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布団作成

前回のあらすじ:ロックバードを倒して羽毛を手に入れた

 ロックバードが残した羽毛をアイテムボックスに入れた。

 羽毛布団か。

 作れるのなら作ってはみたいな。

 柔らかそうだ。


 そのふかふかさわさわぱふぱふの羽毛布団で寝る。

 隣にロクサーヌやベスタをはべらせて。

 布団の柔らかさと、ロクサーヌの肌のなめらかさと背中から尻尾にかけての毛の繊細さと、ベスタの肌の涼しさと。


 最高だ。

 最上だ。

 眠ってなどいられぬ。


 ただし、羽毛は小さい。

 布団を作るのに百や二百では足りないだろう。

 いったいいくつ必要なのか。


 一時間にがんばって五十個集められるとして、一日十時間狩をして五百。

 羽毛布団を作るのに五千個必要と考えれば、十日間三十二階層に居続けなければいけない。

 うむ。それもまたよしか。


 ここのところは一日に一階層ずつ上がっていくという荒行を繰り返している。

 いつか壁にぶち当たるはずだ。

 限界が来たとき、運が悪いと迷宮では死ぬ可能性がある。

 ここらで十日程度ゆっくりするのもいいのではないだろうか。


 あるいは、羽毛布団じゃなくて羽毛枕にするか。

 しかし羽毛枕は好き嫌いが分かれそうな気もする。

 俺が使うとなるとロクサーヌたちには強制ということになるし。

 細長い枕を作れば六人全員で使える。


 何か作るならせっかく得たアイテムの羽毛を売るのは馬鹿らしい。

 早めに決める必要がある。

 ギルドで買うのも馬鹿らしいから、自分たちで狩をするのがいい。

 よし、決めた。


 狩をして、羽毛布団を作ればいいだろう。

 十日ほど一休みだ。

 それくらいはどってこともない。


「次は、向こうですね」

「ロクサーヌ、なるべくロックバードの多いところに案内してもらえるか」


 次の相手を見繕うロクサーヌに指示を出す。


「ロックバードですか?」

「せっかくだから、羽毛布団を作ってみようと思う」

「羽毛布団ですか。分かりました」


 ロクサーヌの承認を得た。

 これで安心だ。


「布地を買っていただければ、みんなで作ります。キルト加工が大変ですが、できるでしょう」


 セリーも賛成のようだ。

 なにやら大変っぽいが、作ってくれるらしい。

 これで十日間ほどゆっくりのんびりだ。


「じゃあそれでいいな」

「はい」

「まあその分上の階層へ進むのが少し遅くなるが」

「いいえ。毎日少しずつ三十二階層で戦っていけば、問題はないと思います」


 がーん。

 俺の短慮はセリーによって打ち砕かれた。

 そうか。

 そうだよな。


 何も三十二階層にこもる必要はない。

 アイテムを採りに戻ってくればいいわけだ。

 毎日少しずつ溜めていけばいい。

 さすがセリーは合理的だ。


 これで今までと同じように一日に一階層ずつ上がっていったら、戦えるかどうか確認する時間が短くなるのではないだろうか。

 失敗した。

 羽毛布団なんか提案しなければよかった。

 まあ羽毛布団自体はほしいからいいか。


 気落ちしてロックバードを狩っていく。

 魔物を倒していくと、ルティナが魔法を使ったとき、一回しか撃たなかったのに俺の魔法が一回減った。

 俺が次の二連打を放つ前に、ロックバードが倒れる。


「さっきより早くなったようです」


 セリーがきっちり指摘してきた。


「では、三十二階層では使う魔法は一回でいいですね」


