
「ラズ様!?もしウジ虫のやつらと絡んでたら…っ」
「エリウスがやりたいことならやらせてやれ。お前だって本当は信じてるんだろ?」
メリッサさんは目をそらすと指を鳴らして魔法を解除する。
自由になったエリウスさんはしばらく窓辺にたたずんでいた。
「メリッサ…ごめんね」
そういうと彼女は暗闇の中へ飛び去って行った。
しばらくの沈黙のあとドバルが口を開いた。
「メリッサ、なんでエリウスが窓から出て行くとわかってたんだ?」
「さぁね。あんたの弟ならわかるんじゃない?」
腕組をしながらギロッと僕をにらむ。
予想はつくけど真意はわからないんすけど…相変わらず人使いが荒い人だなぁ。
「と言われましても…」
僕が言葉を濁すとメリッサさんは待ちきれなかったようで僕たちに背を向けて歩き出し、ドアに手をかけたところで足を止めた。
「ドバル、エリウスが行っていた原水のありか。それがどこにあるかわかる人と二人だけで行ってみて…私が行っても何もしてあげられないから」
そういい残すと勢い良く部屋を出て行った。
「ちょっと、メリッサ!」
ダイチさんが僕たちに目でメリッサは任せてと伝えて後追っていった。
「わ、私も一緒に行かせてください」
ライルさんがダイチさんの手を強く握った。
「うん、一緒に行こう」
ライルさんは嬉しそうな顔をしてダイチさんと部屋を後にした。
彼らの後姿にラズさんが軽く頭を下げるとドバルと僕の前にやってきた。
「うちの団員が迷惑をかけてしまってすまない。団長としても仲間としてもまとめられず恥ずかしい限りだ」
「そんなの気にするなって。仲間だし、俺たちも助けてもらってるからお互い様さ」
「その通りです。さて、問題は原水の場所なんですが」
僕にはその場所がどこにあるかわかった。
ドバルが僕の言葉を最後まで聞かずに出立の準備をする。
僕はわざと
「まだわかる、なんて言ってませんよ?」
と言うとドバルはドアの前で右手の親指を立てた。
「そういう時はもうわかってるんだろ?ほら、行くぞ」
そんな態度のドバルが憎たらしいと思いつつも嘘つけないなと感じた。
僕はラズさんの不安そうな目をじっと見て頷いた。
「大丈夫です。メリッサさんが二人で行けって言ったのにも意味があると思うので。…なんて言葉が合うのかわからないけど、任せてください」
色々な気持ちをこめて僕はそう言った。
ラズさんは僕とドバルの顔を見て頭を下げた。
「エリウスを任せた。何があるかわからない、二人も気をつけてくれ」
それを聞いて僕たちは部屋を出た。




