2-3 男流棋士のグラビア撮影
撮影ルームに移動すると、集まっているスタッフの皆さんが、揃いも揃ってピンク色の視線を向けてくる。
「男性の和服なんて写真でしか見たことなかったけど、生で見られるなんて!」
「これでごはん何杯でもいけるわ~」
「あたし友達に自慢しちゃう!」
もうちょっとプロ意識というものを持ってもらいたい……。
「それではまず、四人の集合写真からいきますので!」
フォトグラファーが言うと、俺たちは指定の位置に立った。
さて、並び順は……?
「若いふたりが中央でいいんじゃない?」
藍沢さんが言って、浜崎さんも同意する。
「特に最上くんは、名人を倒した逸材だもんね。目立たなきゃ」
「はあ……タケルはいいの?」
「かまわないよ。ちょっとプレッシャーだけど、このくらい慣れないとな」
ともあれ並び順が決まり、俺たちはカメラに視線を向ける。
「笑顔じゃなくて、キリッとした顔でお願いします。……うん、いいわいいわ! そのまま!」
パシャッ! パシャッ! スマホのカメラのシャッター音とは違い、プロの機材はさすがいい音がするんだなとか、適当なことを思った。
それから、個別の撮影も進んでいった。
将棋棋士のグラビア――専門誌ではよくあることだし、俺もその専門誌の表紙を飾れるような大棋士になりたいと思っていたものだ。ファッション雑誌に載るというのは想像もしていなかったけど、だんだん楽しくなってきた。
「藍沢さん、マジで激シブ! 年配の人たちの人気を集めそうね。あとオジ専の子も少なくないし!」
「いやあ、どうなんでしょうねぇ……」
藍沢さんはやはりロマンスグレーで大人気になりそうだ。
「あれ、浜崎さんお顔が赤いわね。冷たいタオル持ってこさせましょう」
「じ、実はあがり症なんですよ……」
スキンヘッドの浜崎さんは、照れると茹でダコみたいになってしまう。これがまた何だかキュートに思えた。
「タケルくん、腕を組んでみるとよさげね! 若々しさを解き放ちましょう!」
「まだまだ弱いのに、強く見せるようなのはどうなのかなぁ。ま、いいか」
タケルは四人の中では一番の長身でもある。腕組みポーズがサマになっていた。
そして俺はというと。
「銀河くん、これを持ってみましょう」
「あっ、扇子ですか」
「名人の言葉が書かれてる扇子よ。バッと広げてみて」
そこには確かに玉輝さんの名が記されており、「不撓不屈」という揮毫があった。
どんな困難が立ちはだかっても、決して諦めない。順風満帆の将棋人生に思える彼女だけど、その心構えがあったからこそ名人の座まで上り詰めたのだろう。
……俺もこの貞操逆転世界で、ずっとその気持ちでいられるだろうか?
いや、いなければならないんだ。目の前の仕事をひとつひとつ、きっちりとこなしながら。
「はい、撮影はすべて終了です。お疲れ様でした!」
フォトグラファーの締めの言葉に、パチパチパチと拍手が鳴った。
何もかも初めてのことだったけど、楽しい仕事だったな。これならいつでも大歓迎だ。
「えーと、着替えたら解散でいいんですか?」
あとは何の予定も入っていないはずだが、マネージャーの蘇我さんに聞いてみる。
「ええ、そのまま解散してくれていいですよ。ところでこの和服ですけど、男流名人戦でも着てもらうことになってるんです」
「ええっ? これを着て対局?」
思わず声が裏返ってしまう。
「初の男流棋戦、大注目の戦いですもん。カッコいい和服で対局する姿に、全国の女性がメロメロですよきっと!」
マジか……初代の男流名人を決める大事なリーグ戦とはいえ、毎回この着物を着て全国に中継されるのか。
俺たちは興奮冷めやらぬまま着物を脱いで、呉服店のスタッフにお返しした。
「男流名人戦の時も、私どもが馳せ参じますので! よろしくお願いしますね」
こうして今日の仕事は終了した。ひとまずは無事に乗り越えることができて安堵する。
しかし、ある意味仕事以上に大事なのはここからだ。
「皆さん、このあと時間ありますか?」
俺は帰り支度をする三人に話しかけた。
「よかったら、男だけの懇親会はどうかなって。今後のことも話し合いたいし」
「もちろんだよ! 私もそうしたいって思っていたんだ」
と、藍沢さん。
どうやら浜崎さんもタケルも同じ気持ちだったらしく、快く承諾してくれたのだった。




