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図書館

 本日2話目。昼頃って言ったのに夕方になってしまいすいません……。

 教室で呼び出されたので学園長室まできたのだが、学園長がなんかニヤニヤしている。


 ……まあ、じゃがいものニヤニヤと違って見てても嫌悪感が湧かない。


 むしろもっと見ていたい!!


 さすがに声には出さないけど。 


「で、どうじゃった?」


「どうじゃったとは?」


「A組の事じゃよ。続けれそうかな?」


「無理です」


 仕方ない。皆が皆じゃがいもみたいな奴じゃ無いのは分かる。中には同情的な目をした人もいたし。

 

 でもじゃがいもと同じクラスとか、いつか絶対面倒な事になる。


「ま、そうじゃろうなぁ。君の兄姉達は貴族社会も器用に渡っていけたが、君はそう言うとこはルイスと似ているようじゃからなぁ」


 え?父さん今はバリバリ貴族としてやっていってるけど……。


「父はどんな事したんですか?」


 俺が質問すると、学園長は少し困った顔をした。本当に何やったの?父さんってば。


「ユゥリは知っておるかの?」


「はい」


 たしかギルドマスターの名前だったな。


「なら話は早い。ルイスとユゥリは当時C組での、貴族はまだ地位の無い二人に目をつけ自分たちの陣営に取り込もうとやっきになってなぁ」


 そう言えば二人ともその頃は既に冒険者だったんだろうか?


「ある時ルイスとユゥリを引き入れようとした貴族の中で、ユゥリの種族を知った者がおってな。ユゥリに危害を加えてしまったんじゃ」


 あ、話が読めてきた。そりゃ父さん許さねえわ。


「ユゥリは貴族に手を出すのは不味いと分かっておるから反撃しなかったんじゃが……ルイスが、の?」


「はい。旦那様が貴族の方に報復を宣言しまして、ユゥリ様も結局は一緒に戦ったのですが…………捕縛に来た国の兵士をも全て倒してしまわれました」


 ん?……あれ?話が凄い事になってない?


「まあ、その頃の儂は一介の教師じゃったが、ちょっと儂にはつてがあったんで国王に事の端末を話したんじゃ。

 そのおかげでルイスとユゥリは咎人にならずに済んだし、二人の実力を国王が気に入ってなぁ。

 本当に、今代の国王の物分かりが良くて良かったわい……」


 こうして学園長から当時の話を聞いたわけだが、結論は……学園長マジ何歳?と父さんとギルドマスター、特に父さんが想像以上にやらかしてたって事だな。

 

 それよりも、感想、というか1つ言いたい事がある。


「俺はそこまでしてませんよ!?」


「そうじゃな……分かっとる、分かっとるよ」


「その生暖かい視線!!絶対分かってませんよね!?」


「しかしぼっちゃま……もしミューナ様含めたご家族の誰かが危害を加えられていたらそうならなかった自信はありますか?」


 そりゃじゃがいもがもし手を出していても……あれ?


「脳内選択肢に『たたかう』しか出てこねぇ……!!」


 俺も所詮は父さんの子か……。


「……というか、なんであんなにタイミング良く呼び出しできたんですか?」


 そう、じゃがいもで思い出したけど、明らかに喧嘩勃発間近で学園長が呼び出したんだ。偶然にしては出来すぎている……。


 ……はっ!?まさかこれがご都合主義と言う奴か!!


「いや、実は君が問題を起こさないか覗い……ゴホンッ!!予めA組の監視用魔法装置を起動させておったんじゃ」


 今、覗くって……まあ、監視も覗くもあんまり変わらないし、印象的な問題で言い直しただけだろうな。

 

「まあ、何はともあれ有り難うございました」


「あまり気にせんでよい。儂もルイス君には今も色々と世話になっておるからの。

 それにしても素直に感謝してくれるのは嬉しいが、やはり貴族には向いてないの」


「なんでですか?」


「アルギウス君は多分、ちょっとした事でも素直に誰にでも感謝してしまうじゃろう。

 貴族は下の者にあまり頭を下げてはいけんし、時には自分が悪くても謝ってはいけない時もあるからな」


 言われてみればそうだけど……これ聞いたせいでよけい貴族が面倒くさくなってきたな……。


「して、今回呼んだのは何故か分かるかの?」


「え?じゃがいもとの喧嘩を止める為じゃあ……」


 俺がそう言うと、学園長が不機嫌そうな顔をしてきた。俺なんか不味い事言ったっけ!?


