第83集 義兄弟の契り
「おー、懐かしいな」
「本当に懐かしい。幼い頃、よくこの辺りを走り回ってたな」
3人はそれぞれ、在りし日の梁山泊の思い出に浸った。それから鄆哥の後について進んだ。
「あ、あれは…!?」
「はい、あそこです」
呼延鈺は驚いて、目と口を見開いたまま次の言葉が出て来なかった。徐晟も感嘆して、それを見ながら歩いて向かった。宋安平は興味深く観察し、ひとしきり感心している様だった。それは、在りし日の梁山泊頭領達を祀った廟だった。
3人が廟に入り、鄆哥が続いた。すると奥から、1人の老人が現れた。
「江哥哥!(江兄貴!)」
その老人は鄆哥を見ると、「この方々が?」と3人に向けて平伏したので、宋安平が慌てて腕を取り助け起こした。それから3人は、叩首を垂れて礼をした。
宋首領を中心とした塑像に拝礼をした後、108体の像を見て回った。宋安平は父である宋清の像を見て、「あまり似てないな?」と首を傾げた。徐晟は亡き父である徐寧の像を見つけ、平伏して三拝した。そして、肩を振るわせて慟哭した。呼延鈺は育ての親である呼延灼の像の前で三拝し、やはり慟哭した。
「思えば俺達は、親の代からの兄弟だ。今日ここで、生死をともにする誓いを立てないか?」
「それは良い。ちょうどここは、父の霊廟でもある。神前で先祖の霊に見守られながら、義兄弟の契りを結ぼう」
呼延鈺が言い出しっぺで、それに徐晟と宋安平が賛同した。年齢を確認した所、宋安平が1番年長で、呼延鈺、徐晟の順だった。
中国では義兄弟を結ぶ事を結拝と言い、公式のやり方は存在せず、天地や先祖の霊に拝礼して誓いを立てる場合や、酒を酌み交わしただけで行われる場合もあった。
義兄弟の契りを結んだ後、めでたい事だと江忠や鄆哥達と一緒に酒を飲んでいると、酒家から配下が駆け付けて来た。
「大変です!百足虫の奴が、此方に向かって来ます!」
「百足虫とは誰ですか?」
宋安平が鄆哥に尋ねると、表情が険しくなった。
「ここら一帯も金軍に攻められましたが、その混乱につけ込んでならず者を引き連れ、金兵のフリをして掠奪、放火、殺人、強姦などやりたい放題の奴らです。この廟を根城にしようとしており、何度か奴らと争いました」
それを聞いた呼延鈺と徐晟は憤って立ち上がり、「宋哥哥(宋兄貴)は、此処にいて下さい。直ぐに片付けて来ますから」と言って駆け出した。江忠と鄆哥も慌てて槍を手に取り、2人の後を追った。
戦斧を携えて馬に乗った大男が、酒に酔って顔を赤らめていた。その男の後ろには、100人ばかりの手勢が続いていた。この男が百足虫に違いないと、徐晟は無言で近づいて一刀のもとに切り捨てた。
百足虫の配下達は勇んで、怒号をあげて斬りかかって来たが、呼延鈺が割って入り一瞬で6人を突き殺した。故人に対して大した忠誠も無く、勝てる相手では無いと理解すると、這う這うの体で逃げて行った。
「うん?」
ふと見れば5、6人の女性達が慄えていた。
「もう大丈夫。悪人は滅ぼしたから、さぁお帰り」
徐晟が優しく言うと、鄆哥はその中に1人の老婆を見つけて笑い出した。
「ははは。何だ、何だ?王婆さんじゃないか?まさかあんたが拐かされるなんて、百足虫の奴も物好きだねぇ」
「五月蝿いね、孺子が!」
この王婆さんと言うのは、かつて宋江に閻婆惜を妾に世話をした、あの王婆さんである。
「助けて下さって、ありがとうございます。私は御営指揮使・呂元吉の娘でございます。父が戦死し母と南へ逃がれる途中、母は私を庇って命を落とし、私も危うい所を王さんに助けられました。2人でいる所を今度は、この賊らに捕らえられてしまったのです」
呂氏はやつれてはいたが、細身の美しい女性だった。
「呂将軍の娘さんだって?俺、僕の父とは同僚ですね。安心して下さい。俺が…いえ、僕が貴女をお守りします」
呼延鈺が柄にも無く殊勝な喋り方をするので、徐晟は可笑しくなった。そして、ニ哥(ニ番目の兄、つまり呼延鈺の事)はこの娘さんに惚れたんだな?と思った。確かに一目惚れするほど美しい女性には違いないと思ったが、自分の好みでは無いなと徐晟は感じた。
(もっとこう何と言うか…、ボン・キュッ・ボンって感じの…何言ってんだ俺は…)
呼延鈺と徐晟は呂氏と王婆さんを連れて廟に戻り2人を休ませると、江忠や鄆哥らと夜遅くまで語り合った。




