20 ファミレス
(……お前も、他人を傷つけないために透明を選んだんだな)
傷つけるのが怖くて、傷つけてしまう自分が嫌いで。傷つく前に他人を遠ざける、仮面の下のそういう感情について、津野は昔より理解していた。
(俺は今夜のことが怖くてたまらない。自分の感情を相手に押し付けることになるんじゃないかって。透明は俺を守ってくれた。でも、思いを伝えるってことは自分のことを曝け出すってことだ)
(大丈夫だと思うよ)
文披は言った。
(僕は君を尊敬してる。君は自分のことだけじゃなくて、他人のことを思いやれる人だから)
どこか他人行儀とも、本心から出た言葉ともとれるような調子だった。
(不思議だな。君の顔は透明なはずなのに、色がついてるように見える)
隠してもにじみ出る、津野自身の色。
その時、テーブルに伏せて置いていた文披のスマホが震えた。
(どうぞ気にしないで出てくれ)
津野が促すと、文披はスマホの画面を見た。見て、ぴたりと動きを止めた。スマホを持つ手が小刻みに震えている。それは、あの日ずっと待っていた相手からの電話だった。間違いなく、忘れもしない、夜野の番号だった。文披は通話ボタンの上で親指をさまよわせた。そして、電話を切った。スマホを置く。
(出なくてよかったのか?)
文披は頷いた。
(うん。これでいいんだ)
テーブルのQRコードで勝手に会計を済ませる。
(あのさ、今夜、夜野に会ったら伝えてくれないか。あの日の電話をありがとうって)
(あの日の?)
(頼んだよ。それじゃ)
文披は席を立つ。
(あ、その鞄忘れるなよ)
出張で使っていた大きな鞄のことを思い出して津野は言った。
(大丈夫。ちゃんと背負ってく)
文披はレストランを出ていき、街の透明に溶けて消えた。津野は文披の気持ちをしっかりと把握することは難しかったが、なぜか晴れやかそうな気持ちであることはわかった。
津野のスマホが震えた。夜野からの電話だった。
「もしもし、津野。今から会えないかな」
仮面越しのメッセージではなく、声だった。津野はレストランを飛び出した。
夜野の姿は遠くからでもはっきりとわかった。仮面を着けていない。
「夜野」
声をかけると夜野は振り向いた。久しぶりに出した肉声はかすれた。




