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ロッド

 

 朝食の後、セリーに鍛冶をさせる。


「次に作るのは何だ」

「ウッドステッキです。板が二枚必要になります」

「ステッキだから杖だよな。ワンドとは違うのか」


 板を渡しながら訊いた。


「ワンド系の杖はもっぱら魔法の威力を強化します。これに対してステッキ系の杖は魔法攻撃力を高める他に魔物を直接叩くことにも使えます。さっきロクサーヌさんが言っていた、前衛の僧侶や巫女が使う武器です」

「なるほど。両方できると」


 きっと、同じくらいの値段ならステッキ系の方が弱かったりするのだろう。

 同じ値段で魔法の威力も変わらなければ、ワンドを持つやつはいなくなる。

 俺の武器としては、現状ワンド系の杖の方がいいか。


 ただし、将来的にはステッキ系の武器も候補に入る。

 今はそんなことはないが、将来魔物が強くなったら乱戦に陥ることが多くなるかもしれない。

 MP吸収のついたステッキで殴りつつ魔法を使う、という戦闘スタイルもありだろう。


 使った魔法でMPを吸収する、ということには期待できない。

 デュランダルを持った状態で魔法を使ってもMPは回復しない。

 ワンドやステッキにMP吸収をつけても魔法で回復したりはしないだろう。


「で、では作ります」


 セリーが板を持ってスキル呪文を唱えた。

 光がまばゆくあふれ、やがて収まる。

 手元にウッドステッキが残っていた。


「おお。成功だ」

「えっと。新しい装備品は長い間修行をしないとなかなか成功しないはずなのですが。なんか拍子抜けしてしまいます」

「それだけセリーが優秀ということだろう」


 そんなことよりも二枚の板から一本のウッドステッキができることの方に違和感がある。

 そもそも、四角い板から棍棒やウッドステッキができるのがおかしい。

 平板な板から平板な木の盾ができるのは納得できたが。

 スキルの魔法がなんとかしていると考えるより他はないだろう。


「ありがとうございます。ウッドステッキは物理攻撃力もある杖です」

「確かにちょっと痛そうだ」

「ウッドステッキと同様、槍にも魔法が強くなる聖槍という武器があります。ただし、貴重で高価なものなので、オークションでなければ手に入りません」

「そういうのもあるのか」


 回復役が後衛から攻撃するにはいい武器だろう。


 鍛冶の後、商人ギルドへ赴いた。

 ルークからウサギのモンスターカードを買い取る。

 鑑定で本物と確認ずみだ。


「これはコボルトのモンスターカードと一緒に使ってみたいが、コボルトのモンスターカードはまだ五千二百で買いが出ているか」

「まだ出ています。前々回が五千二百、前回が五千三百でした」

「じゃあ仕方ないな。五千四百ナールまで出そう。それでなんとか頼む」


 コボルトのモンスターカードはどこかの客が五千二百ナールで買い集めていた。

 まだ続いているらしい。

 なかなかしぶとい。

 早く目的のものができればいいのに。


 前回の落札価格が五千三百ナールということは他にもコボルトのモンスターカードを狙っている客がいる。

 手に入れるためにはさらに上乗せするしかないだろう。


「承りました。一枚でよろしいですよね」

「……そうだな」


 確かに、セリーの場合失敗することはないだろうから一枚でいい。

 しかしそのことはルークには分からないはず。

 と思ったが、融合に失敗したらウサギのモンスターカードもなくなるのか。

 チャンスは一度、必要なコボルトのモンスターカードも一枚だ。


 前回五千三百で落札した客はもう入札しない可能性がある。

 五千四百にすることはなかったか。

 確実さを求めるならしょうがないか。


 五千二百で買い支えている客はよく続くものだ。

 同時に融合する片方のモンスターカードもそれだけの数を集めなければならない。

 目的のものができなくても、用意していたモンスターカードがなくなればコボルトのモンスターカードを買いあさることをやめるのではないだろうか。


 そう考えると、少し待ってもよかったか。

 まあ数百ナールならしょうがないか。

 他にも狙っている客がいる以上、極端には下がらないだろう。


「では、コボルトのモンスターカードを五千四百ナールまで狙っていきます」

「それと、ヤギのモンスターカードを手に入れたい」

「ヤギのモンスターカードですか。前回は五千ナールで落札されております。前々回は五千百でした。すぐに入手するにはもう少しかかるかもしれません。安いときには四千七、八百から、高ければ五千四、五百ぐらいまでで落札されることが多いかと思います」