 ルティナも嬉しそうだ。

 おそらく、ロックバードLv32はオーバードライブに乗せた俺の雷魔法十発でわずかに残るくらいのHPがあるのだろう。

 通常なら俺の雷魔法が十一回必要だか、ルティナが魔法を一回使って削れば十発で倒れると。

 俺は魔法を二連打で使っているから、偶数回に減れば見た目で分かる。


 外からは、六回撃っていたように見えたものが五回で倒れることになる。

 ルティナも、自分が撃った魔法の力がはっきり形になって現れれば満足に違いない。

 役に立っていると俺が言ったところで、実際に戦闘時間が短くならなければうそかもしれないし。

 というか実際うそだったわけで。


「そうだな。ここではそれで頼む」


 三十二階層で、ルティナの魔法一発と俺の雷魔法でどんどんと羽毛を溜めていった。

 いや、魔物を倒していった。

 同じことだが。


 ルティナは、二回めからはほとんどすべての魔物の団体に対して魔法を使っている。

 自分の影響がはっきり形に表れるとやる気も違ってくるのだろう。

 休んだのは魔物が二匹だったときだけだ。


 ロクサーヌが魔物の多いところへ連れて行ってくれるので、二匹ということはあまりない。

 つまり、さっきから魔法は使いっぱなしだ。

 MPは大丈夫なんだろうか。

 やぶ蛇になるのでほってあるが。


「魔物の群れ一つに魔法一回だと、結構撃てるものです。魔法使いは休み休み戦うものだと聞いておりましたが。なりたての場合などは特に」


 気づいてしまったようだ。

 ここは駄目元でもフォローするしかない。


「ル、ルティナが優秀なのかもしれん」

「そうですわね。わたくしですもの」


 ちょろかった。

 ロクサーヌとセリーはなにやらもの言いたげな目をしていたが、視線で黙らせる。

 気合だ。


 念を込めた俺の目線は二人を止めることもできるらしい。

 俺にも風格が出てきたのだろう。

 これぞ主人の威厳というやつに違いない。

 両手を合わせてお願いのポーズをしていたのがよかったのかもしれないが。


 若干二名については、気づいてもいないようだ。

 まあルティナも魔法使いLv29まで育ってきているしな。

 MPは問題ないだろう。



 結局のところ、ルティナは昼休みまで魔法を使い続けた。

 レベルも二つ上がって魔法使いLv31になっている。

 もはや初心者とはとてもいえない。

 徐々にレベルアップもしにくくなってきている。


 ロクサーヌたちの例では、Lv30を超えるとレベルが上がりにくくなった。

 これからは急激なレベルアップは見込めないだろう。

 戦っている階層が上がってきて得られる経験値は増えているはずだが、パーティーメンバーが増えたのでそれだけ分散されているだろうし。


「今日は三十二階層のボス部屋には行かないんですよね」


 昼過ぎにいったん家に帰って休息すると、ロクサーヌが紙切れをひらひらさせながら聞いてきた。

 持っているのはクーラタル三十一階層の地図だろう。

 片づけに行ったとき、ついでに三十二階層の地図を持ってくるかどうかの確認だ。


「今日はこのまま羽毛を集めよう」

「分かりました」


 おお。

 分かってくれた。

 ロクサーヌなら、よろしい、ならばボス戦だ、と言ってくるかもと心配したのに。

 こんなにうれしいことはない。


「元々ボス戦でやってきたのですし、ルティナのおかげで三十一階層でも三十二階層でも戦闘時間が変わらないのですから、事実上、ボス戦を行ってもほとんど何の問題もないと思いますが」


