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ざまぁのご利用は計画的に。 蛇足『彼女』編


蛇足です。『彼女』編です。

わりと暗いはなしです。勢いでかきm(略



『彼女』はゆっくりと瞳を開けると、見慣れた天井があった。


「……帰ってきた?」


 ゲームングチェアに背中を預けて、仰向けの状態である、身体を起こし、腕を伸ばして肩を回す。寝落ちして起きたときと同じようなかんじだ。身体の節々が凝り固まっている。


 身体をほぐしてから周りを見回せば、いつもどおり自分の部屋。職場から近い1DKの自分の趣味を優先させた部屋だ。


 目の前の配信準備完了したパソコンの時刻は、花金の夜九時前。

 あの創造主候補は、約束通り元の時間に戻してくれたようだ。それといつもと違うものが一つ。


「幻のフィギュア! 最高!!」


 デスクに鎮座した未開封の箱入りフィギュアをもって立ち上がる。

 とあるゲームの幻の一品。有名フィギュア造形士が手掛けて生産数が少ないうえ抽選。さらにゲーム会社が潰れて再販が絶望的なフィギュア。オークションでとんでもない値段がついている一品だ。


 創造主曰く、「先輩に土下座してきました……」という。その先輩はもしかしたら同志かもしれない。


 フィギュアを壊さぬよう汚れぬようそっと移動させると、ゲーミングチェアに戻り腰を下ろした。


「あー疲れたわ……しかし、本当に乙女ゲーの世界にいくことになるとはなぁ」


 ことの始まりは、動画に残されたコメント。


『助けてください。お願いします!』


 それだけで折りたたまれたコメント欄。ユーザーはいつも動画にコメントを残してくれる人だったので、「ゲームのアドバイスかなぁ?」とクリックしたら、画面が輝き、目の前にディスプレイではないSFみたいな画面が出現していた。


 そしてリモートで創造主候補と話し、依頼を受けることにした。


 コントローラーを握ってゲームをするのと、実際に動いて攻略するのとは違うので心配はあったが、ゲームより自由度が高く、好き勝手できたのは大きかった。

 乙女ゲームというよりは、戦略戦術ゲームと化していたが。


「……あの子に、ちょっと言い過ぎたかなぁ」


 言ったことに後悔はしていない。だが自分も八つ当たりのような部分もあったと今更ながら反省する。


 かつて彼女には心の友と書いて心友しんゆうと呼べる存在がいた。

 中学時代、彼女とは趣味も性格もあって、とても楽しかった。高校にあがるとき、彼女が引っ越してしまい、はじめのうちは連絡をとりあっていたが、いつのまにか返信がなくなった。


 そして大学に進学したとき、偶然にも再会した彼女は、中学時代とは印象が変わっていた。


 いわゆる大学デビューというものだろう。陽キャでおしゃれな大学生。

 なお自分は中学から変わらずゲーオタである。


 そのときはオタク卒業したのかーくらいで、連絡先を交換しただけ。授業をいくつか同じものをとっているくらいで、彼女はパリピなサークルに所属し、自分はゲームオタクが集まるサークルにはいったため、私的な接点はなくなった。


 だが大学に入学してから半年、おかしなことが起こり始めた。


 自分だけ、なぜか休講の連絡がこない。

 なぜかちらちらと見られる。と思いきや無視される。

 陰口を言われたり、わざとぶつかられたりする。


 もしかしたら自分の自意識過剰かなと思ったし、勉学にはさほど影響なかった。

 休講については、教授に直接連絡をもらうようお願いした。それにゲーオタサークルがあったので、特に気にはしなかった。サークルメンバーに、愚痴も聞いてもらっていた。


 さらに一カ月が経つと、変なメッセージが届くようになった。マッチングアプリからのお誘いだ。それも複数。しかも「なぜ約束の場所にこなかった」「金返せ!」「殺してやるからな!」と物騒なものまで。


 スルーしていつも通りサークルの先輩に愚痴ったら、「さすがにそれはやばい」といろいろ調べてくれて、複数のマッチングアプリで、本名で登録されたうえ、援助交際を示唆するような卑猥な紹介文でのっていた。もちろん連絡先は自分である。住所までは載っていないのが幸いだった。


「これは警察案件」


 そう先輩に断言され、保護者の代わりにサークルのOB(オタク兼弁護士)ともに、引き連れ引きずられるように警察署に連行された。気分はなぜか自首する犯人である。


 そして弁護士効果か、昨今のネット犯罪への注目度か、警察は迅速に動いてくれた。勝手にマッチングに登録したり、金を騙しとっていたりしていたのは、かついて心友だった彼女だった。


