2-2 男流棋士たちの初顔合わせ
現地集合ということで、電車を乗り継ぎ都内某所の撮影スタジオに到着した。
「男流棋士の最上銀河様ですね! お待ちしておりました。他の方々もすでにご到着ですよ♪」
「あ、はい」
受付のスタッフは妙に上機嫌だった。
「いやー、男性がうちのスタジオを利用されることはたまにあるんですが、四人もいっぺんにというのは記憶にないですよ。眼福眼福♪」
「そ、そうですか」
控え室に通されると、思わずホッとする。
そこには俺と同じ三人の……今日までこの世界では見ることのなかった男性がいた。
よし、まずは元気よく挨拶だ。
「最上銀河です。よろしくお願いします!」
「名人に勝った英雄のご到着だねぇ」
そんな声をかけてきたのは、三人の中では一番年長の人だった。
「よ、よしてくださいよ英雄だなんて。所詮はハンデ戦だったんですから」
「そのハンデ戦でも私らはズタボロに負かされちゃったんだからねぇ。私は藍沢誠司。これからよろしく」
協会のプロフィールでは四十五歳とあったっけ。一言で言うと、ロマンスグレーの渋いオジサマという感じだった。男の俺でもカッコいい、こんな風に歳を重ねたいと思った。
次に目が合ったのは、藍沢さんよりは年下の人。
「僕は浜崎陽吾。これから一緒に頑張ろうね」
三十二歳の男盛り。スキンヘッドと顎髭が一見ワイルドな印象だけど、大きくつぶらな目がなんだか愛嬌のある人だ。
最後に、大学生風の青年。
「おれは渡部武尊。気軽にタケルと呼び捨てにしてくれ。若い男で将棋をやる人はめったにいないから、会えて嬉しいぜ銀河」
二十一歳で、俺とは一番歳が近い。尖った茶髪が印象的で、性格も明るそうだった。
この三人は俺にとって同期。かけがえのない仲間となるはずの人たちだ。良好な付き合いをしていかないとな。
「皆さんとは一度ゆっくり話したいと思ってます。でもまずは、目の前の仕事をしっかりやらないとですね。グラビア撮影って具体的に何をするのか知らないんですけど、もう聞いてますか?」
まさか水着じゃないだろうな。この貞操逆転世界ならあり得る話だ。
俺の問いに答えたのは、藍沢さんだった。
「それがね、なんと和服での撮影だっていうんだよ」
「えっ、和服ですか?」
「私も驚いたよ。でもほら、プロの将棋はここぞという時に和服を着るだろう? それを私らにも着せたいみたいだねぇ」
プロの将棋界において、和服というのはいわゆる勝負服だ。格式のあるタイトル戦では原則、和服の着用が義務とされている。
逆に言えば、それ以外の機会ではそうそう着ることがないものだが……男流棋士のアピールにはなるほど最適かもしれない。
「でも、和服の着付けなんてみんな知らない……ですよね?」
これには浜崎さんが答えてくれる。
「協会御用達の呉服店の人が、わざわざ出張してくれるんだって。着付けもやってくれるよ」
「へえ、それなら安心だ」
その時、ひとりの女性が控え室に入ってきた。
「皆さん、全員揃いましたね! 私は協会職員の蘇我芽衣子と申します。今後皆さんのマネージャーを務めさせていただきますので、どうぞよろしく!」
「マネージャーが付くなんて、まるで芸能人だ」
渡部さん――タケルが苦笑いしている。すると蘇我さんも笑みを返す。
「私の前職はずばり芸能プロダクションなんですよ。そこに四人の男流棋士がデビューするという話を聞いて、ぜひこの人たちのマネジメントをしたいと思うようになりまして、思い切って転職しました。将棋は全然わからないんですけど、頑張って勉強中です。むふふ、男性のマネジメントなんて初めてだから嬉しくて嬉しくて♪」
いろいろと正直な人である。
ともあれ俺たちは更衣室に移動した。
そこに着物を身に着けた女性たち――呉服店のスタッフが待っていた。
「まあまあ、写真で拝見していましたけれど、生で見ると本当に色男! これは着物映え間違いなしですわ」
女将さん以下、熟年のおば……もとい、お姉様たちに熱い視線を向けられる。背中がゾワゾワした。
「では、お召し物を脱いでくださいな。パパッと着付けさせてもらいます」
「ううっ、女の人の前で脱ぐなんて恥ずかしい……」
浜崎さんが顔に似合わず繊細なことを言う。他のふたりも恥じらいに頬を染めていた。
……俺はというと、もう玉輝さんたちの前で全部見せちゃったものな。上の服を脱ぐくらいどうということはなかった。
やがて、和服姿となった男流棋士たちが勢揃いした。
「はあうっ、なんて凜々しいの。濡れちゃう♡」
蘇我さんがとんでもないことを口走っている。
まあそれはおいといて、俺たちもお互いを見ながら(健全な意味で)興奮していた。
「これが和服か……すごいねぇ。最上くん、ビシッと決まってるよ」
「藍沢さんこそ、渋さが一段と増してるじゃないですか!」
「ぼ、僕はどうかなぁ……?」
「浜崎さんもイケてます! スキンヘッドに和服って、相性抜群ですよ」
「へへっ、グラビア撮影なんて……とか思ってたけど、結構やる気が出てきたな。銀河もそうだろ?」
「うん。俺もタケルと同じ気持ちだよ」
和服はすべての将棋指しにとって特別なものだ。俺もいつかはタイトル戦に出て、和服を着こなしたいと思っていた。
それが……ちょっと特殊なシチュエーションだけど、まさかこんなにも早く実現できてしまうなんて。
「今回のグラビアはファッション誌に載ります。先んじてSNSと公式サイトにもアップされますが、万バズは決まったようなものですね♪」
と、蘇我さん。誰よりも昂ぶっているのはこの人だった。
「ではでは、撮影本番にまいりましょう! ばっちり決めてくださいよダンリューズ!」
なんだそのアイドルグループみたいな名前は。しかも微妙にダサい!




