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其の佰肆拾肆:終幕

【登場人物】


雅狼朝霧爛菊がろうあさぎりらんぎく(18歳)……前世が人狼皇后だった人間の少女。二百年間、犬神の皇に魂を捕われて記憶と人狼の能力を奪われ、ただの人の子として現世に転生させられた。神鹿から妖力吸収の力を授かり、再び人狼に戻る為に数多くの妖怪と出会う。


雅狼如月千晶(がろうきさらぎちあき)(327歳)……あらゆる妖怪のトップ大神乃帝である人狼の王で、爛菊の夫。二百年前に妻を失ってからずっと転生を信じて探し続けて、ついに爛菊を見つける。彼女を元の立場に戻すべく、人間界で爛菊の手伝いをする。


雅狼左雲渚(がろうさくもなぎさ)(320歳)……千晶の弟で司とは双子の兄にあたる王弟。丁寧な敬語を主とする。千晶が留守の間は帝代理を務めていた。常に落ち着いた姿勢で周りを見ている。


雅狼八雲司(がろうやくもつかさ)(320歳)……千晶の弟の一人である人狼国の王弟。傲慢で言葉遣いも悪く、爛菊の存在を快く思っていない。前世の爛菊を殺害し、200年もの間牢獄に入っていた。それでも一応、国を思い面倒見も良く誰よりも家族思いだったりする。


猫俣景虎鈴丸ねこまたかげとらすずまる(118歳)……妖怪猫又の族長の息子で、千晶の同居人。家事全般が大得意で、女好き。とても人懐っこい。人間界での暮らしの方が長く、誰よりも人間社会に詳しい。本来の姿は金と青のオッドアイをしたオスの三毛猫。


響雷馳(ひびきらいち)(70歳)……妖怪、雷獣の子供。物心ついた時には最早両親がいなかった孤児で、ある嵐の日に大百足と戦って傷ついているところを爛菊に拾われ、名を与えられる。千晶の家の居候で、自分も妖怪のくせに世間知らずからくる極度の妖怪恐怖症。


朱夏(しゅか)(推定200歳以上)……妖怪、姑獲鳥。元は人間だった。土蜘蛛から縄張りの一部を与えられて数々の人間を騙してきたが、ある雨の日に雷馳と出会ってからその悲愴感さにいたたまれなくなり、種族も血筋も違うが雷馳の母親になる決意をする。千晶の家で住み込みの家政婦をしている。


飛鳥壱織(あすかいおり)(529歳)……元々はツンデレで一人を好んでいた妖怪、丹鶴。祖母は若い頃に人間に恩返しをした鶴。爛菊の通う高校の保健医をしていて、極度の潔癖症。高慢な性格で趣味は編み物。高度な治癒系能力を持つ。最近、神格妖怪である座敷童子、此花に惚れられて以来一緒にいることが多いようだ。


此花(このはな)(推定400歳以上)……元々は人間の頃、口減らしされた地縛霊だったが人間からの半ば都合の良い祭祀により、神格化された座敷童子。年齢を操ることができる。壱織への想いからようやく自由を得た。


紅葉(もみじ)もしくは呉葉(くれは)(推定1000歳以上)……信州戸隠の鬼女で、爛菊とは前世から仲の良い友人。呉葉は元は人間の両親に与えられた本名で、紅葉は鬼女となってからの名前。第六天魔王から生み出された。


鹿乃静香和泉(かのしずかいずみ)(推定1000歳以上)……妖怪、神鹿で人間からの深い信仰から神格化した千年妖怪。普段は神社の神主をしていて、最初の鈴丸の飼い主でもある。何かと千晶の協力をする。


暁朧(あかつきおぼろ)(年齢不詳)……人狼国で先代から太政大臣を務めていて今は千晶に仕えている。いつも全身を黒の衣装で包む寡黙無表情な性格だが、密かに爛菊を愛していることは司と爛菊以外、誰も知らない。


狗威獣右衛門白露いぬいじゅうえもんはくろ(推定338歳)……犬神族の皇。かつては人狼族の配下だったが人間による犬神信仰の手段に理解ができずやがてそれは、次第に人狼族への恨みへと変わる。人狼皇后である爛菊の魂を捕らえ二百年間かけて浄化し、自分の妃に迎え入れ人狼国乗っ取りを企んでいた。



