ある罪人の日記
どうしてこんな事になったのだ? 私はどうすればよかったのだ? 地獄の業火がすぐそこまで迫っている。扉を叩く音が強くなってきている。今にも破られてしまいそうだ。重ねた罪が迫ってくる。もう逃げ場はない。神に祈りを捧げたいが、その神をも私は冒涜したのだ。今はこうして罪科を日記に綴る事しかできない。私は無垢な命を卑劣な罠にかけた。その報いが私に裁きを下しにきたのだろう。
ああ、歩いてくる。無垢な命が死へと導きに来ている。筆のインクも少なくなってきた。この黒い線が尽きた時が、私の裁定の時だ。私の後ろには、巨万の富が隠れている。これこそが私の罪だ。審判の時が近い今、私は自分の罪を懺悔したい。
私は昔、闇稼業の一員だった。密売、強盗、誘拐、殺人。考えつく限りの悪徳を働いた。だが、私はそんな生活に嫌気が刺したのだ。この生活から足を洗いたい。組織の金を盗み、私は顔も名前も変えて逃亡した。闇稼業の連中から隠れる為に、肩書きをも名乗ったのだ。私の偽りの肩書きに、無垢な4つの命が集まった。足がつかない子供達を、私は隠れ蓑として利用したのだ。盗んだ大金が入った金庫を守るために、私は4桁の番号を子供達に振り分けた。「1092《とおくに》」そう願いを込めて。何も知らない無垢な命に、私の罪を背負わせたのだ。子供達は与えられた数字に満足していた。その意味を知らずに。だが、長年子供達と暮らす内に、私はあの子達を愛してしまったのだ。汚れのない子供達と共に、人生をやり直したいとまで思ってしまった。
だが、過去は忘れた頃に追ってくる。闇稼業の連中が私の居場所を嗅ぎつけたのだ。奴らは私が子供達に番号を入れたのを知っている。だから、奴らは見せしめとして子供達を殺した。ああ! 哀れな子供達! 買い物から帰ってきた私を待ち受けていたのは、変わり果てた子供達の姿だったのだ! 殴り殺され、ゴミのように捨てられていたピッチ。首を絞められ、物が言えない故に助けを求められずに死んだマイム。1度ならず2度までも火あぶりにされたフレイマー。なんでも食べなさいと私が教えたばかりに、毒を飲んで腹に穴が空いたグルート。待っていたのは凄惨な報復であった。私が子供達の代わりに生贄になればよかったのだ。だが、卑劣な私は我が身のかわいさにこの部屋、地下室に隠れたのだ。子供達はよくこの部屋で遊んでいた。私の原罪の隠し場所とは知らずに。
だが、黒装束の闇稼業どもは私を追っては来れなかった。恐る恐る私が地下から覗き見た光景は、目を疑うものだった。黒装束に包まれた死体。首の骨が折れた死体。そして死んだはずの子供達が、楽しげに遊んでいたのだ。私は恐ろしくなり、この地下室に身を隠した。だが、子供達は私を探している。生きている私を探している。ほら、私を呼ぶ声が聞こえる。
「めいうぇざぁ先生、おれ、悪いヤツやっつけた」
「ごめんなさい先生、ごめんなさいごめんなさい」
「メイウェザー先生、お腹空いたよ」
仕切りに手を叩く音が聞こえる。マイム、君かい? 私は今すぐにでも我が子達を抱きしめたかったが、あれは私の子供達じゃない。私を処刑台へと誘う死霊の参列だ。脳漿を垂らし、折れて骨が飛び出た体でバットを引きずるピッチ。首に青黒い締め跡があるマイム。全身が焼け焦げ、歩くたびに皮膚が剥がれ落ちるフレイマー。毒で爛れた腹から臓物を覗かせるグルート。もはや、私はあの死霊達を我が子達とは思えない。
ああ、扉を叩く音が、処刑の時間が近づいてくる。私はポケットから拳銃を取り出す。許してくれ、子供達。君達の恨みを私の命で贖えるものなら、私の喜んで地獄に行こう。こめかみに冷たい感触が走る。ゆっくり目を閉じて、私は引き金を引いた。
子供達よ、私はいつも一緒だよ……。
メイウェザー
この奇妙な日記が見つかったのは、火事が収まった翌朝のことであった。孤児院"羊の家"は焼け落ち、その中から見つかる大量の怪死体。首の骨が折られたもの、服と僅かな髪を残して消えた死体。立ちこめる異臭に、誰もが事件の捜査を忌避した。
日記が見つかった地下室には、拳銃自殺を図ったと思しき成人男性の遺体があった。奇妙なことに、この男性に寄り添うように、4人の子供の死体があったのだ。どの遺体もひどく損壊し、死因も異なっていた。
一時は世間を騒がせた事件だったが、真犯人は見つからず、自然と風化していった。
だが、時折地下室で、楽しげな子供達の声が聞こえるという…
終わり




