終話 自由の意味
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数年後、リゼットは隣国の王宮で高く評価される侍女となっていた。
フロリアンとの結婚も王家の許可を得て、穏やかに執り行われた。リゼットは結婚後も、本人の希望によって王宮での職務を続けることになった。伯爵夫人という立場になっても、彼女が自分の能力を生かして働くことを、フロリアンは当然のように尊重していた。
リーヴェルト子爵家は公爵家から独立し、領地経営も安定していた。父オスカーは、娘が自分の力で自由を勝ち取ったことを誇りに思い、母マリアンヌは、娘が心から笑えるようになったことを何より喜んでいた。弟ルーカスも、かつて公爵家の意向を気にしていた騎士学校への進路を、自分の努力によって選べるようになっていた。
一方、ヴァルディエ公爵家は、かつての栄華を失っていた。
レオポルトは王家からの監督を受け、領地経営の自由を制限された。
ベアトリスは社交界での影響力を失い、以前のように周囲から持ち上げられることもなくなった。かつて彼女の茶会に集まっていた貴婦人たちは、今では公爵家の名を聞いても、以前ほどの敬意を示さなくなっていた。
ディートリヒは、新たな婚約者を見つけることができずにいた。彼の評判を知る貴族家は縁談を避け、本人もまた、リゼット以上に自分を理解してくれる女性はいないと信じ続けていた。
彼は時折、リゼットの近況を耳にした。
隣国の王宮で活躍していること。フロリアンと仲睦まじく暮らしていること。家族との交流も続け、穏やかな日々を送っていること。
そのたびに、ディートリヒは苛立った。
どうして自分ではなく、あの男なのか。どうして、自分のもとにいた頃より幸せそうなのか。自分は彼女を愛し、教育し、守ってきたはずなのに。
けれど、どれほど考えても、答えは出なかった。
彼は最後まで、リゼットが自分から逃げたかった理由を、理解しようとしなかったからである。
ある春の日、リゼットはフロリアンとともに、王宮の庭園を歩いていた。花壇には淡い色の花々が咲き、柔らかな風が木々の間を抜けていく。
「リゼット、寒くありませんか」
フロリアンが尋ねた。
「大丈夫です。今日はとても気持ちのよいお天気ですもの」
彼は微笑み、彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩いた。
リゼットは、ふと幼い頃のことを思い出した。七歳の春、公爵邸の茶会で、父から贈られた髪飾りを取り上げられた日のこと。あの日の自分は、泣くことさえ許されなかった。
けれど、今は違う。
悲しいときには悲しいと言える。嫌なことには嫌だと言える。誰かの機嫌を損ねることを恐れず、自分の意思で選ぶことができる。
それが、どれほど幸せなことなのか。
リゼットは隣を歩くフロリアンを見上げた。
「フロリアン様」
「はい」
「わたくし、今、とても幸せです」
フロリアンは、優しく微笑んだ。
「僕もです、リゼット」
彼女はその手を取り、春の日差しの中を歩き続けた。
もう、誰かの許しを求める必要はなかった。
自分の人生を、自分の意思で生きていく。
それが、リゼットが長い年月をかけて手に入れた、何より大切な自由だった。
――完――
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