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お尋ね者

ハルバーの十二階層で倒した賊を、山賊→海賊に変更しました。

 

 ロクサーヌに頼んで、食虫植物のいる群れにも案内してもらう。

 風魔法六発でグラスビーを撃墜した後、フライトラップをファイヤーボール三発で倒した。

 今までに経験したことがないほどの長期戦だ。


「やはりフライトラップやサラセニアは一匹までのところがいいですね。そういうところに案内します」

「一匹でも苦しいと思うが」

「一匹ならばどうにでもなるでしょう」

「むしろ、十六階層に上がってしまうのも手かもしれません」


 ロクサーヌだけでなくセリーまでが恐ろしいことを提案してくる。

 やっぱりイケイケなのか?


「十六階層にか」

「クーラタル十六階層の魔物は、ビッチバタフライです。風魔法が弱点になります。ハットバットも風魔法で倒せます。十五階層より十六階層の方が戦いやすいかもしれません」


 なるほど。

 きっちり合理的に考えているらしい。

 さすがはセリーだ。


 クーラタルの十六階層では、多分半分くらいは十六階層の魔物であるビッチバタフライが出てくるだろう。

 次に多いのが十五階層の魔物のグラスビー。

 さらには十四階層の魔物であるハットバットと続く。

 十六階層なら上位三種類が全部風魔法を弱点とするわけか。


 フライトラップやサラセニアが出てくる可能性は十五階層より下がる。

 風魔法だけで戦えばいいなら少しは楽になるか。


「それでうまくいけばいいな。十五階層でそれなりに戦えるようなら、十六階層に行ってみよう」

「それがいいと思います」


 いきなり行くのも危険なので、しばらくは様子を見た。

 やはり十五階層では被弾が増える。

 ハットバットが前衛の頭を越えてきて、俺まで攻撃を受けてしまった。

 約一名は驚きの安定振りだが。


 デュランダルを出して、セリーと帽子を交換する。

 手当てを使うのでMPの減りが早い。


 デュランダルを出すときにはスキルをはずすので獲得経験値が少なくなる。

 上の階層へ行けば、通常もらえる経験値は増えるだろうが、デュランダルを出す回数も増加し、その分経験値が下がる。

 結局、トータルで見て上の階層に行った方が得かどうかはよく分からん。


「ロクサーヌ、次は魔物の種類の多いところへ頼めるか」


 MPを全快して、ロクサーヌに頼んだ。


「えっと。こっちですね。四種類の魔物のにおいがします」


 十五階層は最大四匹なので、魔物は最大で四種類だ。

 忘れてた。

 十六階層からは魔物が最大で五匹出てくるはずだ。

 十六階層は大変か。


 いや。全体攻撃魔法を使うなら、魔物の数は問題ではないか。

 ロクサーヌがいるから、その辺のところはなんとでもなる。

 たくさん倒せるから、経験値的にも十六階層の方が得なのか。


 グラスビー、ハットバット、フライトラップ、サラセニア各一匹ずつの群れに、メテオクラッシュをお見舞いした。

 洞窟いっぱいに灼熱の岩石が広がる。

 グラスビー以外の魔物が倒れた。


 グラスビーだけが倒れないのか。

 風魔法が弱点のグラスビーが倒れないのはいい。

 火魔法が弱点のフライトラップとサラセニアが倒れるのも当然だ。

 ただ、ハットバットが倒れるのがよく分からないんだよな。



 その日は、十六階層へは行かずに狩を終えた。

 あまり駆け足で進みすぎるのも危険だ。

 十六階層に行くのは明日の朝でいい。


 探索者はLv38に上がっている。

 あと一つ上がれば詠唱省略を取得できる。


 家に帰ると、仲買人のルークからの伝言が残っていた。


「コボルトのモンスターカードを落札したそうです。五千四百ナールですね。それと、すぐに来てほしいと書かれています」


 ロクサーヌがメモを読む。

 コボルトのモンスターカードか。

 すぐ来てくれというのはなんだろう。


「ではちょっと行ってくる。三人は夕食の準備を頼めるか」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」

