漢の意地と情熱と暗殺者
「ハァッハァッ……やぁ、ここにいたのか、ソリッド。探したよ」
っと図書館資料室を出た途端に声を掛けられた。
誰かと思ってみたら
「……なんだ、ギルか。誰かと思ったぜ。で、探したって何かあったのか?」
と、なにやら息を切らせて……俺を探して走り回ってた風のギルヴァートに訊いてみたら
俺の聞き方に少々不満を感じたのか頬を膨らませて
「なんだ、は無いだろう?こっちは飛びっきりの嬉しい情報を
せっかく教えてやろうと思って探し回ってたってのにさ。
そういう態度なら教えないぞ?」
……思春期の男子が頬を膨らませるな!……と、俺は内心で突っ込みつつ
ちなみにこのギルの容貌は金髪碧眼の美少年なんだ。
これで勇者で無かったらお姉さん方が放っとかないと思うんだけどな……。
まぁそのお陰で俺は気楽に話せるエロ友を得る事が出来たんで
俺的には全然問題なかったりする。
「そう、怒るなって……息を切らせながら話しかけられたんで
誰かと思っただけで別に他意は無いさ。で、嬉しい情報ってのは?」
と謝罪混じりで頭を掻きつつ情報を促したところ
それで機嫌が戻ったのかギルは
「うん、聞いて驚くなよ?ついに……見つけたかもしれないんだ。
僕達の長年、夢にまで見た聖域を!」
と、興奮を抑えられないのか?
ギルは両手をグッと握り締め、瞳を力強く輝かせながら
俺にそう言って来たんだ。
…………そう、この台詞がこの後、俺達の夢と浪漫の為
漢の意地と情熱をかけた新たな冒険へと誘う事になったんだ。
◆◆◆◆◆◆
さて、この学園の寮には男女別に共同浴場が設置されている。
薪によって風呂の湯を沸かさねばならないので当番制で生徒達が薪を割り
それを竈で燃やし火力を調整するんだよね。まぁ当然これも男女別だ。
ここまで言えば……判るよな?
そう、……俺とギルのみならず……恐らくこの【アルメニア王立学園】創立の頃より
今日に至るまで男子生徒の先輩達が漢の夢と浪漫を求め、時には命と勇気を掛け、
時にはその英知をもって挑み……そして敗れ去っていった戦士達の楽園。
そう、ギルの持って来た嬉しい情報とは女子風呂を覗ける場所を見つけたって事らしい。
それを聞いた瞬間俺は思考を超えて歓喜に包まれたわけだが
冷静になってみると過去にも似たような情報に踊らされ
戦場に漢の夢と希望の屍を野辺に晒した苦い経験の数々が思い浮かんだぜ……。
まず、女子共同大浴場……この言葉には言霊が感じられる。
……イヤイヤ、そんな事はどうでもいい。
気を取り直して、女子共同大浴場の周囲百メートルの範囲の外は安全地帯と俺達は仮称する。
同じ様に周囲五十メートルから百メートルの範囲を危険地帯と呼び
周囲五十メートル内を即死地帯と恐れているわけだ。
女子共同大浴場の使用時間中はこの危険地帯から致死地帯にかけて
女性教員や有志による女子生徒達が不埒な者の出現を抑制し
また、実際に不埒な者が出た場合に、見せしめに制裁を下す為その周辺を見回っているんだよね。
それだけでは無く、危険地帯では女子風呂を覗いて彼女らを傷つける鬼畜供は許さん!
とばかりに正義感に駆られた男子達も見回ってるんだよな。
まぁ正義感に駆られた男子達の気持ちも判らんでもない。
なんせ前世じゃ俺もそうだったからな!
しかし、許せ、嘗ての俺よ。
俺は既に冒険者として覚醒してしまったんだ……。
それらを知恵と勇気をもって掻い潜りたどり着いたそこは正に楽園!
しかし、学園創立の頃から今日に至るまで、その楽園に辿り付けた者は実に皆無である。
まさに彼の地は遥か遠き理想郷と呼ぶにふさわしい鉄壁の要塞なんだ。
しかしッ……しかァしであるッ!
