ロヴァルド観察日記 ~観察終了~
「うーん……」
厨房で腕を組みながら、目の前にあるものを見て唸る。
艶々と綺麗な緑色のピーマン。
側近クラウドの話では、子供時代のロヴァルド様はピーマンが嫌いだったらしい。
もちろん今は普通に召し上がっている。
けれどそれは本当に好きになったのか、それともただ食べられるようになっただけなのか。
好きな人の好き嫌いが知りたい。
ただそれだけ。
ロヴァルド様が嫌いなものを食べる時にどんな顔をするのか……見たい訳ではないですよ?
ええ、決して違いますとも……!
そ、それに、もしもね?
本当に苦手なままなら、克服のお手伝いだって出来るかもしれないもの。
ごほん。
と、とにかく!
それを確かめるために、今日からしばらくはピーマン生活の開始です!
「まずは細かい方がいいかと思ったけれど、今も対してお顔に出ないから……」
今日のお昼はピザトースト。
トマトを煮詰めたピザソースを塗って、薄切りの玉ねぎ、ベーコン、チーズを乗せて……。
その上に彩りと称して薄く輪切りにしたピーマン。
まずはこのくらいから……。
「ロヴァルド様、お味はいかがですか?」
「ああ、美味い」
「そうですか……」
「……何か不満なのか?」
「いいえっ!?」
危ない危ない、私が顔に出してどうするの!
うーん、本当に平気そう。
次よ、次!
今日は縦に細切りしたピーマン料理よ!
連日だと怪しまれてしまうかしら……。
うーん……そうだ、副菜にしちゃいましょう!
ベーコンとしめじをバターで炒めて、そこに細切りにしたピーマンを入れる。
シャキシャキが大事だからあまり火を通さずに、軽く炒めたら塩胡椒で味を整えて出来上がり!
「ロヴァルド様のリクエストで本日はカツサンドです! お野菜がないので副菜を作ってみました。お口に合うと良いのですが……」
「ああ、いつも通り美味い」
ロヴァルド様は、いつも通り表情を変えずに食べ進める。
細切りは苦味が出にくいとはいえ、食感も生に近いはずだけれど……。
むむむ。
変わらないわね。
「……どうした?」
「いえ、お口に合うか不安でしたので」
「ロゼの作るものは何でも美味い」
「ふふ、ありがとうございます」
やっぱり平気そう。
いえ、本当に好きならそれはそれで良いことなのだけれど。
今日はいよいよピーマンの肉詰めよ!
ピーマンが苦手な人は、この料理も苦手なことが多いらしい。
ちなみに私はピーマンの肉詰めは大好き。
ロヴァルド様が本当にピーマン嫌いだったら、申し訳ないけれど……。
これからの生活に必要なことは把握しておかなければならないのです。
ごめんなさい、ロヴァルド様。
まずはハンバーグを作る要領で肉ダネを作る。
縦半分に切ったピーマンに粉をまぶして、その肉ダネを詰めて……っと。
そうしたら肉の面を下にしてフライパンで焼き、焦げ目が付いたらひっくり返す。
蓋をして蒸し焼きにしたら完成!
ソースは残った肉汁にワインと自家製トマトソースを入れて煮詰める。
さぁ、今日こそ分かるはずよ!
「本日はピーマンの肉詰めです! 料理長に立派なピーマンを頂いたので……」
「美味そうだ」
あら?
「うん、美味い」
あら?
「少しお行儀が悪くなってしまいますが、パンに乗せて食べるのもおすすめですよ」
「やってみよう」
ロヴァルド様は、私の言葉通りにパンに乗せて一緒に食べる。
……あら?
もしかして、本当に克服している……?