「仲買人には気をつけてください」


 商人ギルドへと飛んだ。

 受付でルークを頼むと、すぐに出てくる。

 商談用の小部屋に通された。


「お呼び立てしてすみません。まずはコボルトのモンスターカードです」

「確かに」


 ルークがモンスターカードを出してくる。

 鑑定で本物と確認した後、次回分手数料と併せて銀貨五十九枚を払った。

 ルークはきっちりと本物だけを納品してくる。

 やはり仲買人としては信用できるようだ。


「実はコボルトのモンスターカードは前回も五千四百で落札されています。私が入札してくることを警戒した相手に先に取られてしまいました。同じ値段で落札を続けると、こういうことがあるので厄介です」

「そんなこともあるのか」


 仲買人も大変らしい。

 確かに、相手が五千四百まで競ってくることが分かっていれば、五千三百で落札しようとは思わないだろう。

 いろいろと駆け引きがあるようだ。


「ですので、今回も最高予定価格での入札となってしまいました」


 それはどうか分からないが。

 元々五千四百で落札したから相手にこちらの最高予定価格がばれたわけで。


「まあ、コボルトのモンスターカードは今回で終わりだ」

「はい。あと、ハルツ公の騎士団から伝言をお預かりしています。すぐに来てほしいとのことです」


 すぐ来いといったのはハルツ公の騎士団だったのか。

 鏡でも売れたのだろうか。


「ハルツ公の騎士団からか。分かった」

「確かにお伝えいたしました」


 コボルトのモンスターカードを受け取って、商人ギルドを後にする。

 アリのモンスターカードを注文しようかとも思ったが、やめておいた。

 確かに現状の帽子一個では足りない。

 毒に対する装備はもう少しそろえたい。


 ただし、注文してから実際手に入るまでには時間がかかる。

 アリのモンスターカードがきたとき、俺たちがどの階層で戦っているかは不明だ。

 そこではもう毒を使ってくる魔物はいないかもしれない。

 備えあれば憂いなしだから、用意はしておいた方がいいのかもしれないが。


 家に帰り、風呂を沸かした。

 今日はいろいろあったので、のんびりしたい。

 そのため早めに切り上げたので、ルークのところにも行くことができた。


 夕食後、セリーに鍛冶をさせる。

 コボルトのモンスターカードが手に入ったので、ウサギのモンスターカードと一緒に融合させた。

 セリーの鋼鉄の槍に詠唱中断のスキルをつける。

 こちらも役立ってくれるだろう。


 今日の作業をすべて終え、風呂に入った。

 風呂では、ミリアがお湯の中で気の向くままに身体を浮かべている。

 仰向けになり、顔を水面から覗かせていた。

 気持ちよさそうだ。


 ロクサーヌとセリーは、俺の両隣にいる。

 気持ちいい。

 俺が。


「今日はいろいろあったけど、風呂は気持ちいいな」

「はい。最高です」


 最高なのはロクサーヌの尻尾だ。

 お湯の中、ロクサーヌの身体の下に腕を回した。

 尻尾の感触を楽しむ。

 身体を軽く抱き寄せると、豊かなふくらみが俺の胸板で弾んだ。


「ミリアも気持ちいいか」

「はい、です」


 ミリアが返事だけをよこす。

 気ままなものだ。

 風呂桶の中で空いている方へと流れていった。

 まさに、たゆたうというのがピッタリくる。


 別にそこまで広い風呂桶でもない。

 ミリアの尻尾が俺の足に触れている。

 二つの島が浮かんでいた。


「ミリア、この間買った鍋で作る魚料理って、すぐできるのか」


 ロクサーヌが訳すと、すっごい勢いで飛んでくる。

 俺の上に乗ってにじり寄ってきた。

 顔が近い。


「できた、です」

「この場合はできるだ。できる」

「できる、です」


 すべすべとしたミリアのお腹に俺の大事なものが当たった。