そこが鉄壁を誇る要塞だからこそ
辿り着くのが困難であればあるほど冒険者たる者であるならば攻略せずにはいられるだろうか!?
否、否である!だからこそ我々はそれを攻略せずにはいられないのであ~るッ!
◆◆◆◆◆◆
と、熱い情熱を胸に迸らせながらも俺はギルに訊いてみたんだ。
「で、何処にその穴場と言うべき場所があるんだ?」
と、取る物取り合えずそれを聞いとかないと事の真偽、及び
実行出来そうか否かの判断がつかないからね。
まさかダンボールに隠れてのスニーキングミッション染みた事を言われても困るからな。
……まぁダンボールがこの世界には無いから木箱とかでさ。
あれ?木箱に隠れて……だと!?そいつはまだ試したことがないぞ!?
……結構いけんじゃね?
よし!ギルの情報が大した物じゃ無かった時はいっちょやってみるか?
と俺が一人思いついてると
「まぁまぁ、そう焦らないでよ。僕がそれに気付いたのは本当に偶然なんだ。
ソリッドもさ、あの聖域の使用時間の周辺が
魔力の使用を打ち消す魔封石の結界が敷かれ、女性教員、有志の女子達による
見回りとそれに協力する男子達によって一種の城砦と化してるのを知ってるでしょ?」
と、ギルが言わずもがなな事を確認してくる。
……そうなんだよなぁ魔封石の結界もあって面倒になってるんだよなぁ。
基本的にこの世界、真言を理解出来なくても丸暗記で魔法が使えるから
簡単な魔法なら結構な数の人が魔法を使えるんだよな。
で、魔法を使っての覗きを防ぐ為に魔封石の結界まで使われてるって訳だ。
まぁ魔力量の関係で何度も使える人は少ないし
そもそも真言を理解して教える事が出来る人が本当に少ないから
【魔術士】と呼べるような人ってあんまりいないんだけどね……。
ちなみに【魔術士】と呼ばれる人達の集まりが国と種族を超えて組織されてる。
組織の名称が確か……【賢人連盟】だ。
その本拠地が何処にあるのかは明かされていないけれど【楔の塔】と呼ばれている。
この組織によって魔法や魔具の使用倫理や規定がなされ
また新たな魔法や魔具そして具象における真理とやらを研究、発表されている。
魔術士達の総本山ってだけあってその権威は国であっても無視出来ない力をもってるんだよな。
っと、いっけね。
魔封石から随分と思考が逸れた。
取り合えず隣のギルに
「ああ、実際にあれは要塞っていうしかないよなぁ~。
さすがにこれまで覗けし者皆無って売り文句は伊達じゃないぜ」
と後ろ手を頭で組み、歩きながら俺が実状を確認すると
ギルが
「そう、過去にこれまで地下水道から潜り込んで覗こうとした勇者まで
いたのに全部失敗に終わってる」
と歩きながら鎮痛な顔をして
過去に行われた最も偉大な行動まで確認を取ってくる。
「まぁ、な。そもそも遠くから魔法で覗こうとしても
魔封石に撹乱されて見ることが出来ないしなぁ。
……となると近づいて覗くしかないだろ?」
「いや、その前提が間違ってたんだよ。近づくのに魔法は駄目。
遠くから【千里眼】のような魔法を使っても撹乱されて視れない。
そう、聖域を直接見ようとするから駄目だったんだよ」
と、ギルは得意げにそう言ってくる。
その考えに興味を持った俺は
「っと、言うと……間接的に視るってのか?どうやって?」
と聞くとギルは
「簡単だったんだ。安全地帯で鏡を使って一旦ワンクッションを置くんだよ。
そしてその鏡に映った影を拡大すれば楽園を覗けるってわけさ」
と、俺に自信満々に胸をふんぞり返らせて言い切ってきたんだ。
……なるほど、一理ある。
そして簡単でもある……が、
「それならどうして今まで誰もそれを試さなかったんだ?」
と俺が感じた疑問をギルは
「……そうだね、多分その方法自体はこれまで誰かしら考えたと思うけど
鏡に映った影を拡大出来る様な魔法を使える人が居なかったんだろうね。
でも、ソリッドならそういう魔法を使えるんじゃない?」
と言って来た。
って……あれ?この方法って望遠鏡を使うとか双眼鏡で覗くのと変わらなくね?
