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【改稿版】はじめまして、旦那様。離縁はいつになさいます?   作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
4章

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対決の時 1

 

 アグリアが王都の町中でさらわれた直後、ララが本屋の二階の窓辺へと舞い降りた。


「ララ! ご苦労」


 ララの足元に結びつけられた手紙に目を通したフィーが、不敵な笑みを浮かべた。


「アグリアがクロイツの配下の者に誘拐された。行先はシオンが運ばれたのと同じ、王都の西方にある廃教会だ。今頃シオンと再会している頃かもな」


 アグリアが誘拐される直前、軍本部の裏口からシオンらしき人物が密かに運び出されていた。当然すべての動きをつかんでいたフィーは、あとをつけシオンが王都の外れにある廃教会に移されたことを知った。


 タリオンが勢いよく立ち上がった。


「よ、よしっ! なら俺たちも教会にすぐに向かおう。シオンとアグリアちゃんを助け出して、クロイツとガイクスをとっ捕まえなくちゃな」


 拳を握りしめるタリオンを、モンバルトがやれやれといった顔で制した。


「そう焦るな。クロイツはあれでいてそれなりに腕が立つ。何の準備もなしに乗り込めば、腕の一本や二本失うかもしれんぞ?」


 モンバルトの脅しに、タリオンが情けない声を上げ、震え上がった。


「モンバルト、未来の私の補佐をあまりいじめないでやってくれ」

「誰が未来の補佐役だっ! 過労死は真っ平ごめんだ」


 フィーの言葉にすかさず突っ込みを入れたタリオンに、フィーが笑い声を上げた。


「さて、冗談はそのくらいにして」


 フィーの顔から笑みが消えた。


「おそらくクロイツは、急ぎことを片付けようとするはずだ。あまり猶予はない」


 モンバルトとタリオンが深刻な顔でこくりとうなずいた。


「すでに私がガイクスを揺さぶっておいたから、おそらくガイクス自身もすぐに教会に向かうはずだ」

「揺さぶった?」


 モンバルトの問いかけに、フィーが不敵な笑みを浮かべた。


「あぁ。『クロイツという男から、お前から国の機密情報を他国に流すよう強いられたとの陳情を受けたが、本当か?』と聞いたんだよ」


 見事に血の気の引いたガイクスの顔を、お前たちにも見せてやりたかったとフィーが笑った。


「すでに陛下の耳にも入っているらしいと言ったら、慌てて王宮を飛び出していったよ。おそらくクロイツに確かめに行ったんじゃないか。自分を裏切ったのか、とね」

「なるほど。お前もなかなかやるな」

「きれいごとで政は成り立たないからね。国を守るためには時に汚い手だって使うさ」


 タリオンがぞっとした顔でフィーを見やった。


「じゃあガイクスもじき教会に着くってことか……。いよいよなんだな」


 タリオンのなんとも言えない感慨をにじませた声に、フィーとモンバルトが無言でうなずいた。

 そして三人は互いに顔を見合わせると、すっと立ち上がった。


「……よし。じゃあぼちぼち行くか」


 モンバルトが立ち上がった。ふたりもあとに続く。


「アグリア、下手に動くんじゃねぇぞ。お前に何かあったらログに顔向けできないからな。それにシオンのやつも、いい加減前に進んでいい頃だ。じゃなきゃ、いつまでたってものんびりログと酒ものめやしねぇ」


 三人は険しい表情を浮かべ、行動を開始したのだった。


 ◇ ◇ ◇

 

 同じ頃、廃教会ではシオンがクロイツと険しい顔で対峙していた。


「さて、洗いざらい話してもらおうか。シオン。かわいい奥方の顔に傷をつけたくはないだろう。何、お前の知っていることを洗いざらい吐いてくれればそれでいい」

「だから俺は何も知らないと何度もっ……!」


 シオンが苦しげな色を浮かべ、こちらを見やった。


 アグリアは、椅子に縛り付けられた状態で拘束されていた。おまけに猿ぐつわをはめられているせいで、声も出せない。ふんふんとうなりながら、ジタバタと暴れるたびに手首に縄が強く食い込んで地味に痛い。だがそれ以外にはこれといったけがもなく、ピンピンしていた。


(にしても、やっぱりシオンは何も知らないみたい……。勝手にクロイツがシオンが何か握っているって思い込んでいたんだわ。復讐されるのが怖いくらいなら、はじめから悪事なんて企まなきゃいいのよ!)