 ミリアが気にしている様子はまったくない。

 懸命に俺の顔を覗き込んでくる。


「では、明後日の夕食でどうだ」

「できる、です」


 俺から回答を引き出すと、また離れていった。

 現金なやつめ。


 魚料理を出す約束をすればミリアが喜ぶことは分かっている。

 二日後ぐらいならちょうどいいだろう。


 明日では早すぎる。

 四日後や五日後では間が持たない。

 明後日なら、それまでがんばってくれるはずだ。


 もっとも、その日のキスはまたあっさりしたものに戻ってしまった。

 毒消し丸を口移ししたときの情熱はあのときだけのものだったのか。

 情熱的なキスはロクサーヌと楽しむからいいけどね。


 翌朝も同様だった。

 ミリアには情熱的なキスは期待できないかもしれない。

 三人と三様のキスをした後、ハルバーの十二階層に入る。

 グラスビーのボスと戦うのは十二階層からがいいだろう。


 盗賊のいた小部屋に飛んだ。

 ハルバーの迷宮でダンジョンウォークを使っているところを誰かに見られるのは少々まずいが。

 いざとなったらセリーを探索者にすればいい。


 小部屋を中心に探索を行う。

 小部屋を右に抜けると、すぐにボス部屋だった。

 やはり思ったとおりだ。


 盗賊たちはボス部屋のすぐ近くに網を張っていた。

 強そうなパーティーが来たら、親切めかしてボス部屋に通していたのだろう。

 朝早いこともあり、待機部屋には誰もいない。


「グラスビーのボスはキラービーです。毒には注意が必要です。確実に毒を与えるスキルも使ってきます」


 やはり毒を使ってくるのか。

 セリーの武器に詠唱中断がついたから、スキル対策は万全だ。


 グラスビーを最初に屠り、ボスへの囲みに加わる。

 正面に立ったロクサーヌが一対一で攻撃を喰らうはずもない。

 ボスはあっさりと倒れた。


 クーラタルでは十二、十三、十四階層のボスを倒している。

 十二階層のボスくらいは楽勝だろう。


 ハルバーの十三階層では一度も戦うことなく、すぐにクーラタルの十五階層へ移動する。

 一度倒し自信をつけた状態で十五階層のボスに挑めるのはありがたい。

 地図に従って、ボス部屋まで進んだ。


「ではミリア、頼む」


 ミリアを送り出す。

 ミリアが待機部屋を確認して、手招きした。

 早朝だし誰もいないようだ。


 一度勝っているからといって気を抜くようなまねはしない。

 慎重かつ可及的速やかにキラービーを倒した。


「クーラタル十六階層の魔物は、ビッチバタフライです。風魔法が弱点で、火魔法に耐性があります。近づくと、こちらを麻痺させるスキル攻撃をしかけてくることがあります」

「麻痺のスキルか。セリーの武器が間に合ってよかった」

「はい。がんばります」


 ビッチバタフライは、蝶というよりはでかい蛾だ。

 ばたばたと飛び回る姿は、流麗でも可憐でもない。

 まあ魔物だしな。


 動きはやや鈍い。

 ブリーズボールがきっちり当たる。

 風魔法七発で倒した。


「ロクサーヌ、風魔法が有効な、ビッチバタフライ、グラスビー、ハットバットがいるところへだけ案内できそうか」

「いけると思います」


 セリーの目論見どおりにいけそうか。

 とりあえずクーラタルの十六階層で戦ってみる。

 シビアな戦いにはなったが、なんとか戦えるというところか。

 朝は、そのまま十六階層で狩を行った。


 狩を終えて家に帰る。

 朝食の準備を三人に頼み、俺は一人でボーデに向かった。

 ロビーの壁に出る。


「公爵か団長殿はお見えか」

「はい。公爵の執務室におられると思います」


 騎士団員に居場所を聞き、中に入った。

 勝手知ったる他人の家だ。

 早いのでまだ出かけてはいないらしい。

 廊下を執務室まで進む。


「入れ」