まあいいや、どうせどっちも無いし。
魔法があると道具が発展しない典型かなぁ……これも?
◆◆◆◆◆◆
そして俺たちは美術室に潜り込むことにした。
美術室なら大きな姿見の鏡を置いてあるし二階にあるので
女子共同大浴場の窓も直接見れるからね。
まぁ普通は遠すぎて中の様子なんて見れないんだけど、今回は違うからな!
そして俺とギルの二人はこれから視れるであろう楽園を想像し
ウッキウキ~のドッキドキ~でスキップしそうなテンションで持って美術室の扉を開けたんだ。
すると美術室の中に覆面を被って顔を隠し石弓を持った
怪しい人影が驚いた素振りでこちらを振り向いた!
瞬間、俺はギルを廊下の方へ突き飛ばし
「ッ教員でも誰でもいいから人を呼んできてくれッ!!」
と怒鳴った刹那にその怪しい奴が石弓をこちらに向けて撃って来やがった!
すんでの所で放たれた太矢を避けそれが壁に
ッド!
と鈍い音を立てた後、ギルが
「わ…判った、呼んで来るよッ!それまで絶対に死んじゃ駄目だよッ!」
と身を翻して廊下を走り去ってくれた。
その判断の速さに正直言って助かった。
こういう場合、愚図られた方が迷いが生じ危機に繋がるからね。
さて、ギルが誰かを呼んでくるまで足止め役を買って出たわけだが……。
相手はプロだろうなぁ……なんでまたこんな所に?暗殺者か??
暗殺者なら俺より格上だろうなぁ……といった思考が瞬時に流れ
逃げられない様に反射的に美術室の扉を蹴って閉じてしまった。
あ……やべ、俺も逃げれないじゃん、これ!
閉めた瞬間、後悔した。
何で俺は逃がさない!とか勝手に考えたんだろう?
そんなアホな困惑をしてるとその暗殺者?(面倒なので暗殺者と呼ぶ事にした)は
持っていた石弓を投げ捨て腰の後ろに隠してた短剣を抜きつつ無言で
俺に襲い掛かってきた!
瞬間、俺の覚悟が不思議と決まった。
暗殺者の攻撃は短剣を使った激しい物だったが見切れない程じゃなかったので
間合いを保ちつつ足捌きでもって回避に専念していたよ。
そう、何故かな?理由は判らないけれど今は力の流れが見えるんだ。
口で説明するのは難しいんだけど、相手の関節毎に独楽が回っているように見える。
それによって相手の次の行動が読める……気がする。
たまに押し込まれる事もあったけれど
その独楽の回転力に逆らわず受け流して時間を稼いでた。
稼いだ時間はもちろん“我、求めるは痺れ齎す霧の矢也!”と無詠唱で念じ発動させた!
「【麻痺霧矢】!」
発動した魔力は無音の霧の矢となって暗殺者を貫いたッ。
「ッガッ!?」
ッドサッ!
暗殺者は麻痺させられた事による呻きの声を上げた後に
崩れ落ちたんだ。
それを見た俺は格上の敵を相手にしていた緊張が抜け思わずへたり込みそうになったが
なんとか気を持ち直して美術室にあった敷布を引き裂き
促成の綱にして暗殺者の両手を後ろ手に縛り、両足も縛り
ついでに前世で愛読していたラノベにあった
暗殺者なんかが捕まったりすると舌を噛んで自殺するってのを思い出し
それで猿轡を噛ます事までして一息をついたんだ……。
そういった処置を終え壁にもたれ掛かりながらへたり込んだ姿勢で自然と頭に浮かんだのが
……俺、何やってんだろう??ってな疑問だった。
俺はただ、秘密の花園を拝みに来ただけなのに
……なんでこんな暗殺者みたいのと戦ってるんだ??
ってゆうか、この暗殺者?こんな場所で何してたのよ?
