1 なんだ?(ミコト視点)
前作で説明したふたつの話を思いついて、一話ずつ書いてみたという、もう片方の話です。
異世界転移してきてしまった女の子をネコのように飼って溺愛する娼婦という話を思いつき、書いてみたら、あっちゅーまに冒険者になっちゃいました。
助けてくれたのが娼婦ですからね……、念のためR15にしました。
転移者の少女を溺愛するパーティの姉さん兄さん。
久しぶりにファンタジージャンルで書いています。
どうぞよろしくお願いします。
なんで?
こうなってる?
今の状況が信じられないという気持ちと何かとんでもない間違いが進行中で、それをどう指摘すればいいんだろうと困ったというか若干冷静な気持ちで、私をベッドに押し倒している男性の顔を見た。
男性は若い。20代前半か、もっと若いかも?
そして、上裸だ。
えーと、お客さん?
んーと、私はこの部屋に掃除に来ただけですよ!?
誰もいないこの部屋に掃除に来たら、なぜか急にドアが開いて、この人が入って来て。
わ、このベッド、昨夜ミカエラ姉さんがお仕事した後の……。その、いろいろばっちい。
いや、ミカエラ姉さんはばっちくないけど、あのおじさんのは、ばっちい。
それをこれから私が掃除するところだったわけで。
「誰ですか?
放して下さい。
私は『娼婦』ではありません。『掃除婦』です」
思ったより冷静に話し掛けることができた。
「君が……、掃除婦?
こんなに可愛くて可憐なのに?
それに、その髪、その黒い瞳! 君は……」
可愛い? 可憐!? 髪? は、フードが!?
私は今13歳だけど、こっちの世界だともっと幼く見えるはず。
えっ? そういう趣味の人!?
これは危険!?
「放せ! 変態!」
私の豹変ぶりに驚いたような男が呟いて、しっかり押さえこんでくる。
「頼むから、暴れないでくれ……」
もう仕方ない。
私は思いっきり悲鳴を上げた。
まだお客さんと一緒に休んでいる姉さん方もいるから、躊躇してたのに……。
「うわぁああああああああああああっ!!」
途中から『あああ』を気持ち大きく長くしてみた。
「ミコト!?」
足音がして、ミカエラ姉さんが兄さん方とドアを弾かんばかりに開けて飛び込んできて、ベッドの上の私と男性を見て目を見開いた。
「ミカエラ姉さん!
掃除に来たら、この人が……!」
私の困ったような言葉にミカエラ姉さんのグーパンチが男性の顔面にヒット!
「私のかわいい『妹』に何してくれてるのよ!!」
兄さん達はあっけに取られていたけど、はっとすると、顔を押さえて悶絶している(それなのにまだ私の上にいるんだけど)男性をやっと私とベッドから降ろしてくれて、どこかへ連れて行った。
「ああ、ミコト! 大丈夫!!」
ミカエラ姉さんが私を引っ張り起こして素早く上下に全身を何度も見てくる。
「大丈夫です。
押し倒されただけ。
あれ誰です?
昨夜のお客さんじゃないですよね?」
「たぶん誰かの客でしょうけど……。
怖かったわね! もう大丈夫だからね!」
「はい、ミカエラ姉さん! 助けてくれてありがとうございます!」
ミカエラ姉さんのグーパンチ、カッコ良かった。
ん、あの男性もまあカッコいいっちゃカッコいい部類だよな。
どっかのお貴族様の令息が床入り前の経験とやらで来てたのか!?
◇ ◇ ◇
「ミコトは売り物じゃないわよ!」
私の隣にいるミカエラ姉さんが怒って。
もう反対隣にいて私を守るように挟んでいるプリシラ姉さんも怒りを隠さない口調で言い返す。
「マダム、どういうことですか?」
マダム。
この娼館の女主人はちょっと微笑みを引き攣らせて(でもまだ微笑みなのがすごい)返事した。
「いいお話だと思うけど。
ミコトはこのままだといずれ、この館の下働きか……、娼婦になる道しかないでしょう?
それなら、今の時点で貴族の使用人になった方がいいでしょう?」
「いえ、私達がそうはさせません!
ね、ミカエラ。
それに……絶対、裏があるでしょ!?」
私の隣のプリシラ姉さんが言って。
「そうよ、あの男なんでしょ!
ミコトを押し倒してた、あの若い男!」
ミカエラ姉さんも怒って言った。
そーなのだ。
あの後、私はあの部屋を掃除したんだけど。
掃除が終わるとマダムに呼ばれて、ミカエラ姉さんとプリシラ姉さんが一緒に来てくれたんだよね。
このふたりは私がこの世界に9歳で来てしまった時に保護してくれた二人だ。
命の恩人。
「そうよ」
マダムの言葉にミカエラ姉さんがグーの握り拳を空中に突き上げた。
「ミコトには指一本触らせないんだからっ!」
プリシラ姉さんは冷たく笑った。
「こんなところに出入りする男に、まともなのはいないものね」
こんなとこって……。
まあ、娼館だからね。
でも、ここはその中でも良心的なところと言われているんだけどね。
女主人に姉さん方が普通に言い返していることからわかるように。
「まあ潮時じゃないかね。
転移者だったら『神の愛し子』として届け出をしなきゃいけないのに、あんたらで『拾い子』、最近は『妹』と言い張って匿っていたんだから。
あの若君は『保護』していたってことにして、何とかしてくれるっていうし。
ミコト、あんたも大好きなミカエラとプリシラが罰せられたくないよねぇ」
「マダム!!