「アルギウス君、あまり人を侮蔑するようなあだ名は付けない方が良い。たしかに今回先に侮辱してきたのはアズラエル君じゃが、だからといって同じ事をするのは駄目じゃ。

 相手の悪いところを真似れば、自分がその相手の悪いところに似てしまうからな」


「すいません……」


 じゃがいもは心の中でだけ呼ぼう。


「まあ、心の中で思うだけなら自由じゃろう。それが適度なガス抜きにもなるはずじゃ。

 ……それに、それくらいなら儂もしておるからの」


 最後に学園長がウインクを飛ばしてきたが、なんと言うか……身体がロリなせいで微笑ましく見えてしまう。


「さて、アルギウス君を呼んだ理由じゃが、あのクラスでやっていけそうかな?」


「無理です」


「……まあ、即答じゃろうな」


「そりゃそうですよ!!あの状態で自然とクラスに溶け込むとか俺のコミュレベルじゃ無理です、既に越えてはいけない一線は越えた後です!! 

 それにあのー、えー、アズ……アズ某君ともやっていける気がしませんし!!」


「わ、分かったから落ち着くのじゃ!!」


「……はい」


「昨日言った事を覚えておるか?」


 なんて言ってたっけ……あ、そういえば言ってたな。


「クラス替え可能?」


「そうじゃ。まあ、殆ど使われる事の無い制度じゃが、今は必要じゃろうしな」


「なんで使われないんですか?」


「もともと大雑把にじゃがA組は貴族、B組は平民、C組は戸籍が無かったり外国の者とある程度分けられておるから、わざわざ自分から今と違うクラスに入りたがる者はいないんじゃ。

 あるとすればアルギウス君のように自分の性格があまりにもその地位と合わない時じゃからな」


「へぇ……」


 じゃあヘリスは貴族クラス……エリシア姉さんと一緒だから大丈夫だとして、ミューナはその他クラス……今のところミューナに関しては戸籍を用意できて無いのか……。


「それでなんじゃが、BかC、または特待生から一般クラスに行くかのどれを選ぶかじゃが……一番やっていけそうなのはBじゃな。それともミューナ君のいるC組かの?」


悩むところだが……少なくともあのメイドさんが付いているならミューナは大丈夫だし、むしろ俺が入るとずっと俺といて友達が作れないかもしれないし……。


 ならこれで決めるか。


「あの……」


「なんじゃ?」


「リオって子はいますか?たしか特待生クラスって聞いたんですけど……」


「リオ様、とは……昨日ミューナ様から聞いたのですが、鍛冶屋にいたという少女でしたか?たしかミューナ様の初めての親友だとか」


 ミューナってば、結構色んな人に言ってそうだな。


「リオ君と知り合いじゃったか。あの子の親友とは……さてはアルギウス君、意外とコミュニケーション能力が高いのかの?」


「いえ、偶然リオがチンピラに絡まれていたのを助けて……て、リオが殺りそうだったのでチンピラを助ける意味もあってですが……。そこから鍛冶屋を紹介してもらって、そこの店主とも仲良くなれたおかげで心を開いてくれたんですよ。

 今思えば結構運の要素が大きかったですけど」


「そうかそうか……じゃが、運を自分のものにできたのは全てアルギウス君の実力じゃろう?運を自分の力で切り開いた事は誇る事であって、今みたいに恥じながら話す事では無いのじゃよ」


 なら、俺にもコミュ力があるって思って良いのか……?


「俺ってコミュ力があるんですかね……?」


「……今回はアルギウス君が、運を自分のものにできたところが一番の要因かのぉ」


「ですよね、はい!」


 いや、一応聞いてみただけじゃん……。だからそんな悲しそうな目で俺を見ないでほしい!!


「リオ君はC組にいたな。なんでも国外から一人で留学しに来たとか」


「てことはミューナと同じクラスって事ですか」


「そうじゃな。ではC組にしておくかの?……このクラスも馴染むのは大変じゃと思うがのぉ」


 ん?今不穏な事言わなかった?


