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Goner Kids  作者: 一途貫
4/5

グルート編 なんでも食べなさい

 なんでも食べなさい。メイウェザー先生の口癖だ。オイラ、ピーマンもニンジンも嫌いだったけど、メイウェザー先生のおかげで食べられるようになったんだ。オイラが嫌いなものを残そうとした時、メイウェザー先生が歌ってくれるんだ。


「何でも食べよう食いしん坊。何でも食べよう食いしん坊。お腹をさすって2つ数えよう、2つ数えよう。2つ数えたらもう1つ食べられる。嫌いな野菜も食べられる。苦い薬も飲み込める」ってね。オイラのおへそには、メイウェザー先生からもらった数字「2」のがある。みんなは笑うけど、これはオイラと先生の特別なマークなんだ。これさえあれば、オイラ、なんでも食べれる。


 そんなオイラだけど、今はお腹痛い。なんだかすっごく痛いんだ。目の前には飲みかけのサイダーがある。キリキリとお腹が締め付けられて、とても飲む気になれない。かなり時間が経っているのか、水滴がテーブルに垂れている。お腹は痛いけど、胃に穴が空いたように空腹なんだ。この痛みは、お腹が減り過ぎているからなのかな。時計を見ると3時。オヤツの時間だ。そろそろみんな降りてくるはずなんだ。メイウェザー先生も、美味しいクッキーを焼いて来てくれるはずなんだ。でも、誰もダイニングにいない。ピッチ兄ちゃんはまだ、野球に行ってるのかな? マイム兄ちゃんはあまりオヤツを食べたがらないしな。でも、フレイマーは来るはずなんだ。フレイマーは甘いものが好きで、いつもオイラと最後のクッキーを取り合いになるんだ。フレイマーの奴、取り合いになると「アタシは大人だから食いしん坊のあなたに譲ってあげるわ」って言うんだ。オイラの方が一歳大きいのに。でも、フレイマーの甲高い声が聞こえて来ないと、オイラの胃は空っぽになった。


 お腹が空いたまま、しばらくオイラはテーブルに座って足を広げていた。カーテン越しに見える庭はやけに暗い。雨でも降っているのかな? どこかで雷が落ちたのか、焦げ臭い匂いも鼻に入ってくる。消えかかったストーブみたいにひどい匂いだ。オイラは窓を開けようと椅子を引く。


「そこに誰かいるのか?」


知らない人の声に、オイラはビクッとした。返事をしちゃだめだ。なぜだかそう思った。オイラは口に手を当てて、その場からゆっくり動く。床が軋む音が響いて、誰かが部屋に入ってきた。黒いスーツ姿のおじさん。ツヤツヤなオールバックの髪をかいて、おじさんは用心深そうに辺りを見回していた。オイラは慌てて、テーブルクロスの下に隠れる。


「おかしいな。ガキは全員始末したはずだが」


カツンカツンと、エナメル質の靴の音が響く。始末? 全員? 訳が分からなかった。おじさんの歩く音と一緒に、何が乱暴に落ちる音がする。音はだんだん近づいていく。


「にしても、どこにあるんだありゃあ?」


乱暴にガラスを割る音、引き出しを引きずり出す音。


「ガキどもぶっ殺しても何にもねぇじゃねぇか!」


苛立ち混じりの声と、物が落ちて壊れる音が交互に聞こえる。メイウェザー先生からは聞いたことがない、怖い言葉がオイラの耳を打つ。殺した? どういう意味なんだろう? 訳が分からないけど、これだけはオイラにも分かった。次にオイラが口を開いたらひどい目に遭うっていうことは。テーブルクロスが刃物のようなもので切り裂かれる。肉を切るための包丁だ! 切れた布の先には乾いた血がこびりついている。オイラは慌ててテーブルから顔を出した。包丁を持ったおじさんが、ギョロっとした目を見開いてオイラを見ていた。汗ばんでいる手で包丁をこっちに向けている。赤黒い血が付いた包丁が、外からの明かりで不気味に光っていた。


「何だテメェ!? なんでここにいやがる!?」


ひどく興奮した様子で、おじさんは包丁の先をオイラから離さなかった。怖い。なんとかしないと。オイラはテーブルの上にあった、サイダーの入ったコップを投げつけた。おじさんの顔にサイダーがかかる。怒鳴りつけたまま開いた口にも、サイダーが入っていった。突然の事に、おじさんは目を擦る。


「げぇっ! ぺっ! ふざけやがって。舐めんなよ、このガキ!」


おじさんはすぐに包丁をオイラに向ける。だけど、おじさんは包丁を落として、急に苦しみ始めた。ホットプレートの上で肉が焼けるような音が、おじさんの皮膚から聞こえてくる。


「な……なんだぁ、こりゃあ……。の……どが……やける……」


おじさんの声が潰れていく。お腹を抱えておじさんは崩れ落ちた。テーブルクロス越しに、おじさんのうずくまる姿が見える。おじさんのお腹の部分がじんわりと赤く染まっていく。声にならない声をあげつつ、おじさんはのたうち回った。おじさんのお腹から何かが溢れる。薄桃色の何か。お肉だ。


 お腹の中の物を全部出し切ると、おじさんは、肉の塊は動かなくなった。オイラは恐る恐る床に撒き散らされた肉を見る。床に血が広がって、その中にコップが浮き上がってた。

 ……もったいないな。メイウェザー先生も言ってた。なんでも食べなさいって。オイラお腹空いたな。まるでお腹に穴が空いたみたいだ。落ちている包丁を手に取って、オイラはごちそうの前に座った。メイウェザー先生は食事の前は「いただきます」って言ってたな。両手を合わせて、オイラは包丁で肉を切り分ける。全部食べなきゃ。好き嫌いはダメだ。肉は美味しくなかった。食べているとふと、肉の端に数字の「2」が見える。そうだ、2つ数えたら美味しくなるはず。2を数えると、少しだけ肉が美味しく感じられた。


 食べても食べても、お腹はいっぱいにならない。ふと、オイラはコップに残ったサイダーを見つけた。まだ少しだけ残ってる。思わずオイラは手に取って、サイダーを舐め取った。味のない肉とは違って、とろけるように甘いサイダー。なあんだ、美味しいじゃないか。どうして最初飲もうとしなかったんだろう。


 まだお腹は空いている。メイウェザー先生はどこだろう? きっとメイウェザー先生に頼めば、美味しいクッキーを作ってくれるはず。穴の空いたお腹をさすりながら、オイラは家の中を歩き出した。

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