いえ、まだ分からないわ。
私は隙あらばロヴァルド様を観察していた。
「……ロゼ」
「は、はいっ」
「そんなにじっと見られると食べにくいのだが……」
「や、やだ、私ったら! すみません!」
「いや……いつもありがとう」
「ロヴァルド様……」
ロヴァルド様の様子を見る限り、やっぱり今はもうお好きなのかも……。
表情はいつも通りだし、完食もしてくれている。
もし仮にロヴァルド様が今もピーマンを嫌いなら、連日強制的に食べさせている状態よね。
改めて考えてみたら、私って結構酷いことをしている……?
可愛いロヴァルド様を見たいがあまり、ちょっと暴走し過ぎてしまったかも。
……反省。
でも好物の方も知りたいのよね……。
そうよ!
嫌いなものをわざわざ出すよりも、お好きなものをお出しした方が良いに決まってる。
ロヴァルド様のお好きなものを、更に美味しくなるよう研究すればいいんだわ!
そうと決まったら、明日からまた頑張らなくちゃ!
数日後──
研究に没頭しすぎた私は、体調を崩してしまった。
「私があれほど申し上げたのに! 倒れるまで没頭してしまうなんて!」
「あ、アメリー落ち着いて」
「落ち着いております。全くもう……倒れては元も子もないんですよ?」
「ご、ごめんなさい……」
「ロヴァルド殿下にはご報告しましたから」
「え」
「後ほどお茶をお持ちしますから、休んでて下さいね?」
そう言って、アメリーは部屋を後にした。
……アメリーのばかぁ!
ロヴァルド様に報告しなくたって良い──……わけないわね。
もう、私の馬鹿。
皆に心配掛けてまで、やることではなかったわよね。
一人ベッドで反省していると、廊下が騒がしい。
バタンと扉が開いたと思ったら、息を切らしたロヴァルド様がいた。
もしかして走ってきてくれたの?
そう思うと原因が原因だけに、ますます申し訳なくなってしまう。
私は身体を起こし、ロヴァルド様へ向き直した。
「ロゼ……」
「ロヴァルド様……ご心配をお掛けして申し訳ありませ……」
言い終わらないうちに抱き締められてしまった。
「ろ、ロヴァルド様!?」
「すまない、ロゼが料理の研究をしているのは気付いていたが……」
「え?」
「ピーマンで試してただろう?」
「お、お気付きだったのですか!?」
ば、バレてたなんて……。
「バレてないと思って観察しているロゼが、その……愛らしくてだな……」
「……!?」
「早く止めれば良かったんだが……」
「いえ、その、私こそ……申し訳ありません……」
全てバレて泳がされていたなんて。
だとしたら、ロヴァルド様も酷いわ!?
気付いていたなら仰ってくれればいいのに!
私も試していたけれど、ロヴァルド様もだったなんて……もう!
でもこんなに心配して、駆け付けてくれただけで嬉しい。
だからおあいこってことで……良いわよね?
「ロゼ」
「はい、何でしょう?」
「他に具合が悪いところはないか? 後で医者を呼ぶが」
「ご心配には及びません。ただの寝不足でしょうから……」
「そうか……」
ロヴァルド様は私の隣に座り直し、そっと頭を撫でてくれた。
大きな手、大好き。
そしてロヴァルド様は、私にとって呪いとも呼べる言葉を続けた。
「しばらくキッチンへの入室は禁止する」
「……ふぇ?」
「もちろん王城の厨房へもだ」
「え、え」
「そして私の為とはいえ、倒れるまで料理をすることは今後一切禁止だ」
「ロヴァルド様……あの……」
私から料理を取ったら何をすれば……!?
「異論は?」
「うぅ……ありません……」
まさか料理を禁止されてしまうとは思っていなかった。
でも私が悪いのだから受け入れるしかないわ。
でもお料理……うぅ……!
「隣に居るだけでいい」
ロヴァルド様は私の頬をそっと撫で、優しく唇を重ねる。
「はい──……」
これにて本シリーズは完結となります。
番外編までお付き合いいただき、ありがとうございました。
少しでもお楽しみいただけていたら嬉しいです。
ご感想や評価などいただけると励みになります。
またお会い出来ることを願っております。
ありがとうございました!
京野きょう