「えーと、そのクラスにもアズ某君みたいな奴がいるんですか……?」


「どうしてもアズラエル君の名前は呼ばない気か……。

 なんと言うか……そう言うのでは無く、C組の生徒と言うのはどうしても辛い環境で育った者が多いからの。一応、特待生になれるほどの才能があるから学園から学費や学園内での生活費は免除されとる。

 ……が、やはり年代的に働き盛りの子ばかりじゃから、家族のいる子は残してきた者の生活が心配なんじゃろう。そこに裕福な貴族なんかと会ってしまうと……の」


 ふぅーむ……まあ、そうなるのは当たり前、か。

 学園長が言っていた生徒の中には、当然家族を失った者もいるんだろう。その中にはお金があれば助かった者もいたかもしれない……ハードル高いなぁ。


「まあ、そのクラスでお願いします。貴族として生まれた以上はそういうのに躊躇してたらいかんでしょーし」


「本当に……アルギウス君は優しい子じゃのぉ」


「アルギウス様がもし旦那様の後を継ぐのなら、さぞや良い貴族になれましょうなぁ」


 んん!?なんか二人から生暖かい眼差しで見られてる!!


「いや、それよりも爺や!!父さんは名誉貴族だから後継げないし、継げるにしても俺は冒険者で生きていくから!」


「ほう、アルギウス君は冒険者になりたいのか、男の子じゃのぉ。

 後、君の家の爵位じゃが、間違いなくいつか上がるじゃろうて」


 なんだと……!?


「そんな簡単に爵位って上がるものですかね?」


「むしろ彼の役職で名誉子爵なのがおかしいからの。

 戦争か大規模な魔獣討伐なんかがあればすぐじゃろう」


「あれ?魔獣討伐なら少し前に近くでありましたよ?しかも親玉も父さんが倒しちゃったし」


 もしかして爵位上がっちゃう……?


