変異種殲滅戦3
言い訳はしません、遊んでました。ごめんなさい!!
……途中放棄は絶対しませんよ?
「すぅ……すぅ……はっ!?」
ここは……。
何となく、今の状況の整理を早急に、迅速に、とにかく急いで整理しないといけない気がする。
ヘリスとミューナを寝かせる。戦場なので俺は見張り番。今起きた……
……あっれぇ。
とにかく助かった。魔物にバレても、冒険者にバレても、即badendだったんだから……、冒険者にバレる方が断然ましだけども。
「そういや今何時…………あっ」
時計とか持ってない……!!どれだけ寝たか分からないって事は、冒険者や魔物がどこら辺まで来ているのか全く分からない状態になったって事か。
ピーンチ……。
「おーい、ヘリス、ミューナ起きろー」
とりあえず考えていても仕方ないし、二人を起こそうと肩を揺する。
思考放棄では無い……。
「んぅ……?おはようございます……」
「おはよう、ヘリス」
やっぱりヘリスは寝起きに強い。ただたんに、しっかり者な性格のせいかも知れないけど。
「ミューナー、ミューナー起きろー」
「んー!!…………」
威勢の良い声とは裏腹に、寝起きが悪いミューナは弱々しく起きた。目もしっかり開いてない、ていうか完全に閉じてやがる……。
「よし、少しだけ腹ごしらえしたらもう少し歩くか!」
実のところあまり腹は空いていない。不幸中の幸運か、どうやら俺が寝ていた時間はそれほど長く無かったみたいだ。
では何故腹ごしらえをするか?
「ご飯!ミューナは串焼き?食べたい!」
……このためだ。
ミューナは眠気よりも食い気らしい。そしてこの前街中で食べた、材料不明の串焼きがお気に入りのようだ。
実際は鑑定するとカーネルバードの肉と出たのだか、俺もヘリスも知らない生き物だった。ただ、名前があの有名なケン〇ッキーのあの人の名前なので、日本人絡みだろう。焼くより揚げた方が美味いかもしれない。
「よし、ミューナは串焼な。ヘリスは何が良い?」
「私は干し果物でお願いします」
元々ヘリスの食が細いのもあるが、確かに寝起きで、今から散々動き回るのに重いものはキツい。
「じゃあ、俺もそうするかな」
俺はアイテムボックスから皆の食べる分を出してそれぞれに配る。
……いち早く串焼きを食べ終えたミューナの眼差しに負けて、1つだけ干し果物をあげてしまったのは仕方ないだろう。
俺達は一度、ギルドマスターの所に戻って指示を仰ぐ事にした。
ギルドマスターが情報統制をしているらしいし何か良い情報が得られるかもしれないと、俺が発案した。
……実際は時間を知るのが一番の目的というのは秘密だ。
「ん~……?」
何だろうか……森に少し違和感を感じる。
とりあえず周りを適当に鑑定をかけてみるが結果は『木』『土』の2つくらいしか出ない。実際は名前も載っているのだが、木の名前を見ても知識の無い俺には分からない。
その解説も載っていれば鑑定の使いやすさも上がるんだけどな……。
「何か……森が変じゃないか?」
困った時は仲間に頼るに限る。俺は魔力チートしか無いし、今の状況じゃあ役に立たないだろうし。
万物之贄が実際は一番のチートだが、あれはポイントを能力と交換しないと意味が無いし。
「何もー……聞こえない?」
「そうですね……生き物の気配がありません。非常にまずい状態かもしれませんね」
おおぅ……。二人とも、違和感の正体を一瞬で当てやがった。
でも待て、ヘリスは何て言った?非常にまずい状態だっけ?いや、大体分かる。ゴブリンやオーガとの戦闘中でもやかましく鳴いていた鳥達が逃げ出した。
……それだけヤバい奴がこの周辺にいるのだろう。せめて幼竜よりも弱い事を願いたい。
「まあ、そんな簡単にはいかないよなー……」
この世界に転生してから、第六感的な物が鋭くなった気がする。そう、今みたいに警報をガンガン鳴らしているような状態は特に……。
ジョブを取った時に覚えたスキルを使えば、あるいは勝てるかもしれないが、あれ使うと後が大変なんだよな……。
「逃げるか」
「さんせいっ!」
「そうですね……今回は他の冒険者の方に任せましょう」
多数決は満場一致だ。
まあ、ミューナは野生動物が逃げている時点で魔物の感に引っ掛かっているだろうし、ヘリスは中級神がどれだけ凄いかは分からないが、仮にも長い間本物の神でいたのだ。そこから俺と同じ現人神になったのだから、人から現人神になった俺よりは強いだろう。当然この世界に長い間いたのだから感も俺以上に鋭い。
――別に俺が弱いわけではない。人には長所短所があってだな……
「早く行きましょう。アル様」
「あ、あぁ」
ギルドマスターには悪いがこんな奴と戦ったら良くて大怪我だろう。そんな状態で学校に行ってみろ、初めの自己紹介で皆にドン引きされる未来しか見えない。
「あれ……?でも、あっち方面って拠点がある方だよな?」
「「あっ……」」
変な沈黙が訪れる。
「い、いや、俺達の実力で冒険者達の実力を心配するのはおかしいよな」
「ミューナ強いもん!」
「ですが……一応向かうだけ向かいましょうか……」
「そうだな」
ヘリスの言うとうりだ。冒険者達は広く、浅く展開しているため、多分そいつが戦うのは1パーティーだけだろう。そうなったら後はギルドマスターまで一直線……。