 執務室のドアをノックすると、返事があった。

 ゴスラーの声だ。


「ミチオです。お呼びだと聞きましたが」

「おお。ミチオ殿か。呼び立ててすまんな。よく参られた」


 中に入ると、イスに座ったまま公爵が話しかけてくる。


「いえ」

「実は困ったことになっての」

「まずはお座りください」


 公爵は相変わらずせっかちだ。

 ゴスラーの誘導でソファーに座った。


「困ったことというのは」

「兇賊のハインツという賊をご存知ですか」


 ゴスラーが正面に座って、尋ねてくる。


「いや」

「血を見ることの好きな荒っぽい盗賊です。嘘か真か、エレーヌの神殿で兇賊のジョブに就いたというのが売りの男です。本当かどうかは分かりませんが。いずれにしても、相当手ごわい相手には違いありません」


 俺が倒した兇賊のことだろう。

 名前も確かハインツだった。

 呼び出した用件とはあの盗賊のことか。


「そんな盗賊が」

「元々は隣のセルマー領を本拠地とする賊で、セルマー伯の騎士団員を何人も返り討ちにしています。ハインツもそうですが、第一の手下でシモンという海賊がまた恐ろしいほどの片手剣の使い手です。セルマー伯の騎士団にはかなりの手だれもいました。魔法を使わないとすると、うちの騎士団にもかなう者がいるかどうか」


 シモンというのはMP全解放で爆殺した男だ。

 ジョブも海賊だったし、間違いないだろう。

 剣で戦わなくてよかったらしい。


「その賊が余の領内に入ったようなのじゃ」

「まだ確定ではありませんが、かなり確度の高い情報だと思います。どこかの村を襲うか、あるいは迷宮で待ち伏せでもするか。人を殺しても遺体の残らない迷宮はハインツにとっても格好の狩場です。領内に迷宮が三つ出て、こちらの手が回らないことを見越しているのかもしれません」

「被害が出たのですか」

「まだはっきりとした被害は出ていません。しかし時間の問題でしょう」


 被害は確認されていないようだ。

 おそらくハインツが網を張ってから日が浅いのだろう。

 領内に入って早々に情報をキャッチしたのか。

 ハルツ公の騎士団の情報網もなかなかのものらしい。


「そういうことなのでな。ミチオ殿も気をつけられたい」

「それを知らせていただけたのですか。わざわざありがとうございます」


 まあ情報自体は遅かったが。

 倒してしまったし。


 しかし倒したことをいうわけにもいかない。

 インテリジェンスカードを出さなければいけなくなる。

 しばらくは怖がってもらうより他にないだろう。

 騎士団は無駄足を踏むだろうが、実害はそれほどないはずだ。


「特にボーデにある迷宮は要注意だろう」

「ボーデがですか」

「ハインツ自体はエルフなのですが、手下には人間族が多いようです。今回の情報もそのことからもたらされました。ターレやハルバーはエルフが多いので目立ちます。ハインツが迷宮に入るとすれば、ボーデにある迷宮が一番の候補でしょう」


 ハインツがいたのはハルバーの迷宮だった。

 裏をかいたわけだ。


「なるほど。しかしボーデと決まったわけでも」

「確かにそのとおりじゃ。しばらくはよその迷宮に入ってくれてもいい」

「私も迷宮で見回りを行います。ミチオ殿のパーティーにも騎士団の者がインテリジェンスカードのチェックを求めるかもしれませんが、ご寛恕願います」

「了解」


 それはまずい。

 何のために盗賊を倒したことを黙っているのか分からなくなってしまう。

 よその迷宮に入ってもいいと言われたし、しばらくはクーラタルの迷宮にこもるか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 程よい障害や問題から生まれる緊迫感がいい。
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