ミコトを脅迫しないで!」
プリシラ姉さんが私を抱きしめてマダムを睨む。
「脅迫だなんて、みんながいい方法を探ってるんだろ。
『知的な淑女プリシラ』としてはよく考えてみておくれよ」
プリシラ姉さんが私の頭をなでなでなでなでなでなでなでなでしている。
これは何か思考モードに入ったな。
「マダム、私は考えるも何も、ミコトが私達から引き離されるのが許せません!」
ミカエラ姉さんがぐっと耐えている感じで言った。
うん、すごく我慢している。
『武の女神ミカエラ』だもんな。
「……私とミカエラの年季、買い取るとしたらいくらですか?」
プリシラ姉さんがマダムに言った。
「え? あ、そうねえ。
クルト、ちょっとプリシラとミカエラの書類取って来て」
同じ部屋に控えていたクルト兄さんがデスクの引き出しから書類を持って来て渡す。
「そうねえ。
ミカエラが4年。プリシラは後2年ってとこね。
ここでそれを清算するってなると……。
ざっとミカエラが400万ギニー、プリシラが200万ギニーね」
「合計600万か……」
プリシラ姉さんが悔しそうに呟く。
クルト兄さんが「いくら足りない?」と声を掛けてきて、私達はびっくりした。
「……私、今、200万ギニーあるかな。
ミカエラもそれぐらいよね?」
「うん……、200万ならなんとかあるかも」
「後200万か……。
貯まるまではその話は待ってくれないんですよね……」
プリシラ姉さんがすごくすごく恨めしそうに言った。
ミカエラ姉さんが決心したように言う。
「プリシラ姉さん、先にミコトと出ていて下さい!」
「えっ?
ミカエラ!?」
わかるけど、それは……。
ミカエラ姉さんはにっこり微笑んだ。
「ミコトを連れて、先にここを出て。
私もすぐ、借金を返して追いかけます」
「でも、私とミコトは……、出たら、この近くにはいられないかもしれない!」
「大丈夫、ひとりでも……、何とか……」
私はオロオロしてクルト兄さんを見る。
クルト兄さんがため息をついた。
「残りは俺が出します」
◇ ◇ ◇
私達はこの街、カノンの冒険者ギルドにいた。
私達とは、ミカエラとプリシラとクルトと私だ。
「いやー、クルトが金を出してくれるなんてね……」
プリシラが思い出したように言って。
「……ミコトが縋るような目で見てきたからさ」
「クルト……、ミコトに何もしないでよ!?」
ミカエラの牽制の言葉が飛ぶ。
「少しは感謝しろよ!
お前の年季の残りを払ってやったようなものなんだから」
「まあ、それは、ありがと。
でもすぐに返すからね!
ミコトは渡さない!」
私は慌てて間に入り言った。
「大丈夫だよ。
クルトはお兄ちゃんだから」
私の言葉に3人はふふっと笑う。
「ミコトは私達の『妹』だからね!
絶対、守るから!」
ミカエラの言葉に私は頷く。
「うん、絶対離れない」
クルトがフード越しに私の頭に手を乗せぐりぐりする。
私はにこにこされるままだ。
クルトに変な気がないのはわかっている。
「もう、触んな!」
ミカエラの鋭い声。
「いいだろ、妹なんだから!
な? ミコト」
「うん、大丈夫だよ」
「……で、飛び出してきたはいいけど、ほぼ一文無し。
でも、すぐにここを立たないといけない。
例の坊ちゃんが追って来るかもだからね」
プリシラが冷静に言って、私達は表情を引き締めた。
「プリシラ……、これ使って」
私はお金の入った布袋を取り出して渡した。
受け取り中を見たプリシラはびっくりする。
「これって?」
「あの、ふたりから貰ったお小遣いとか、後、掃除の時にチップ置いてある時があって。
それにクルトや他の兄さんもお小遣いくれた時があって。
当分の食費くらいにはならない?」
「ミコト!!
いい子だー!」
ミカエラががばっと私を抱きしめ頬ずりする。
力が強い。でも、うれしい。
「ありがとう、ミコト。
今は使わせてもらうね。
でもちゃんと返すから」
プリシラがそう言ってくれて。
「うん」
私は大きく頷いた。
クルトがこそっと言ってきた。
「俺以外の兄さん?
誰?
変なことされてないよな?」
「大丈夫だよ。
イアンとマルス。
イアンは本当の妹がいるからだし、マルスは娘さんと私を重ねてだし」
クルトは頷く。
「ああ、あのふたりなら大丈夫だな……」
ということは、誰か怪しい人がいたのかな?
クルトが目を光らせて、守っていてくれてたのかもしれない。
読んで下さり、ありがとうございます。
初回なので字数と内容がボリューミーになっております。
プリシラ、ミカエラ、クルト、ミコトの旅。
楽しんでいただけたらうれしいです。