 それなのに何故セリーが分かってくれないのか。

 これは困る。

 なんかセリーに言われるとボス戦にいった方がいいような気がしてくるから不思議だ。


「わたくしが役に立つのであればボス戦を行うのもいいでしょう」

「ルティナが役立っているからこそ、その間に羽毛を集めたい。それに、ボス戦はミリア頼みだしな」

「やる、です」

「問題ないと思います」


 余計なことを言ったのでミリアとベスタまでが向こう側に。

 味方がロクサーヌだけとは。


 上に行けば石化が効きにくくなるかもしれない。

 あるいは石化が効かない魔物がいるかもしれない。

 慎重に進めていった方がいいはずだ。


「三十二階層のボス戦は明日な」


 だいたい、三十二階層で戦っているのは三十一階層のボス部屋が混んでいる代替なのだから、今日は三十二階層のボス戦はやらなくていいのだ。

 午後も引き続き羽毛を集めた。



「そろそろ夕方近いですね」

「そうか」


 ロクサーヌの指示で、本日の営業を終了する。


「まだ少し早いですが、帝都に連れて行ってもらえますか。布団用の布地を購入します」

「やっぱりそういうものは帝都か」

「ご主人様が使われるのですから、いい布地にすべきです」


 そういうものなんだろうか。

 俺としてはどうでもいいが。


「まあ丈夫なもので頼む」

「美しく染色された絹の布地などがよいと思います」

「そうですね。いいものがあればいいのですが」

「絹、です」


 いい布地にするのはセリーやミリアも賛成のようだ。


「綺麗な柄のなんかは布団カバーで使えばいいと思うが」

「布団カバー、ですか?」


 セリーが尋ねてきた。

 こっちでは布団カバーは使わないのだろうか。

 ちなみに、今のところ我が家ではタオルケット代わりの毛布しか使っていない。


「布で袋を作って、布団の上からもう一重かぶせるんだ」

「なるほど。それなら気分によって好きな色を選べますね」

「よごれてもカバーだけ洗えばいいわけですか。カバーだけなら毎日洗えますし」


 洗濯担当のロクサーヌが言ってくるが、毎日は大変だと思うぞ。


「さすがに毎日は大変だろうけどな」

「そうですか? そこまで大きなものにもならないと思いますが」

「結構な大きさになると思うぞ」


 ロクサーヌとは認識の齟齬があるようだ。


「ご主人様が使う布団なので、ご主人様の体の大きさに合わせれば」

「いやいや。布団は全員の体の上に掛けられるくらいのサイズで」


 俺だけが使うから小さいのでいいと思っていたのか。


「えっと。私たちもよろしいのですか」

「いやまあ全員で寝るのだし」

「ありがとうございます」


 ちゃんと一緒に寝てくれるようだ。


「私も柔らかな高級品だという話しか聞いたことがないので、楽しみです」


 セリーを見ても、うなずいてくれた。


「おふとん、です」

「冬に暖かそうだと思います」

「一つの布団に寝るのは、仕方ありませんわ」


 みんなも大丈夫そうだ。

 ベスタは変温動物の竜人族だから、冬はつらいだろう。

 暖かい羽毛布団があれば安心だ。


「大きいものとなると、羽毛を集めるのも大変ですか」


 セリーが考え込む。

 毎日少しずつ集めればいいと言ったのは、俺用の小さいサイズだと思ったからか。

 大きい布団なら時間がかかる。

 やはりここは十日ほどのんびりと。


「寒くなるまでにはまだ日もあるので大丈夫だと思います」


 今度はベスタがまっとうな意見を。

 羽毛布団は暖かいだけが目的ではないと言いたい。


「ご主人様用のでないならば、わざわざ帝都まで行くこともないですか。布団カバーを別に作ればいいのですし」


 ロクサーヌも意見の変更を考えるが、そこまでしなくていい。

 そんなことを言われると意地でも帝都で買いたくなるだろう。

 これは単に俺の性格がひねくれているだけか。

 悪かったな。


「そう言わずに帝都まで行けばいい」


 帝都の冒険者ギルドにワープした。

 布団カバー用の生地も必要なら、一度に手に入れればいいだろう。

 羽毛を集めるのにまだ日数はかかるとしても。

 一緒に買えば三割引の特典もある。


「確か店はこっちだったでしょうか」

「そっちで大丈夫だと思います」


 冒険者ギルドの外でロクサーヌとベスタが確認する。

 二人は店を知っているのか。

 休日のとき二人一緒に帝都を散策させたことがあったから、そのときにでも見つけたのだろう。


 二人に連れられて行ったのは、布地が大量に置いてある店だった。

 服屋とかではなくて、布地だけが展示されている。

 あるいはオーダーメイド専門店かもしれない。


「アントナー商会ですか」


 店に入るときにルティナがつぶやいた。

 ルティナも知っている店だったらしい。


「知っているのか、ルティナ」

「帝都のどこにあるかまでは知りませんでしたが、布地では有名なお店です」

「場所は知らないのに知っていたのか」


 名前が有名ということだろうか。


「用があるときは呼び寄せていましたので」


 そういうことね。

 貴族様は外商専門か。


 生地のことなんかはまったく分からないので、ロクサーヌたちが選んだものを渡されたままに購入する。

 もちろん、時間はたっぷりと。

 布団用と布団カバー用らしい。

 結構な量なので、大きさも考えているのだろう。


 家に帰ると、ロクサーヌとベスタが布団を作り始めた。

 といっても縫って袋にするだけだろう。

 俺はその間に風呂を入れる。

 風呂を入れ終わると、売らずにとっておいた羽毛を全部出した。


「じゃあ軸を取り除いて、羽毛を布団に入れるか。みんなも頼む」


 夕食担当のセリーとミリアを除いて、ベスタ、ルティナと三人で羽毛布団を作る。

 ロクサーヌも布団を縫い終えたらキッチンに行ってしまった。

 羽毛は、手で強くしごくと割と簡単に軸からはずれた。

 軸をはずした羽毛はふわふわのさわさわになる。


 これならそう面倒なことはない。

 ただし、数は多い。

 これを毎日やっていかなければならない。

 しばらくは大変だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 現状一切苦もなくボスでも蹂躙出来てるのに躊躇うのが意味不明、石化耐性のある敵がいるならセリーが調べるだろうし慎重過ぎないか?
[気になる点] 主人公が慎重なのはまだわかるけれど、周囲が冷静に「行ける」って言ってるのに「なんでこいつらはこんな押せ押せで楽観的なんだ」って周りの方がおかしいような考えしてるのは流石に変。逆に自分の…
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