森の主
本来は、この回で戦闘を終らすはずでしたが、区切りが良かったので2話に伸ばしました
ある日、俺はいつもの日課として森の魔物を狩っていた。
これによって町の魔物被害も減って一石二鳥なのだ。
昼になったので、一息つこうと持ってきたバケットを開き、中に入っているサンドイッチ等の昼御飯を食べる。
町で収穫した野菜と森で狩ったホーンラビットの肉を使った極上サンドイッチだ。
執事長が作ってくれているのだが、俺のしていることがバレているっぽい感じだ。
いつも、
「お気をつけて。ぼっちゃま。」
と、心配そうに声をかけてくれる。
町を少し歩くだけでここまで心配そうな顔はしないだろう。実際、ただ町の中をランニングしていた時はそんな顔はしなかったし。
(レベルもようやく13か……。スライム、経験値無さすぎだろう。一年もかけてこれか……、だけどまだ6歳だから旅なんて出来ないだろうし……。)
そんな事を考えていると不意に嫌なものを感じて顔を森に向ける。
(この感じ……スライムと似ている。だけど威圧感が半端ないな……スライム500匹集めてもこんな威圧感はでないだろうな。しかも明らかにこちらに殺気を向けている。これは町に被害が出ないように此処で倒すしかないか……。)
と、頭の中で素早く考え直ぐに臨戦体制に入る。
すると後ろの方から、
「ぼっちゃまぁぁ!」
と聞こえたので慌ててそちらを向くと、
「セバスチャン!?」
なんと執事長が此方に走ってくる。
「セバスチャン!?私の名前はジールでございます!!ですがあくまでも執事長。爺や、とでもおよびくださぃぃぃ!」
と、必死に走りながらも訴えかけてくる。
アルギウスはつい、イメージで咄嗟に呼んだ名前が間違えていたのを知り、少し耳を赤くする。
「で、どうしたの?爺や。今立て込んでいてね。出来れば今だけ家に居てくれると良いんだけど。」
今は森の中から化け物の気配があるのだ。一人でも倒せるか分からないのに足手まといがいれば敗北は確実だろう。
「ぼっちゃま……。今森の中にある気配は気づいていますか?あれはこの森の主のような存在でしょう。勿論、こんな普通の森の主、旦那様なら片手間で倒せるでしょうがぼっちゃまの戦闘力では無理です。」
「……けど、俺がやらなきゃ今この町のまともな戦闘力は俺だけでしょ?知っているんでしょ?俺が魔法を使えるのを。この状態で逃げろとでも言うつもり?」
「ぼっちゃまの力は一年前辺りから知っております。」
驚いた。まさか初めらへんから気づいていたとは。
だが、執事長に実力的に無理と言われてもやるしかないだろう。
そんな決意を俺がしていると執事長から意外な言葉が出る。
「勿論、この程度で止められるとは思っておりません。ですから私もご一緒に戦わせて頂きたく。」
わけが分からない。執事長といっても俺とは弁当以外にあまり関わりがない。誰だってあまり親しくないやつよりも自分の方が大切だろう。
「俺は助けられるほど爺やと親しくなかったはずだけど?……名前も覚えていなかったし……。」
自分は執事長の名前も知らなかったのだ。そう思っていると、執事長は優しく微笑みながら、
「私はぼっちゃまの父上……旦那様を子供の頃からお世話をしてまいりました。私は奴隷で、しかもハーフエルフでしたので毎日のように暴行を受けておりました……。そんな私に笑顔で手を差しのべてくれたのは旦那様だったのです。そして、旦那様は実家を家出されたのですが、私もご一緒させていただいたのです。私は旦那様に手を差しのべてもらったときから自分の生涯の主を心に決めたのです。」
そこで一区切りおき此方を振り向くが、今執事長の顔には先程まであった微笑みが無い。そのかわり武人のようなキリッとした顔で、
「旦那様の大切な者は私にとっても大切な者。それをお助けするのにそれ以上の理由が必要ですかな?」
最後は少しおどけた口調で言ってくる。
(なんだこのかっこよさ……。男として負けた……。てか、執事長ハーフエルフだったのか。)
「分かった爺や。背中は任せる」
「はい、任されましたでございます。」
そんな感じで話していると、
バキッバキバキバキッ!