 さすがにルークは回答が早い。

 よく覚えているもんだ。

 待合室で入札結果の一覧を見ているセリーが黙っているところをみると、そのとおりなのだろう。


「高いのだな」

「魔法使いはパーティーのメイン火力です。魔法使いのいるパーティーなら魔法攻撃力をアップさせることが強化の第一選択肢になります。また、魔法使いになるような人は実家が裕福であること、魔法使いがいれば上の階層にも行きやすいことから、ヤギのモンスターカードは他のカードに比べてどうしても高くなってしまいます」


 ほしい上にほしいやつが金を持っているカードだということか。


「なるほど。ではしょうがない。ヤギのモンスターカードも五千四百ナールまで出そう」

「承りました」


 やはり一枚でいいとは言わないか。

 俺の方から必要なモンスターカードを指定するのは、それがネックだ。

 身代わりのミサンガや詠唱中断なら何個か必要だが、ヤギのモンスターカードはそんなに何枚もいらない。


 本当は一枚でいい。

 しかし一枚でというわけにもいかない。

 セリーが確実に一回で成功させられることをわざわざルークに教えてやる必要はないだろう。

 ということは、何枚かは買わざるをえない。


 まあ最終的には何枚も必要になるだろうから、無駄になるわけではない。

 魔法攻撃力を強化するヤギのモンスターカードはすぐにも必要なので、仕方がないだろう。

 コボルトのモンスターカードとヤギのモンスターカードを頼んで、ルークと別れた。


 商人ギルドからは、待合室の壁から出るのではなく歩いて外に出る。

 近くの武器屋に行った。



鋼鉄の槍 槍

スキル 空き 空き 空き



 槍の中でいい製品はこの鋼鉄の槍か。

 空きのスキルスロットは最大で三つのようだ。

 三つあるものは二本しかない。


「では、どっちかいい方を選べ」


 その二本をセリーに渡す。


「えっと。が、がんばります」


 何故かセリーが気張って答えた。

 がんばって選ばなくても、あんまり違いはないと思うけどね。


「頼む」

「融合に失敗すると、私では作りなおせませんが」


 ぼそっとつぶやく。

 なるほど。モンスターカード融合をがんばるということか。


「まあ大丈夫だ」


 軽く肩を叩いて、俺は杖の方へ回った。



ロッド 杖

スキル 空き 空き 空き



 よさそうなのは、このロッドか。

 武器屋で売られている杖の中で多分一番いい商品は、大事そうに奥に展示されているダマスカス鋼のステッキだろう。

 しかし、ステッキ系なので今の要求には合わないし、なにより空きのスキルスロットがない。

 今回はスルーだ。


 無造作に何十本も並べられている安い武具なら、空きのスキルスロットつきのものが自由に選べる。

 一つ一つ大事に飾られている高い武具だとそうはいかない。

 高価なよい武具は、最大のスキルスロット数も多くなるだろう。

 一方で生産数や売られている数が減ってしまうため、空きのスキルスロットがたくさんついたものを得ることは難しくなる。


 鋼鉄の槍も空きのスキルスロットが三つあるものは二本しかなかった。

 オークションでしか売買されないようなオリハルコン製の武具は、どうやったら空きのスキルスロットつきのものを選択的に入手できるだろうか。

 これからのことを考えるとちょっと心配だ。


 武器屋や防具屋には足繁く通って、空きのスキルスロットつきのいい武具があったら即決で購入することも考えていかなければならないだろう。

 セリーの作った武具を売却するから、頻繁に通うことに問題はない。


 ロッドや鋼鉄の槍は、大量生産品では一番いい杖と槍というところか。

 どうせたいした違いはないだろうから、ロッドは適当に選ぶ。

 セリーが選んだ鋼鉄の槍も受け取って、両方を購入した。


 今回ロクサーヌの武器は買っていない。

 ロッドと鋼鉄の槍で金貨三枚が吹き飛んだことでもあるし。

 コハクのネックレスとか硬革のジャケットとか、考えてみればロクサーヌのものはよく買ってしまっていた。


「今回は俺とセリーの武器だけで悪いな」

「いえ。かまいません」


 武器屋の外に出て、ロクサーヌを慰する。

 そういつもいつもロクサーヌのものを買うわけにはいかない。


「現状、シミターで特に困ってるわけでもないしな」

「そのとおりです」


 主人として甘い顔はできない。

 毎回毎回ロクサーヌのものを購入していてはつけあがらせるだけだ。

 ときには毅然とした態度を見せなければいけない。


