表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明人間  作者: 岡倉桜紅
20/22

20 ファミレス

(……お前も、他人を傷つけないために透明を選んだんだな)

 傷つけるのが怖くて、傷つけてしまう自分が嫌いで。傷つく前に他人を遠ざける、仮面の下のそういう感情について、津野は昔より理解していた。

(俺は今夜のことが怖くてたまらない。自分の感情を相手に押し付けることになるんじゃないかって。透明は俺を守ってくれた。でも、思いを伝えるってことは自分のことを曝け出すってことだ)

(大丈夫だと思うよ)

 文披は言った。

(僕は君を尊敬してる。君は自分のことだけじゃなくて、他人のことを思いやれる人だから)

 どこか他人行儀とも、本心から出た言葉ともとれるような調子だった。

(不思議だな。君の顔は透明なはずなのに、色がついてるように見える)

 隠してもにじみ出る、津野自身の色。

 その時、テーブルに伏せて置いていた文披のスマホが震えた。

(どうぞ気にしないで出てくれ)

 津野が促すと、文披はスマホの画面を見た。見て、ぴたりと動きを止めた。スマホを持つ手が小刻みに震えている。それは、あの日ずっと待っていた相手からの電話だった。間違いなく、忘れもしない、夜野の番号だった。文披は通話ボタンの上で親指をさまよわせた。そして、電話を切った。スマホを置く。

(出なくてよかったのか?)

 文披は頷いた。

(うん。これでいいんだ)

 テーブルのQRコードで勝手に会計を済ませる。

(あのさ、今夜、夜野に会ったら伝えてくれないか。あの日の電話をありがとうって)

(あの日の?)

(頼んだよ。それじゃ)

 文披は席を立つ。

(あ、その鞄忘れるなよ)

 出張で使っていた大きな鞄のことを思い出して津野は言った。

(大丈夫。ちゃんと背負ってく)

 文披はレストランを出ていき、街の透明に溶けて消えた。津野は文披の気持ちをしっかりと把握することは難しかったが、なぜか晴れやかそうな気持ちであることはわかった。

 津野のスマホが震えた。夜野からの電話だった。

「もしもし、津野。今から会えないかな」

 仮面越しのメッセージではなく、声だった。津野はレストランを飛び出した。

 夜野の姿は遠くからでもはっきりとわかった。仮面を着けていない。

「夜野」

 声をかけると夜野は振り向いた。久しぶりに出した肉声はかすれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