「いや、あの程度の規模じゃあならんよ。今回大事になっていたのは、その作戦の時に狙ったように熟練冒険者達が任務でこの国を離れていての。

 その中で見事勝利に導いたユゥリは国から報奨金が出たが、ルイスは職務を無断で放り出して行ったから、むしろ貴族からはマイナス評価をくらったじゃろう。

 ……もっとも国王はその報告を聞いて腹を抱えて笑っとったがの。『ルイスが到着間際に少女の頭突きで瀕死状態になった』とユゥリが報告したとかで」


 そりゃあ、ミューナの頭突きをくらったらな……。

 ステータス的に、俺が受けたら冗談抜きの半死状態になるかもしれない。


「それにしても、熟練冒険者の不在ですか……」


 どうやら爺やはそこが気になるようだ。たしかに不可解ではあるな。


「ユゥリが言うには、今回の作戦はAランク以上は一人もおらず、Bランクの冒険者が数人しかいなかったと言う話じゃ」


 だからビルドさん達もあんなに早く次の依頼に出かけてたのか……。


「変異種の異常発生、熟練冒険者の不在……どこかの国が絡んでいるのはほぼ間違い無いじゃろうな。 

 ……と、そろそろ儂は出かける時間なんじゃった。すまんのぉ」


「いえいえ、お時間を取らせてすいませんでした」


 学園長なんだからこの学園のトップだ。暇どころかむしろ多忙な人なんだから、これだけ話させてもらえてちょっと申し訳ない気持ちだな。


「あ、そうそう。夕方ぐらいまでは授業があるから、図書館なんかでゆっくりしておってもよいぞ。

 ジール、場所は覚えてるかの?」


「はい、まだまだこの学園での事は鮮明に覚えております」


「大丈夫そうじゃの。後、明日までにアズラエル君の件と、クラス替えの件は済ませておくから、明日はC組に行ってくれれば良い」


「何から何まで、ありがとうございます」


「なに、子供がそう気にするでない。……図書館には、授業が無くて暇な教師なんかが来るかもしれんが、その時は色々と教えてもらうのも良いじゃろうな」


「ありがとうございました。もし会ったらお願いしてみます」


 最後にそう言って俺たちは学園長室を後にした。





















「ここか……」


「はい。この広さであれば調べたい事も殆どの場合見つかるでしょう」


 今図書館に着いたわけだが、この場所は学園長室からかなり遠いところにあった。


「こんなところにあったら誰も使わないよな~」


 こんなに広いのに勿体無い。


「この辺りは教師の研究所がある所なので、昔はよく教師の方が調べものをしに来ていましたな」


 へぇ~教師用の部屋とか、大学みたいだな。


 両方見たこと無いけどさ。


「とりあえず調べたい物は幾つかあるし、それ調べてみるか」


 あくまでも俺たちは冒険者だ。地理や植物、魔物なんかの基本的なものから、この世界に普及している武器の種類なんかも見てみよう。

 特に魔獣に関してはスライムを重点的にだ。


「人は殆どいないんだな……」


 図書館の中には司書のおじいさんがいるだけで、後は俺たち二人しかいない。

 先程司書の人に挨拶はしておいたが、反応が薄かった。なにやら本を読んでいるようだし、きっと集中しているのだろう。


「まずはスライムかな」


 ミューナの為にも、早急にスライムの生態をは知っておかないといけないだろう。

 

「スライムスライム……」


 魔物の生態が載った本がある棚は結構近くにあったので、スライムの載っている本を探していく。

 その中にかなり分厚い本を見つけたので見てみると、色んな種類の魔物が載っていた。

 

 まだ製本技術が進んでいないのに、これだけの量が全部手書きと言うのは凄い話だ。いったい何冊作られたのだろう?


「そう言えば爺や、今は一緒にいても何もできないし、何か調べものとかあったら探しにいったら?昼前に入口に集合すれば大丈夫だろうし」


「そうですな。この量の本に触れる機会はあまりありません故、私も今のうちに知識を身につけておきますかな」


 そう行って爺やは行ってしまったが、行き先を見てみるとどうやら釣りや編み物など、いかにも老後の楽しみなんかが載っている棚に行っていた。


 もしかして、そろそろ爺やも使用人を辞めてしまうのか……?もう60過ぎてるだろうしなぁ。


「とりあえず俺もこれを読むか……」


 近くに読書用の大きい机があったので、端っこの椅子に座る。なんか堂々と真ん中の席って座りにくいよね。


 本を開いてスライムの欄までめくっていくが、途中見えた他のモンスターの説明が面白い。なんか著者が実際に経験したような書き方がされてある。

 この世界の魔物の本の著者は皆こうなんだろうか?


「さ……し……スライム……あった」


 魔物の順番が五十音順になっていたので、スライムを見つけるのは簡単だった。


 えーっと……スライムは魔法生物に分類される。


「……魔法生物?」


魔法生物が何か分からないので、本の最後の方のページを開いて見ると、これまた五十音順に重要語句が載っていた。


 どうやら魔法生物とは魔力を媒体に繁殖する生物を指すらしい。

 スライムのページに戻って繁殖法を見てみると、自然の魔力が溜まった所からスライムが発生したり、一定以上の魔力を溜めたスライムが分裂のような形で産むらしい。

 ただし、分裂をしても同じ個体のようではなく、全く別の個体になる事もある事から、スライムが自分の身体で擬似的な魔力溜まりを作り出していると、著者は推測しているようだ。


 えーっと、他には……。


 食事に関しては魔力のみで充分。一応食べようと思えばいくらでも食べられるが、あまり食い溜めの効率は良くないので、大量の餌を見つけた場合は近くを寝床にして、毎日必要な分しか食べない。

 

 あ、やっぱりスライムも寝るのか。


 次はスライムの生態。長いので箇条書きで纏めると、


・スライムの環境適応力は凄く、スライムの種類を全て纏めたら軽くこの本数冊分の量になる。


・高レベルのスライムは野生ではあまりいないが、迷宮にはたまにいるようで、そう言うスライムはかなり強いようだ。

 物理で殴るのは論外で、剣で斬るのも核は完全に守られているからスライムを斬り続けてHP切れの気絶を狙うしか無いのだが、切り取った部位はまた本体とくっつくのでスライムはHPが切れる瞬間まで弱る事は無い。

 

・魔法の場合は、核を正確に撃ち抜くか、身体の大半を消し飛ばすかだが、中途半端に消し飛ばすと、残ったら部位から元の質量まで再生するとか。謎だ。


・低レベルの場合は魔法で半分も消し飛ばせば倒せるし、そこらへんの剣で斬りつけてもスライムの粘液を押しきって核まで届くので凄く弱いらしい。


「うーん、これがミューナにも当てはまるなら、魔法系の攻撃から身を守る防具の方が良いな。となると鋼鉄系の防具は微妙……大剣に布装備、アンバランスだな」


「ふむ、そうだね。たしかにアンバランスに見えるかも知れないが、そもそもアルギウス君は戦場に立つときにファッションに気を使うつもりかい?

