正義の見方【12】
部屋を出て、回廊を駆け抜け、広間にたどり着き。
クルドはそこで足を止めて我が目を疑う。
二階へと続く中央階段から、なぜかクレイシスが転がり落ちてきたのだ。
「なッ……! なんでお前がここに居るんだ!?」
クルドは両手をわななかせて叫んだ。
瞬間、道化が虚空から現れてクレイシスの傍に降り立つ。
道化は短剣を振り上げるとクレイシスに襲い掛かった。
クルドは舌打ちし、片腕を突き出して口早に唱える。
「封陣重・撃!」
光の円陣を出現させてクレイシスの身の安全を守るとともに、道化をそこから吹っ飛ばす。
道化は再び虚空へと姿を消した。
クルドはすぐにクレイシスのもとへと駆け寄る。
激しく咳き込みながらゆっくりと身を起こすクレイシスに、クルドはその血に染まった衣服を見て無事ではないことを察した。
「どこを刺された? 無理するな」
「違う……オレじゃ……ない……」
咳き込みながらクレイシスはそう答えてきた。そしてこちらの片腕を掴み、
「庶民が一人、二階で刺されている。すぐに医者がいる」
「刺されたのは耳鳴りがする前か? 後か?」
「おそらく前だ」
「なら安心しろ。この屋敷の時間は止めてある。耳鳴りの前の出血なら今は止まってはずだ。俺が道化を狩った後、お前はすぐに医者を呼びに──」
そこまで言いかけてから、クルドはどうも納得がいかない目の前の疑問に顔をしかめ、言葉を言い換える。
「ところでなぜお前がここに居る?」
クレイシスはため息とともにクルドの腕から手を離し、言い返す。
「その疑問をオレにすることでどんな答えを求めている?」
お手上げに肩を竦めてクルド。
「全てが偶然で起きたことだとでも?」
「……」
再度ため息を吐いて、言葉を払うように手を振ってクレイシスは答える。
「ラウルだ」
「は?」
「ラウルと一緒にここまで来た。裏口に向かう途中でラウルの姿がいきなり消えたんだ」
「それ以前になぜお前がラウルと一緒に居る? いったいどういうことだ? 理由を説明しろ」
「あーもういい。今ので全部わかった。つまりオレは二人の喧嘩に巻き込まれたってわけだ」
「喧嘩?」
言ってクルドは思い出す、あの時のラウルの態度を。
「あの野郎、勝手なことを……!」
舌打ちして頭を抱える。
そんなクルドの横で、クレイシスは今までの経緯を語り始めた。
「モーディ・リアンのことはラウルから聞いた。この屋敷のことも。モーディ・リアンの件に関してはラーグ卿だけじゃない、オレも関わっている」
クルドは怪訝な表情で問い返す。
「なに? お前もだと?」
「もしモーディ・リアンが真実を知らされずに処刑されたのならば、モーディ・リアンが心の底から恨んでいるのはラーグ卿ではなくオレだ」
「よくわかっているじゃないか、クレイシス伯爵」
心無い拍手を響かせて、道化が天井のシャンデリアに足を引っ掛け、逆さ吊りとなってこちらを見下ろしてきていた。
道化は紳士的に胸に手を当て歓迎する。
「ようこそ、クレイシス伯爵。僕の舞台に」