といった疑問が次々浮かんだけれど
「それにしても格上の相手がコロリ……か、魔法って凄ェなぁ……」
と先程の戦闘を思い返し思わず呟いてしまった……。
【麻痺霧矢】は今の俺じゃ一回こっきりで精一杯な魔法だったし
相手が格上で殺意を向けられながら攻撃された精神的な疲れも感じたしで
ギルが誰かを連れてくるまで……眠る事にした……。
◆◆◆◆◆◆
目を覚ますと素敵おぱ~いが俺の目の前にその圧倒的存在感を放っていた!
取り合えずありがとう御座います。思わず手を合わせて拝んでしまったぜ!
「おや、目を覚ましたようですね?
そして相かわらず私の胸にしか目がいかないみたいですね……」
「やっぱりこの素敵おぱ~いは……ラウラ先生?
ここは……?ってあの怪しい奴はどうなったんですか!?それにギルは!?」
突然現れた素敵おぱ~いの存在感に混乱していたみたいだが、先生の声で一気に思い出したぜ!
「ここは医務室ですよ。
ギルさんは無事です、彼も疲れてたようなので先に寮に戻って休ませています。
あの暗殺者風情の者は学園の方で取り調べをして貰っていますので安心して下さい」
と安心させるような微笑を浮かべラウラ先生は俺の疑問に応えてくれた。
「そうですか……何事も無くて良かった……」
思わず呟いてしまったが正真正銘これが俺の本音だ。
暗殺者とかって何かの冗談としか思えないよな。
……前世の常識というか感覚が未だに抜けきってないみたいだなぁ。
「フゥ……何事も無くて……ではありませんよッ!
何故あなたも逃げなかったんですか!?」
いきなりラウラ先生が怒鳴ってきた!?
「あ……いや、逃げようと思ってたんですが……後ろを見せる方が怖かったと言うか……
気付いたら戦ってたんですよね……心配をかけて済みません……」
あの時のことを振り返りつつラウラ先生にも心配をかけていたらしい事に戸惑いつつも
感謝をし、そして謝ったよ。
すると先生が
「……そうですね、怒鳴ってしまってこちらこそ済みません。
確かに後ろを見せるのは危険だったと思います。
でもああいった輩に対処すべく学園にも警備の者達がいるのです。
生徒であるあなたが……いえこれは繰言ですね。
とにかく、あなたも無事で安心しました」
と安堵の息をつきつつそう言ったんだ。
俺は疑問に思ったことを先生に聞いてみたんだ。
「あの暗殺者……なにが目的だったんでしょうか?」
すると先生がキッっと眦を上げ
「今はまだ判りませんが恐らくこの学園に通う貴族の子息の暗殺、誘拐……
いえ、もしかしたら王族であるアリステアさんを狙ったものかもしれませんが
その辺りの事はこれから情報が上がってくるはずです。
でも、ソリッドさん……今回の事はもう忘れてしまいなさい。
口外する事も……止めなさいね」
とそういった行為を心底憎むような表情でもって言い渡してきたよ。
その普段感じない先生の迫力に思わずグビリッと咽喉を鳴らしつつ
「は……はいッ判りました!」
と返事した。
するとラウラ先生がよろしい……とばかりに微笑み
その素敵おぱ~いを揺らしつつ
さりげなく俺に聞いてきたんだよな。
「ところで…………ソリッドさん?
あんな時間にギルさんと二人で何故、美術室なんかに用があったんですか?」
と……。
俺はあまりに見事な素敵おぱ~いに見とれていた為
正直に口が回ってた!?
「ええ、それはギルと二人で女子共同大浴場を覗こうと。
……?…………あ……あれ?……お……俺、口滑らせました??」
するとラウラ先生が天使の様な微笑みを浮かべ
「えぇ、えぇ、……判ってますよソリッドさん」
その素敵おぱ~いを俺にムニュ~っと密着させ
俺に伝説のチョークスリーパーをかけて来たんだ!?
俺は先生の腕をパンッパンッと叩きながら
「当たってます当たってますよ先生!?」
嬉し恥ずかし落ちそうになりながらラウラ先生に物申したぜっ!
「えぇ……当てているんですよ?」
と笑いながら言うラウラ先生の台詞と共に……
俺の意識が遠くなっていったんだ。