 ボクには考えられないけど……1つ良いことを教えてあげよう。他の冒険者だって同じ状況の人はいるものだ。だから余程壊滅的なセンスをしていない限りは目立たないだろうし、そもそも幼い少女が背丈以上の大剣を担いでいたら防具よりも少女の身長と武器に目が行くんじゃないかな?」


「なんでお前がここにいるんだよ……」


「その言いぐさは酷いなぁ、そもそも僕が君の所にいるんじゃなくて、君が僕の所にいるんだよ?」


「え?」


 ルインの言葉に周りを見渡してみると、なるほど、たしかにルインの言う通りだ。

 そこには前来た時と同じ、観葉植物が植えられ、近くには噴水もある庭園の景色が広がっていた。

 そして相変わらずルインの周りには本が散乱している。


「……って、そもそもお前が俺を呼び出したんだろ?」


「まあ、そうなるね。前回は君に植えつけていた切符みたいな物が発動したせいだけど、今回は僕自身の力で呼び出した。だから前と違って好きな時に帰れるよ」


「ありがとうございました。そろそろ帰らせていただきます」


 とりあえずこっちの図書館に続く扉に入れば良いんだろうか?


「わぁーーっ!!ちょっと待ってよ!!まだ全然話をしてないんだけど!?……それに僕が元の場所に送り返す設定になってるから、話を聞いてくれないと帰れないよ!!」


「はぁ……で、話はなんだ?」


 面倒くさいけどここは理性的にいこう。こんな態度をとっているが、未だにルインの正体が分かっていないのだから。


「やけに素直だね……まあいい。今回呼んだのは前の話の続きさ」


「前の話の続きか……」


 まあ、前の話って結局俺の敵は神じゃ無いで終わったからな。


「それで?敵の正体を聞いても?」


 たぶん教えてくれないだろうと思い軽く聞いてみると、ルインは真剣な表情で首を横に振る。


「残念ながら今はまだ君に教える事はできない。だけど神じゃないって言う話はできるよ」


「……とりあえずその話をしてくれ」


「そうだね……まずヘリスの神封之牢獄(コキュートス)からの脱走は敵にバレているし想定済みの結果だ。むしろ敵があえて逃がしたと言っても良い」


「は……?」


 本当にこいつは、いつも簡単に重大な事を言うから困る。

 バレているなら、なんで襲ってこない?


「現在アルギウス君とヘリスが襲われない原因だけど、敵は待っている(・・・・・・・)んだ。君たちにいつか起きるある事を」


「どうせそのある事も教えてくれないんだろ?」


「まーね。……神に関してだけど、彼らは2000年前にはもう敵の支配下に置かれていた」


「そうか……」


「信じられないのは分かるよ。でも君にはまだ重要な事は教えられないし、何か証拠を出したとしても君自身が証拠を証拠と判別できないだろう」


 まあ、俺が何を知ってるかって言ったら、何も知らないとしか答えようがないのは事実だ。


「この話はこれで終わりだね。ごめんね、ボクがアルギウス君に他にも話すには、まだ君には足りない物が多すぎる」


「はぁ……分かってるよ」


 足りないって事と、まだ話を理解できないって事くらいは理解できているつもりだ。


「それじゃ、次はミューナ君の話でもしようか」


「はぁ?」


 たしかにさっきまではミューナというか、スライムの事を調べてたけどさ。


 こいつ、何でミューナの事まで知っているんだ?