 心の中で悪態をつきながら、きっと強い目線でクロイツを見やった。


「なかなか威勢のいい奥方のようだが、いつまでその元気が続くかな? すべてはお前次第だ。シオン」


 なんとも忌々しい限りだった。もしも猿ぐつわをはめられていなければ、思い切り罵倒してやるのに。


 アグリアは精一杯の憎しみを込めて、クロイツを見やった。


 教会の中にいるのはクロイツとその部下数人だけで、ガイクスの姿は見えない。外にもおそらく見張りの者が何人かいるのだろう。


 ぐるりと辺りを見渡せば、天井に大きな穴が開いている。そこから雨風が吹き込むせいで、床はすでに完全に朽ち果てていた。

 廃墟と化した教会なんて、もう誰も寄り付きはしないだろう。ということは、ここで何事かが起きても誰にも気づかれないということでもある。


(フィーたちはまだこないのかしら。そもそもガイクスはどうしてまだこないの!? ガイクスとクロイツを一時に捕まえなきゃ意味がないのに……)


 クロイツのねちねちとした尋問は続く。


「さぁ、シオン。すべて吐け。お前は何を知っている? ちょろちょろとお前が私の行動を嗅ぎ回っているのは知っていたが、まさか証拠までつかんでいたとはな」

「何度も言っているだろう! 何も知ら……」


 言いかけたシオンの言葉を、クロイツがさえぎった。


「そう言えば、ランソルのやつも何か嗅ぎ回っていたな。あいつの場合ちっとも身を隠せられていなかったが……。どうせあの日もお前が何か吹き込んで、何かを探させていたんだろう」


 瞬間、シオンの顔色が変わった。


「あの日……? それは一体どういう意味だ」

「今さらしらばっくれるな。お前はランソルから何かを受け取ったはずだ。あの日お前がランソルにそうさせたんだろうが!」


 苛立った様子でクロイツが叫ぶ。シオンの顔からさらに血の気が引いていく。


「……俺は何も受け取ってなどいない。ランソルはそんなこと一言も俺には……。まさか、じゃあランソルは……!」


 何かに思い至ったのか、シオンの動きがぴたりと止まった。と同時にクロイツがはっとしたように顔を歪めた。


「まさかお前……本当に何も? ランソルから何も受け取ってなどいないというのか。何も聞いてなどいないと⁉」


 その顔にはしまった、と書いてあった。


「んーっ! んんんんーっ! んふふーっ!」


 アグリアは必死に叫んだ。いや、猿ぐつわのせいで叫んだというよりはうなった、と言った方がいいだろうか。

 ガタガタと椅子を揺らし、クロイツの注意を引きつけようと騒ぎ立てれば。


「なんだ! 女っ。うるさいぞっ」


 苛立った様子でつかつかとこちらに歩み寄ると、クロイツが猿ぐつわを乱暴に取り払った。ようやく自由になった口で、思い切り叫んだ。


「あなたのしたことは、もうすっかりバレてるんだからっ。でもそれを知っているのはシオンじゃないわっ。私と、フィー……いえ、フェリクス殿下よ!」


 空がのぞく教会の高い天井に、アグリアの声が響き渡った。


「な……なん、だ……と⁉」


 クロイツの手が喉元にかかった。


「それはどういう意味だっ! 女っ。お前が何を知っているっ」


 クロイツの血走った目がじっと見据えていた。その中に追い詰められた狂気を見て取り、ぞくりと背筋に悪寒が走った。けれどもう引き返すことなんてできない。

 きっとクロイツを見据え、アグリアは凛とした声で告げた。


「あなたはガイクス殿下の命で、敵に国家機密の情報を流したのでしょう? 配給品の横領はおまけに過ぎないわ。その見返りに莫大なお金を受け取っていた。違う?」

「……!」

「そしてその秘密に気づきかけたランソルを、爆発事故にみせかけて殺した! 本当はあなたのまわりを嗅ぎ回ってたシオン諸共消すつもりだったけど、シオンだけが生き残った。だからあなたはシオンの復讐を恐れて、今もこうして躍起になってる。何か間違ってる!?」


 ぜいぜいと肩で息をしながら、一気に言い切った。

 クロイツの足元でじゃり、と砂を踏む音がした。ゆっくりと首に回った手に力がこめられていく。


「やめろっ。アグリアに手を出すな! アグリアは何の関係もないんだっ。俺のことはどうしてくれもかまわない。アグリアだけは……!」


 シオンが叫ぶのが聞こえた。


「ぐっ……。く……かはっ!」


 血が頭に昇っていくのがわかる。息ができず、意識が少しずつ遠のいていく。ギリギリと食い込むクロイツの手は、緩むことなく首を締め上げる。


(く、苦しい……。私、このまま死んじゃうのかしら。でもあのままじゃどの道シオンも私も命はない。もうこうするしか……)


 フィーたちはまだ到着していないのだろうか。もうとっくにシオンと自分がここに連れ去られたことは伝わっているはず。

 町でさらわれた時、確かにララの飛び立つ羽音を聞いた。ならばすぐにフィーたちが動いてくれているはず。


 遠くなる意識に、体から力が抜けそうになったその時。


 バアァァァンッ!


「そこまでだっ! クロイツ」


 背後から聞こえたその声に、アグリアは薄れかけた意識をどうにか取り戻した。



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