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経験値重視

 

 クーラタルの十三階層で強壮丸を作る間に薬草採取士はLv6になっている。

 少しの間つけていただけなのに。

 ミリアの海女もLv20になっていた。


 レベルアップのスピードが明らかに上がっている。

 上の階層に行くほど、経験値も上がっていると考えていいのだろう。

 あるいは、十二階層から上で初めて出てくる魔物は経験値が多いのか。

 いずれにしても、ここは稼ぎどきだ。


 早く探索者Lv50にして冒険者のジョブを獲得しなければならない。

 それまではあまり動くこともできない。


 盗賊が待ち伏せしていたのは、そこが十二階層だからである。

 盗賊を倒したのがハルバーの十二階層であるという事実は動かせない。

 盗賊のインテリジェンスカードをハルツ公の騎士団に出すときには、十二階層で倒したと聞かれれば答えることになるだろう。


 ハルバーの迷宮に入って、俺たちが十三階層や十四階層で探索を行うことは控えた方がいい。

 誰かに見られたとき話がややこしくなる。

 なんで十四階層で探索している人間が十二階層に行ったのかと。

 杞憂かもしれないが。


 しばらくはクーラタルで狩を行うべきか。

 クーラタルの方が人は多いので誰かに会う危険は大きい。

 しかし、ハルツ公領内のハルバーの迷宮で誰かと遭遇したら、その人物はハルツ公とつながりがあるかもしれない。

 クーラタルで誰かに会っても、その誰かがハルツ公の知り合いである可能性はほとんどないだろう。


 キャラクター再設定を行う。

 必要経験値二十分の一と獲得経験値二十倍をつけた。

 経験値を重視するならこれでいくしかない。


 現在探索者Lv37なので、ボーナスポイントが百三十五ある。

 必要経験値二十分の一で63、獲得経験値二十倍で63。

 キャラクター再設定をはずすことはできないので、フォースジョブまで振って7ポイント使うと、残りが1ポイントになってしまう。


 サードジョブまでで我慢すべきか。

 三つだと探索者、英雄、魔法使いになる。

 万が一を考えれば僧侶もやはり必要か。

 フォースジョブにして、残り1ポイントは詠唱短縮に振った。


「セリー、十四階層の魔物は何だ」

「クーラタル十四階層の魔物は、ハットバットです。飛ぶ上に小さいので攻撃がなかなかあたりません。前衛の頭の上を飛び越してくるので、後衛も要注意です。魔法には比較的弱く、水魔法と風魔法と土魔法を弱点とします」