あれ?大丈夫な気がしてきた。
あの人絶対ビルドさんとか目じゃ無いくらい強いだろうしなー。
と、考えながらも走っているわけで。そろそろ残り4分の1くらいに差し掛かった。
ヘリスと俺は原初魔法のドーピング、ミューナは素のステータスで走っている。今なら高速道路で走っても、車の邪魔にならない自信がある。
というか慎重に歩いていたせいか、俺達って思ったより森の奥に進んでいなかったようだ。
「そろそろ敵が近いです!!」
ここまで来たら流石に俺でも分かる。そして先ほど、何故かなりの距離があったのに俺でも気配が感じとれたのかも分かった。
魔力が垂れ流しなのだ、魔力眼を使ってみて気づいた。父さんや俺みたいに魔力が多くても普通はこんな状態にならないのだが、理性を失っていたりすると魔力が垂れ流しになるらしい。
ここで疑問に思ったのが、何故そいつ《・・・》は理性を失っている?仲間が殺された事で怒り狂っているのなら分かるがそれにしては行動が遅い気がする。
「考えていても仕方ない……か」
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
ヘリスやミューナは魔力感知が出来ないようだし、ここでいらない心配をさせる必要も無いだろう。
「そういえば冒険者も見なかったな」
「食べたー?」
「ミューナ、恐ろしい事言いなさんな」
「にゃーっ!」
多分食べられたわけでは無いだろう。道中に血がついている所も無かったし。
出来れば、逃げ切れたかそもそも出会っていなかったりしてほしい。
「っと……あいつか……」
100メートルくらい先にそいつはいた。
身体は深い闇のような黒。経験則だが、変異種の中でも黒色の魔物は他よりも強い気がする。
体長は2メートル超えといったいところか?離れ過ぎていて大きさが少し判別しにくい。
「あれは……ゴブリンキング!?」
「あぁ、確かにゴブリンの面影があるなー」
「ゴブゴブキングー!」
ゴブリンを筋骨隆々にして、頭に生えていた角を立派にしたらあんな感じになりそうだ。キングの割には部下が見当たらないけれどどうしたのだろう……。
見ると、キングゴブリンの武器――これまたデカイ大剣に真新しい血がベットリと付着している。
考えたくは無いが、部下を皆殺しにして来たのか?理性が無いようだし、そうなってもおかしく無い。
「あいつにバレないように拠点に戻るか」
「わかりました。一応後50メートルは離れて行動しましょう」
慎重に俺達は走り出す。ちょっと恐いのでゴブリンキングを途中何度も確認しながら走っていく。
やがて森が開けていき、拠点が見えてきた。ゴブリンキングは拠点から200メートル弱しか離れていない。ギリギリだったな!!
「ゴブリンキングが来てい……ま……?」
拠点が見えるやいなや報告をしようと思っていたら、何故か冒険者達が拠点に集まっていた。見たことのある顔もあるので、今回と殲滅戦にきた冒険者だろう。
ただ、少し数が少ない。
俺達はギルドマスターの所まで走っていく。冒険者達は流石にゴブリンキングに気づいているのだろう、俺達をちらっと見る者もいるが、声はかけられなかった。
冒険者の中を走り抜けると、ギルドマスターが立っていたので話かけようとすると、
「ゴブリンキングが出た。お前達は後方支援だ」
ギルドマスターに先を越された。って今はそんな事を考えている暇はない!!
「他の冒険者はどうしたんですか!?」
そう、ここにいないという事はまだ、森の中にいるはずだ。最悪の自体も……。
「俺の部下が呼びに行っている。時間が無かったからまだ半分しか集まっていないがな。それに、よほどの事が無い限り今回の面子なら大丈夫だろう」
「良かった……。あっ、俺も戦闘に参加します!!」
流石にただ指をくわえて見てるわけにもいかない。
だが、ギルドマスターが無情にも言い放つ。
「お前達はまだ弱い。今回は戦闘に参加するな」
「でもっ!!」
「考えろ。お前達が少し強いだけでここまで連れてくるか。ある理由があったから連れてきた。それに関しては後で言うことを約束する。実際お前達では今回の任務での安全マージンが十分では無い」
「分かりました……」
ギルドマスターの声の調子はあまり変わらないが、本気で言っている事は分かる。
それに、俺からしたら別にここで命を張る必要が無い、という気持ちが少なからずある。
王都には父さんや、Sランク冒険者がいるそうじゃないか。
ギルドマスターが言っていた、ある理由とやらが気になるが、とりあえず俺は今は引くことにした。
「来たか……」
ギルドマスターの呟きが聞こえた。
俺達もギルドマスターが見ている方向に向くと、丁度そいつは森から出てくる所だった。
そいつを改めて見てみる。
本来醜い顔のゴブリンとは違い、顔は厳めしい感じで醜さは無くなっている。
全身が筋肉の塊のようで、腕何か俺の胴と同じ太さに見える。
勝てるのか?
ふと、頭に嫌な予感が浮かぶ。だが、俺の心配をよそに、状況は動き出した。
ギルドマスターが前に進み出て、声を上げる。
「前衛パーティー……突撃!!」
次で変異種殲滅戦は終わり!!……のはずだ‼