「戦力の強化のためにはパーティーメンバーを増やす必要もある。装備にばかりお金をつぎ込むわけにはいかない」

「はい。確かに」


 世の中思い通りに行かないのだと、そんなに甘い主人ではないのだと、思い知らせる必要がある。

 甘やかしてはいけない。

 なめられてはいけない。


「稼ぎの悪い主人だとは思わないように」

「とんでもないことです。食事なども贅沢をさせてもらっていますし」


 そのためには、そう、心を鬼にする。

 凛々しく、雄々しく、勇敢に、敢然と立ち向かわなければならない。


「あのくらいの攻撃はかわせとか、しつこい上にいやらしい男は嫌われるとか、さっさと見限って他の主人を探そうとか、考えないように」

「えっと。はい」


 うむ。

 威厳ある、あまりに威厳のある俺の姿。


「いずれロクサーヌの武器を強化することもあるだろう」

「ありがとうございます。私の武器の強化はまだ先でも大丈夫です」

「店の奥に飾られている片手剣はエストックだったか。いいものが並んだらと考えている」

「……いい武器過ぎるように思うのですが」


 厳格な姿勢が功を奏したのか、ロクサーヌはちょっと引き気味だ。

 おそらくは俺の果断な処置に恐れをなしているのだろう。

 容赦ない貫禄を見せつけることができたようだ。


「大丈夫。そのうちに、という話だ」

「は、はい」

「それに、ロクサーヌの武器を強化すればパーティー全体の強化になる」

「ありがとうございます」


 ロクサーヌも自らの立場が身にしみたことだろう。

 ここまでしておけば増長することはないはずだ。


 商人ギルドに戻り、待合室の壁からハルバーの十一階層へ飛んだ。

 新しい武器を試してみなければならない。

 ロッドを手にし、セリーに鋼鉄の槍を渡す。

 セリーからは棍棒を受け取った。



加賀道夫 男 17歳

探索者Lv36 英雄Lv33 魔法使いLv36 僧侶Lv34

装備 ロッド 革の帽子 革の鎧 革のグローブ 革の靴 身代わりのミサンガ


ロクサーヌ ♀ 16歳

獣戦士Lv25

装備 シミター 木の盾 革の帽子 硬革のジャケット 革のグローブ 革の靴


セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv23

装備 鋼鉄の槍 革の帽子 チェインメイル 防水の皮ミトン 革の靴



 さすがに槍は街中を常時持ち歩くような武器ではない。

 長さも二メートル以上ある。

 前衛で振り回す武器ではないとセリーも言っていた。


「セリーが武器を槍に替えているから、しばらくは戸惑うこともあるだろう。無理せずに最初は魔物の数の少ないところから案内してくれ」

「分かりました」

「セリーも、前衛で槍は振り回しにくいかもしれないが、頼む」

「はい。がんばります」

「慣れてきたと思ったら、数の多いところに戻してくれ。判断はロクサーヌにまかせる。俺の杖も強化しているので、以前より戦いやすいはずだ」


 最初にロクサーヌが案内したのは、アリ一匹のところだ。

 ニートアントLv11はウォーターボール三発で倒れる。

 セリーが槍を振るう前に煙と化した。


 三発か。

 ワンドでは四発だったから、ちゃんと強化できている。


 次にロクサーヌが連れてきたところにはミノ一匹がいた。

 ファイヤーボールを撃ち込む。

 こちらに来るまでには倒せなかった。


 魔物の正面にロクサーヌが立ちはだかる。

 横から、セリーが鋼鉄の槍を、俺がファイヤーボールをぶち込んだ。

 牛の攻撃はロクサーヌが軽々と回避する。

 ロクサーヌと対峙してから二発、最初からだとファイヤーボール五発でミノ

Lv11は倒れた。


 弱点魔法のないミノの方は魔法五発か。

 ワンドで七発のものがロッドでは五発になったのだ。

 まずまずというところだろう。


 それでも十二階層の魔物が一.五倍から二倍になるとすると八発から十発か。

 上の階層ではそれなりに厳しい戦いを覚悟しなければならないようだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 奴隷に対する物言いが目に余る。 なんや、威厳を示すって、アホか。 まず大事にせえよ、カスが!
[良い点] 面白いけど主人公が頭悪すぎだし言動が気持ち悪い
[気になる点] 主人公が狡い、未だにロクサーヌが付け上がるとか考えてるのが信じられない、これでは日本で虐められるのも納得
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