「私は悪くない! 私が被害者なのに!」


 警察に連行された彼女は、そう泣き叫び話にならなかったという。


 結局は示談となった。オタ弁護士OBとともに、彼女の両親と面会したときに聞いたのは、彼女が高校でいじめにあっていたということだった。


「ゲーオタキモイ」「陰キャうざい」「顔が不細工」と、とってつけたようなくだらない理由で。


 彼女をいじめた彼らには、明確な理由などなかったのだろう。視線がぶつかる瞬間、トキメキだけじゃなく、いじめがはじまることもある。


 彼女は高校をぎりぎりの出席日数で卒業し、大学へなんとか進学できた。いじめられたくないから、大学デビューして無理して自分を変えた。

 そして大学で、中学の頃と変わらずゲームオタクな自分と再会した。


 かたやオタクでいじめられ、オタク趣味を捨て変わるしかなかった彼女。

 かたやオタクでもみんなに受け入れられ、学生生活と趣味を楽しむ自分。


 変わっていない自分に対して「少しだけ困らせやろう」という軽い気持ちで、彼女は中学時代に自分にいじめられていた、と噂を大学で流した。


 案の定周りは距離を置いたり、小さないじめが起こったりした。しかし自分はあまりダメージを受けていなかった。


 それが少し困らせてやりたい程度の気持ちが、絶対に泣かせてやる。高校時代につらかった思いをさせてやるに変貌し、今回のことに至ってしまった。


 示談金を渡して頭を下げ続ける彼女の両親は、中学の頃挨拶を交わしたときよりも、年月以上に老けこみやつれて見えた。


 なお示談金は、オタク弁護士OBへ支払いをすませ、あまりはサークルのみんなで飲み食いして終わった。ついでに彼女が自分の名前を使ってのネットトラブルも、オタ弁護士OBが対応してくれた。


 そのあと、彼女は大学をやめて、両親に連れられ地元へと帰っていった。

 大学で自分をいじめていた人たちは、教授から事情聴いて叱られたのか、自分たちも騙されたといって手のひら返しをしてきた。もちろん許す気はないのでスルーした。


 彼女と悪役令嬢の彼女が重なった。被害者だったのに、加害者となってしまった人たち。


「……元気にしてるかな」


 大学も卒業し、就職して、趣味でゲーム実況のブイチューバーをして……あれから何年もたった。示談のときに接触禁止の要項も入れたので、その後の彼女については何も知らない。


 知る必要はないと思う。ただ辛い思いをした分幸せに、そして犯したしまった罪を悔いて、生きていてほしいと思う。


 スマホのアラームがなった。


「と、そろそろ時間だ」


 ヘッドホンマイクを装備し、ブイキャラを起動。そしてゲーム実況をはじめる。


『はーいみなさん! おはこんばんちは! ゲーム実況はっじめっるよー!』


 自分とは全く似てない、かわいいチビキャラが手を振っている、コメントもポツポツとつき始めた。


『今日からは、難しいをとおりこして鬼畜といわれるあの死にゲーを、初見だけどノーコンクリア目指します! しかも武器以外の装備なしで! とりあえず今夜は1ステージをクリアするまで終われまテン!』


 コメントには、無理だよ! とか、眠れないね! とかコメントついた。


『みなさん、応援コメよろしく! あ、ついでに投げ銭も! 目標は日をまたぐ前にクリアだ!』


 応援コメントと、ちょっとだけ投げ銭をもらった。


 そうしてゲームを始める。異世界を救った『彼女』は、今日も仕事に生活に趣味にと計画をしっかり立てて、生きることを楽しんでいる。




ざまぁのご利用は計画的に。 蛇足『彼女』編 完


『彼女』:

オタク社会人。

スルースキルが高く、わりと図太く鈍感な性格(いじめられても気づかないタイプ)

メインはゲームだが、様々なオタク文化を嗜んでいる。

趣味で様々なゲームの縛りプレイを実況もしている。わりと人気。

彼氏はいたりいなかったり。趣味優先しすぎてフラれる割合が多い。ゲーム実況ではときどきおやじギャグを言うのが、キャラとのギャップでウケている、と一部では有名。


※作者は実況とかぶいとかちゅーばーとかの界隈はよくわからないので、即席で調べた浅い知識と想像で書いてます。

※作中についても想像で、事実はございませんが、昨今のネット事情などを考えるとありそうで怖いです。

※みなさま、健全なネットライフをお楽しみください。


これで『ざまぁのご利用は計画的に。』完全に簡潔です。

感想・評価・コメント・いいね、ありがとうございました!

特に感想やコメントは「ツッコミありがとう!リクありがとう!」(ぐわしと握手)


ひさびさの投稿で、かなり緊張しましたが、楽しんでいただけたようでよかったです。

やはり『愛』はあったのです……


ではまたお会いできることを祈りつつ、皆様に感謝です。


2023/10/15 楠 のびる

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはいいざまぁ返し!蛇足編もしっかり楽しませていただきました。
[良い点] 完結おめでとうございます! [一言] これからも応援してます!
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