 後衛の俺には嫌な敵だ。

 ロクサーヌの案内でハットバットと対峙する。


 ハットバットは黒いコウモリだった。

 迷宮の中では見えにくい。

 とまって羽を丸めれば、黒い山高帽にでも見えるのかもしれない。


「ウォーターボール」


 げ。

 少し近づけてから撃ったのに、一発めの水魔法が避けられた。

 ハットバットが急に高度を変える。


 二発めの風魔法も避けられた。

 動きが早い。

 三発めの土球からは当たりだした。


 ロクサーヌが正面に立つ。

 セリーとミリアもコウモリを囲んだ。

 俺はロクサーヌの斜め横に陣取る。

 魔法をかわされたとき味方に当たりかねない位置取りはまずい。


 四発めを当てた。

 ハットバットがえぐるように切り込んでくる。

 ロクサーヌが盾でいなした。

 コウモリが動きを止め、体勢を立て直したところに、五発めを喰らわせる。


 ハットバットが墜落した。

 弱点魔法五発か。

 デュランダルでも多分五、六回だろう。


「えっと。何故魔法の名称を?」


 詠唱省略に振るポイントが足りないからです。

 ともいえないので、ロクサーヌに対して何か言い訳が必要だ。

 中二病患者は放っておいてほしい。


「しばらくは連携の訓練も必要だろう。ハットバットには魔法も当たりにくいみたいだしな」

「なるほど。分かりました」

「で、では、次からは数の多いところへ頼む」


 通じるのもそれはそれで不安なのだが。

 複数の魔物が相手なら、全体攻撃魔法を使えばいい。

 全体攻撃魔法ならはずれる心配はない。


 ハットバット三匹とフライトラップ一匹が現れたので、ブリーズストーム五発でコウモリを落とした。

 残ったフライトラップは追加のファイヤーボール三発で倒れる。

 ハットバットは火魔法だけが弱点でないというところが腹が立つな。

 ハットバットのくせに。


「火に弱い食虫植物か、ハットバットか、できればどちらか四匹ずつのところに案内するのが理想ですね」

「そんなにうまくはいかないだろうがな」

「四匹でなければ、三匹と一匹になるのが次善ですか。一匹残っても、それくらいならば戦闘が長時間になってもどうということはありません」


 一匹残ったときに魔物の正面に立つことになるロクサーヌがそういうならそうなんだろう。

 頼もしいこって。


 ロクサーヌの案内で狩を続けた。

 ロクサーヌは、自分で宣言したとおり、四匹や、三匹と一匹、あるいは少しずれても二匹と一匹のところに連れて行ってくれる。

 ハットバットは小さくて動きも早いので、攻撃を当てるのは大変だ。

 セリーやミリアも苦労していた。


 MPをかなり使ったのでデュランダルを出す。

 獲得経験値二十倍を丸ごとはずし、武器六を取得した。

 必要経験値減少のスキルはどういう風に作動するか分からないので、あまり動かさない方がいい。


 サードジョブにして詠唱省略もつける。

 デュランダルを使うときは俺が囮になればいい。

 攻撃は俺とロクサーヌに集中するから、僧侶は必要ないだろう。

 俺が攻撃を喰らってもデュランダルのHP吸収がある。


 デュランダルを持ってハットバットに接近した。

 コウモリの動きを見据える。

 セリーやミリアでさえ苦労しているのに、そんなに簡単に攻撃を当てられるとは考えない方がいい。

 ハットバットが体当たりをしようと突っ込んできた。


 オーバーホエルミングと念じる。

 突っ込んでくる正面に一撃浴びせ、体をひねりながらもう一撃加えた。

 横を通るハットバットにさらに一撃、は無理か。

 オーバーホエルミングがあればロクサーヌのように敵の攻撃を避けることが可能だ。


 コウモリが俺の前、のどの高さくらいに戻って動きが止まったとき、再びオーバーホエルミングを起動させる。

 小刻みにデュランダルを動かして二度叩いた後、三発めを振り下ろした。

 これなら三回いける。


 ハットバットが床に落ちた。

 次の獲物に襲いかかる。

 オーバーホエルミングがあれば、ハットバットも敵ではない。

 MPも使用した分以上回復するみたいなので、問題ないだろう。


「すごい、です」


 ミリアがほめてくれた。

 オーバーホエルミングさまさまだ。


 デュランダルでMPを回復する。

 オーバーホエルミングを多用するので効率はよくないが、しょうがない。

 十分に回復した後、ロクサーヌに頼んでハットバットと食虫植物の群れに案内してもらった。


 フォースジョブをサードジョブまでにすると4ポイントあまる。

 詠唱短縮を詠唱省略にして2ポイント、獲得経験値上昇に1ポイント、残り1ポイントは、メテオクラッシュにつけておいた。

 魔物の群れにメテオクラッシュを使用する。


 ハットバットは火魔法以外が弱点、食虫植物は火魔法が弱点。

 メテオクラッシュが火属性魔法かどうかが分かるかもしれない。

 と思ったのに、コウモリもフライトラップもメテオクラッシュ一発で全滅してしまった。


 属性は関係ないのか。

 杖を強化したから一発で倒せるようになったのか。

 わざわざ弱い武器に持ち替えて試してみるのも嫌だ。


 倒せるのだから別にいいだろう。

 喫緊の問題というわけでもない。

 初めて見た魔法にミリアが驚いているのを確認しただけでよしとしよう。


 その後も狩を続けた。

 大丈夫だ。

 十四階層では戦える。


「セリー、クーラタル十四階層のボスは何だ」


 昼に一度迷宮を出たとき、セリーに尋ねた。


「ハットバットのボスは、パットバットです。強化されたコウモリですが、特に攻撃力が強いわけではありません。ただし、こちらを麻痺させるスキル攻撃をしてきます。麻痺してしまうと薬を使うか自然に治るまで待つしかないので、要注意です」