木々の折れる音が響いてくる。
「ちょっとでかくない?爺や?」
「流石、無名と言えど森の主と言ったところでしょうか……。」
さあ、鬼が出るか蛇が出るか……。
そして出てきたのは、
「っ!?あれは竜種ではありませんか!!幸い翼もありませんしまだまだ小さいようですが……。このような町1つなら一時間もしないうちに壊滅状態です!!」
「ええ!?マジで!?」
なんと、竜種だったが、おかしい。こんな所に竜種がいるはずがない。竜種が出るようなところならもっと軍備が揃っているはずだ。ここにもし成体の竜種が出てきたら残念ながらシュリキア辺境伯の軍では太刀打ち出来ないだろう。幸い、幼体は成体よりも格段に弱いので父さんレベルならあくびをしながらでも倒せるぐらいだ。
だが、俺達のどちらも父さんの足元にも及ばない。執事長のレベルを見ると21で、元奴隷の割にはある方だろう。
そして幼竜を鑑定したところ、レベル50きっかり。何故か魔物の種族は知っていないと鑑定に映らない。俺はこいつの種族を知らないので必然的にどういうドラゴンかはわからなかった。
「とりあえず俺が魔法で様子見をするから爺やは少し離れた所から援護してくれ。」
俺はそう言って腰にさしていた木刀を抜く。
ちなみにこの木刀は近接戦闘をどうしようかと悩んでいたときに、刀術スキルがあるから刀にしようと思って作った。だが、本当にただの木刀だし、まだ6歳なのと木刀を作るのは初めてなので少しでこぼこにもなっている。
「……わかりました。御武運を……。」
執事長もそうだがこの世界の人達は日本の言葉を結構難しいところまで使っている。……もしかして過去の勇者が広めたのだろうか?
俺は緊張を紛らわせるために関係の無いことを考えていた。
しばらく待機し、執事長が目標のポイントまで行った時、一気に幼竜に向かって走り出し、火弾を打ち出す。
30個以上俺の周りに出現したそれは、一斉に幼竜めがけて飛んでいく。
だが、幼いといえど竜。その全てが当たっても全く怯まず、こちらを鬱陶しそうに睨み付けてくる。
おいおい……。無傷って……少し大きいの撃ってみるか。
「爺や!時間稼ぎをしてくれ!」
「了解でございます‼」
すると、執事長は風魔法で相手を切り刻もうとするが、これも効かない。しかし、注意を引くことはできたようで、幼竜は執事長に敵意を向ける。
だが、これだけの時間があれば俺の魔法も完成する。
これは上級魔法のため無詠唱では無いが、十分詠唱短縮はした方だ。
しかもこの魔法、本来の30倍も魔力を注入している。実際には上級魔法30発の方が効率が良いが、幼竜に効くか分からないので一点集中にしたわけだ。
「爺や!下がれ!」
俺がそう言うと執事長はすぐさま下がる。
「よし……。激流之槍」
そう言うと、目の前に出現した2メートル程度の水でできた槍は物凄い音をあげながら竜に迫る。
ズドォォォオンッ!
見事幼竜に当たったが、そのあまりの風圧に、俺は吹き飛ばされてしまう。
更に、地面に頭をぶつけたようで、ここで意識が途絶えてしまった‥‥‥。
「ん……いてて……どうなった!?」
俺は意識が目覚めると直ぐに立ち上がる。
すると、目に飛び込んできたのは、辺り一面の草原がはげている野原で、満身創痍になりながらも幼竜と戦っている執事長だった。
魔法による傷ではないので俺が気絶している間に幼竜につけられたのだろう。
執事長は幼竜側からして俺がいる所の反対側にいる。幼竜が俺に注意を向けないようにだろう。
一方幼竜はというと、多少の傷は負っているが動きに問題は無いようだ。
(これで効かないとか……。ユニークモンスターか?)
魔物にはネーム持ちとユニークモンスターがいる。ネーム持ちは誰かに名付けられるか、一定まで強くなると付くらしい。
ユニークは厄介だ。言ってみれば突然変異種で、例外なく元の種族よりも格段に強い。幼竜でネーム持ちは無いだろうから、ユニークモンスターなのだろう。
「何が起こるか分からないが……最後の切り札を使うか……。」
俺には二つの切り札がある。一つはさっきの凝縮魔法。
これはつい先程までスライム狩りをしていたのだが、今日は森の主が降りてきていたせいかいつもの何倍ものスライムを狩っていた。そのせいで半分位しか魔力が残っておらず、さっきの魔法も含めて俺の魔力は後一発分しか残っていない。もう一発撃ってもあまり変わらないだろうから、回復魔法ように残しておく方が断然良い。
そして、2つ目の切り札。
それは前に眷族化に面白い効果があるといっていただろう。
元々、眷族化はモンスターテイムの最上位版だが、初回のみ、自分の眷族を創る事が出来る。
しかも、そのモンスターの種族はランダムだが、どの種族が出ても、例外なく強いらしい。
こんなものを今使えば執事長に説明しなければならないが、今はそんな事を言っていられない。俺は覚悟を決めてこのスキルを使用する。
と思ったら……ステータスに召喚ボタンがあった。……ゲームか!!
ボタンを押すと、俺の最後の魔力が全部無くなっていく。何故に!?
だが、別に全てというわけでなく、途中で魔力の消費が止まる。
すると、俺の目の前に結構でかめの魔方陣が出現し、どんどん眩しくなる。
「目が、目がぁぁぁ!」
突然の光に俺は目が滅茶苦茶痛くなる。
しかし、光は徐々にだが収まっていき、視界が鮮明になっていく。
俺は魔方陣があった場所に居たモンスターをみて
――絶句する。
果たして召喚陣から出てきたモンスターは!?
皆さんどしどし予想して感想にのせてください!!
……結構正解者いるかも。