「絶対零度、発動!!」

 直後、(つかさ)を巻き込んだ状態で(なぎさ)もたちまち氷の結晶の中に、自らを閉じ込めてしまった。

「そんな、渚……っ!!」

 千晶(ちあき)は思いがけない展開に、強い衝撃を受けた。

 絶対零度の氷は、何があってもどんなことをしても決して溶けない氷だった。

 勿論、割ることも叶わない。


 ――兄上どうか……今度こそ爛菊(らんぎく)様とお幸せに――


 渚からの最後の念話が、周辺に響いた。

 黄金の狼と白銀の狼がユラリと揺れたかと思うと、人の姿になる。

「まさか……こんなことって……!」

 千晶はガクリと膝を折ると、両手を突いて肩を落とす。

「渚様……これが貴方の出した結末なのですね……とても、悲しすぎる……」

 爛菊は二人を封印した氷にそっと指先で触れて、涙を流した。

「司……渚……そして(おぼろ)まで……俺は失ったのか」

 千晶は咽喉から声を絞り出す。

「やっぱり争いは……悲しみしか生まないね」 

 いつの間にそこにいたのか、体力を取り戻した鈴丸(すずまる)が氷の中の双子を見つめながら言った。

 氷の中では、渚の肩に顎を置く黒き妖獣と、それを優しく抱きしめ目を閉ざしている渚の姿があった。

 優しく微笑んでいる渚は、まるで聖人のようだった。

「最後は悲しいが、あのままであればこの妖獣は、破壊獣となっていたことだろう」

 和泉(いずみ)が静かな口調で口にする。

「それでも、これはまるで双子の兄弟の愛情を感じるね」

 そう言ったのは同じく体力が回復した紅葉(もみじ)だ。

「わしは妖怪は恐ろしいが、この二人からは切なさを感じるぞ」

「そうね……妖獣だけでも良かったものを、敢えて自分自身も一緒に封じたのですものね」

 雷馳(らいち)の言葉に、朱夏(しゅか)も目を潤ませながら答える。

「三人が犠牲になった中での、帝覚醒だ。千晶、立派な帝となり国を治めろ。后妃もな」

 和泉の力強い言葉に、千晶と爛菊も力強く首肯した。

「ああ、ああ。勿論だとも!」

「はい! 立派にお務め致します。千晶様を精一杯支えながら」



 そして一ヵ月後――


 その間、朧の遺体は丁重に弔われ、双子が封じられた氷は大神国の神殿に大切に安置された。

 和泉から毎日一回、巫女の役割も持つ皇后である爛菊が妖獣――司を浄化すればいつの日か、不浄から救い出せるだろうと助言を受け爛菊は毎日、氷越しから司を浄化する祈りの日々を送った。

 やがてはこの氷が溶け封印から開放され、きっと今度は賑やかにそして司から自分が受け入れられ、楽しい毎日を過ごせる日が来ることを信じて。


 人間界では、嶺照院(れいしょういん)邸が崩壊した際、爛菊は死んだことになっていた。

 猫又の鈴丸が一人、学校に通うことになったが寂しくはなかった。

 何せ全校生徒の女子が彼を放っておかないことと、暇になれば保険医の壱織をからかいに保健室を訪ねる日々だからだ。

 

 女の子と間違われることの多い、美児童な雷獣の雷馳も周りからちやほやされ、鈴丸と一緒に住む家に帰ればすっきりと掃除された、同じく同居している種族は違うが母親である姑獲鳥の朱夏の作る、美味しいご飯が待っていてくれた。

 

 ちなみに座敷童子の此花は今や、丹鶴である壱織の家で同棲生活を送っていた。


 神鹿の和泉は相変わらず、鹿乃神社で神主としての日々。


 紅葉は時々、爛菊を訪ねて大神国へと遊びに来る。

 