「薬は抗麻痺丸でいいよな。二つしかないが」

「毒と違ってそれで死ぬことはありませんし、スキルなので中断もできます」


 大丈夫そうか。

 レベルアップのためにはなるべく上の階層に行った方がいいだろう。

 十四階層を突破して十五階層に進むべきか。


「十五階層へ行っても大丈夫だろうか」

「問題ありません」

「いけると思います」


 ロクサーヌとセリーから了承を得た。

 しかしこの二人からネガティブな答えが返ってきたことはあまりないな。

 ロクサーヌはもちろん、実はセリーも結構イケイケドンドンなんじゃないだろうか。

 ちゃんと合理的に判断できているのだろうか。


「大丈夫、です」


 ロクサーヌが訳すと、ミリアまでうなずく。

 大丈夫なのか。

 この世界では厳しいのが当たり前で、俺が安全マージンを取りすぎなのかもしれない。


 上に上にと進んで行くのはちょっと怖いが。

 あまり怖がってばかりでもしょうがない。


 午後に十四階層の地図を持ってクーラタルの迷宮に入った。

 抗麻痺丸は俺とセリーが一個ずつ持つことにする。

 地図に従って進んだ。

 ミリアに様子を確認させ、ボス部屋に入る。


「雑魚は俺が片づけるから、ボスを頼む」


 パットバットとハットバットが一匹ずつ現れた。

 コウモリが二匹か。

 ハットバットじゃなくてフライトラップかサラセニアがよかったのだが。


 贅沢はいっていられない。

 出てきたものはしょうがない。

 オーバーホエルミングと念じて、ハットバットに斬りかかる。


「来ます」


 ハットバットを片づける前に、ロクサーヌの声が飛んだ。

 スキルだ。

 発動させない方がいい。


 オーバーホエルミングと念じて、ボスを斬りつける。

 なんとか間に合ったようだ。

 スキルが起動する前に、デュランダルで叩けた。


 すぐにハットバットの正面に戻る。

 オーバーホエルミングで屠った。

 ボスの囲みに入る。


 ここまでくれば必勝パターンだ。

 高く飛べるので何度も囲みを破られたし、オーバーホエルミングを使わないとなかなか攻撃も当たらないが、順次削っていく。

 最後もオーバーホエルミングでデュランダルを叩き込み、きっちりと仕留めた。


「セリー、十五階層の魔物は」

「クーラタルの迷宮十五階層の魔物はグラスビーです」

「グラスビーか。なら一匹ずつ戦う必要はないな。ロクサーヌ、数の多いところを頼む」

「かしこまりました」


 十五階層に移動して、魔物を探す。

 グラスビー二匹とハットバット二匹の群れだ。


「ブリーズストーム」


 風魔法六発で倒した。

 六発か。

 やはりどんどん強くなっていくようだ。

 レベルを上げている暇がないので、上に行けば行くだけ苦しくなってしまう。


 パーティーのジョブ構成も問題だ。

 ロクサーヌの獣戦士、セリーの鍛冶師、ミリアの海女、どれも効果に知力上昇がない。

 知力上昇があれば、少しは楽になるのではないだろうか。


 巫女や僧侶にジョブを変えるか。

 しかし、腕力上昇がなくなれば、デュランダルを出したときに苦しくなってしまう。

 それも痛し痒しか。

 デュランダルを出したときに長期戦になると、痛い目を見るのは俺だ。


 そのまま戦いを続ける。

 次の戦闘では、セリーもミリアも攻撃を浴びた。

 やっぱり、長期戦になるので被弾も増えるようだ。


「戦いが長引けば何度か攻撃を受けることも考えられる。それでも問題ないか。手当て」


 手当てをしながら尋ねる。


「何の問題もありません」

「そうか。手当て」

「私は大丈夫です」

「大丈夫」

「分かった。手当て」


 セリーもミリアも自己申告では大丈夫らしい。


「もう大丈夫です」

「よし。次はミリアだ。手当て。俺が後ろにいるときには、防毒の硬革帽子はセリーが着けろ。手当て」

「よろしいのですか」

「その代わり、毒持ちのグラスビーはセリーが積極的に受け持て。手当て」


 セリーとミリアを回復させた。

 詠唱省略がないと、なにやら変わった趣味の人間みたいだ。


 今のところ、毒を防げる装備品は一個しか持っていない。

 ロクサーヌは回避力に期待するとして、ミリアも最前線でばりばり戦わせるのはまだ不安がある。

 セリーにがんばってもらうしかない。

 セリーと帽子を交換する。


 それでも、グラスビーが三匹以上のときにはしょうがない。

 ミリアが攻撃を受けた。


「あ。あ。あ。あ」


 グラスビーの攻撃を浴びたミリアがうめく。

 あれは毒だ。

 喰らったことがあるから分かる。

 すぐに毒消し丸を取り出した。


「ロクサーヌ、少しの間、頼む」

「はい」


 五発めのブリーズストームを放ち、毒消し丸を口に含んだ。

 ミリアを抱き寄せる。

 唇に吸いついた。

 舌をこじ入れ、口を開けさせる。


 毒消し丸をミリアの口に送り込んだ。

 ミリアの舌があえぐように震えている。

 舌を重ね、優しくあやした。


 ミリアの舌がすがるように絡みついてくる。

 情熱的な動きだ。

 ミリアの舌が自分から積極的に動くのは初めてだ。


 いつまでもこうしていたいが、そういうわけにもいかない。

 ミリアを抱きかかえている俺に、グラスビーが体当たりをしてきた。

 毒針を受けてしまえば俺まで毒にかかる恐れがある。


「ブリーズストーム」


 ミリアから口をはずし、六発めの魔法を唱えた。

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[気になる点] 主人公、いつまで仲間奴隷にまで能力秘密にしてるん? 情報共有の大事さ知らんのか。 マジクソやな
[気になる点] >キャラクター再設定をはずすことはできないので サラッと書かれたけど、これ万が一ミスって外したら二度と再設定ができなくなるとしたら悲惨なことに……。
[気になる点] 詠唱省略のスキルのこと話せばいいのに
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