「別に君の生活を覗いているとかじゃない。ただミューナ君と言う存在が生まれたのを知っているだけだね。さすがに私生活を覗くのはボクも力の消費が大きいからしたくないね」


「もう突っ込まねぇ……」


「そりゃ手厳しい。ミューナ君だが、神霊だと言うのは知っているかな?」


 たしかミューナのステータスボードにも書いてた気がするな。


「まあ、神霊って事くらいは……」


「神霊とは、神の人外版だ。魔獣なんかが神に至れば神獣だけど、ミューナ君の場合はスライムだ。だから獣ではなく霊と言う字が使われる」


「うんちくは要らない」


「はぁ、せっかちだね……彼女は君から生まれたもう一人の君とも言うべき存在だ。君が現人神だから、彼女も生まれながらに神へと至っているんだ。

 そもそも彼女を生んだのは【眷属化】のスキルのせいなんだけど……このスキルははっきり言って【万物之贄(サクリファイス)】並に貴重なスキルだ。どれくらいかと言うと【万物之贄(サクリファイス)】では取得できないレベル……って言えば分かるかな?」


「そんな物があるのか!?」


「そりゃあるよ。アレだって万能ではない。それどころかアレは完成形ではなくある物(・・・・)へ至る為の鍵のような物だ。決して万能だとは思わない方が良い。

 それに、他の取得可能なスキルも、君が元々取得不可能な物は取得できないし、君の才能、種族に合っていなければ必要な供物の量も増えてくる」


 やっぱり、【万物之贄(サクリファイス)】はそんな簡単な物じゃないよな……。


「まあ、この話も最終的には自分で見つけないと意味が無い話だよ。とりあえずはこれを持っていれば良い。いつか……10年以上後だろうけど必要な時があるだろうね。」


 そう言って渡されたのは……宝石?


「これはボクにとって自分の命と同じくらい……いや、それ以上に大切な物だ。決して手放さないでほしいし、役目を終えたらまた返してほしい」


「分かった……でもなんでそこまでしてくれるんだ?」


 正直そこまでされるような関係では無いし、そもそも彼女から俺に会ってきたんだ。 

 理由が分からない。


「ボクも別に赤の他人に優しくできるような聖人じゃ無いさ。ただ、いつか君はボクと肩を並べて歩んでくれると信じているからね……せいぜいそれまで死なないでくれよ?」


「それってどういう……」


「いつか、君自身が知り、君自身で判断する事だよ」


「まあ、どっちにしろ俺は俺の為の未来を選びとる。俺が選んだ先にお前がいるようにせいぜい期待しとけ」


「それで良い。ボクの持論だけど……運命、を信じないわけじゃないが、自分の手で変えられる程度の物だと思うからね、君が運命に翻弄されない事を祈っているよ」


 こいつ、初めて良いこと言った気がする。


「それとその本なんだけど、シロによろしくって伝えといてもらっていいかな?」


「シロ?」


「その本の著者」


 俺が現実の図書館で読んでいた本を指して言うから、著者か何かかと思ったが、著者の名はミリア・レスターと書いてあった。


「シロじゃなくて、ミリア・レスターって名前だぞ?」


「本名じゃなくてペンネームってやつさ」


「会えたらな」


「ボクの友達だし、君に会えば彼女は分かるよ」


 ルインの友達だから俺と会えば分かるって……


「なんで俺とお前が関係あるんだ?」


「おっと、これは失言だ。じゃあ、またねー」


「うぉい!それくらい教えてくれても―――」


 段々目の前が真っ白になっていく……。














 






「良いだろ……ちっ」


 視力が戻ると、そこはもう学園の図書館の中だった。


「ぼっちゃま、どうされたのですか?」


 俺の声を聞き付けて、爺やが心配してしまったようでこっちへやって来た。


「いや、何でもない……」


「そうですか……そろそろ昼食の時間ですね。皆さまより先に食堂に行きましょうか」


「ああ……え?」


 もしかして今回は時間が経ってたのか?


「何でもない」


「……?そうですか、ではまいりましょうか」


 ルインの事はとりあえず今日の晩にでも考えよう。


 俺は手に持っている宝石の感触をたしかめながら、そう決めたのだった。


 ……あ、これアイテムボックスに入れとこ。

 最近、感想無いなー(チラチラ)


 誰か感想送ってくれるなんて事は……まさかね!!(涙目チラチラ)

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