 千晶と爛菊はこの一ヶ月、長期療養で何とか心も癒すと――。




「帝、万歳!!」

「皇后、万歳!!」

 婚姻の儀式にて、国民に祝福を受けていた。

「それで? 何で貴様が朧の後継ぎの大臣なんだ!?」

「いいじゃないの。この三十二人の防衛が一人である神の俺が、直々にお前の元で仕えようってんだぞ。こんな恐れ多くも光栄なことはないだろうよ」

 千晶の斜め後ろで控えていたのは、天活玉命あめのいくたまのみことだった。

 千晶の隣では彼の不快さにクスクスと、困り顔で笑っている正装した爛菊がいた。

 この五メートル程の高さがある舞台で、国民に手を振る帝と皇后。

 そして地上で二人を称えている国民。

 やがて今度は、千晶が空高く遠吠えをし、これに爛菊も続く。

 ずると少しの間を置いてから、国民達も全員が空へと遠吠えをした。

「ぅわマジか。さすがにマネできねぇわ」

 活玉(いくたま)は言いながら指で耳の穴を塞ぐ。

「長かった……この日が来るのが」

「はい。大変お待たせ致してしまいました」

 遠吠えを終えて正面を向くと、千晶と爛菊は言葉を交わす。

「愛している爛菊」

「はい。私も……千晶様」

 そうして二人が熱い口づけをするのに、地上の国民達から拍手と歓声が上がった。

「よしよし。んじゃ、千晶の次はこの俺が后妃とキスを――」

 直後、ゴンと活玉は何者かに後頭部をこぶしで殴られた。

「痛っ! ……――お前は魂になってまで見張るとは、早く成仏しろ」

 “婚礼の儀式を見届けてからと、思いましてな”

 “我が輩はその付き添い”

挿絵(By みてみん)

 千晶や爛菊などには目視出来ないがその場には――暁朧(あかつきおぼろ)狗威獣衛門白露いぬいじゅうえもんはくろが一緒に二人の婚礼を見届けていた。

 ちなみに犬神族は改めて、この大神族の配下となっていた。

 勿論、爛菊側の斜め後ろには鈴丸、雷馳、朱夏、紅葉、壱織、此花も一緒に祝福に来ていた。

 和泉は今更だと、敢えて来ることはなかった。


 その後の二次会は国を挙げて大いに盛り上がった。

 時間はかかったが、ようやく大神族――人狼国に平和が訪れたのだった。




 ――夜。

「さて、と……じゃ、国民達も待ち望んでいるだろうから、早速子作りに励もうか」

 言うや否や、千晶は爛菊を抱き寄せ首筋に口づけを落とした。

「え? ちょ、待っ、千晶様!」

 思わず慌てふためく爛菊。

 二人は襦袢姿で、一段高くなっている畳に敷かれた布団の上にいた。

 爛菊の反応に、顔を上げると悪戯っぽい表情を見せる千晶。

「なんて、もうしばらくはたっぷり、お前を味わわせてもらうけどな。爛菊」

 そうして彼は爛菊を押し倒した。

「あ、やん! 千晶様っ、あ、――アァン……」

 

 二人の甘い夜はまだまだ、始まったばかりだ……。




 ――了――




最後まで読了してくださった読者様々、ここまでお付き合い頂いて心の底から本当にありがとうございます!

 この作品の原点は妃宮が小学生だった頃に描いていた漫画であります。

 当時の舞台は、と言うかキャラの立場は妖怪ではなく、魔界に住む魔族でした。

 しかしこれを書き始めるにあたり、設定を大幅に変更しました。

 人狼の千晶と爛菊はそのままですが、名前を爛菊だけ変更しました。

 猫娘だったのを猫又として鈴丸が、雷神だったのを雷獣として雷馳が、白鳥の化身が丹鶴として壱織が、鹿の化身が神鹿として和泉が変更となりました。

 原案ではまだ、吸血鬼とかもいました。

 そしてベッタベタの恋愛作品でした。

 しかし今になると『妖怪』の設定の方が面白いのではと、相成りました。

 前半ではほぼ、知る限りの妖怪を紹介するような形式で物語を進めました。

 よってまさかのこんな長編になってしまいました。

 本当に読んでくださった方々、大変お疲れ様でした(汗。

 ちなみに原案の方では司は、猫娘と超絶ラブラブで残酷な要素は欠片もありませんでしたw

 渚も白鳥の化身が彼女でしたw

 今回で言うなれば、鈴丸と壱織ですねww

 妖怪と言うと九尾が代表的に大人気ですが、それを敢えて避けたのはそう言う理由だからです。

 大人気な妖怪をこの作品でまで使用するのは、あまりにも単純すぎると思ったのです。

 その代わり、挿絵で強調させてみましたw

 しかしながら自分でも、まさかこれだけ泥沼身内争いになるとは当初、考えてもいませんでした(苦笑。

 それもようやくこれにて終了です。

 本当に本当に、ここまでお付き合い最高にありがとうございました!!!!!


                                     妃宮咲梗 拝

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