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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
第二章 【NAMELESS WORLD】 スクールライフ
16/49

卒業、そして…



 あの暗殺者騒動より一年以上が過ぎ、俺は学園の卒業式を迎えた。

ちなみにあの暗殺者の目的はどうやらアリアが標的だったらしい……が緘口令が(くだ)され

詳しい事情は聞くことが出来なかったんだ。


卒業式はこれまで長かった七年間の学園生活を振り返りしんみりした感傷も沸くけれど

これからの未来に向けての希望でワクワクするのと半々で奇妙な心境だったぜ?

去年のルー姉もこんな心境だったのかな?


「ソリッドは卒業した後、これからどうするの?」


と隣で卒業証書を手にしたギルが俺に尋ねて来たよ。


「ん、取り合えず実家に戻って家業の手伝いがてら、冒険者になる準備を進めていくさ」


と、以前から考えていた事をそのままギルに伝えると


「そっかぁ、そういえばお父さんのイスマイル卿は一代限りの爵位と領地だったっけ。

と言う事はソリッドが彼の地を継承するわけじゃないんだもんね。

……イスマイル卿の功績を思ったら一代限りじゃなくて世襲制にしてもいいくらいなのに……。

確か、他の諸侯の感情を逆撫でしないように……って理由だったっけ」


と長々と我が家の裏事情を語ってくれたけど……


「って、お前やたらと詳しいな!?何処でどうやって知ったんだ??」


と驚いたので訊いてみると、ギルはキョトンとした顔で


「え、割と常識な事だよ?一応、家のヴァイス家も侯爵だからそれなりに情報は集めてるけどさ

イスマイル卿に関しては誰でも知ってるんじゃないかなぁ?

あの人、冒険者時代にいろんな活躍をして有名人だけど、その活躍のなかには

彼のPT四人だけで人跡未踏の地、影沼の主【影竜ハドリウス】を倒した後に

彼の地の魔獣、魔物の殲滅討伐を率先して行って国土の拡大までした功績を考えたら

普通はもうちょっと高い爵位と領地、世襲制くらい貰えるはずだよ」


と何でもない様に俺にとってはとんでもない事を平然とのたまった!


「……空白地の解放!? ド……【竜殺し】(ドラゴンスレイヤー)!??な……何だそれッ!?

いや、ちょ……ま……き……聞いたこと無ェ~ぞッ!?そんなの、一ッ言も!??」


と眼ン玉飛び出るくらい驚いちまったぜ!?

いや、冒険者で活躍してた……ってのは聞いた事あったけどさ。

イルパパとかレリアママってそういう過去に何したって話、あんまりしてくれないからさ!

俺がそう言って驚きを顕わ(あらわ)にするとギルは益々キョトンとした顔をした後

納得したように


「え?……あぁ、そうか。あんまり当たり前な話だったから誰も君に話した事が無かったんだねぇ。

アハハ、英雄の息子だけが英雄の功績を知らなかったのかぁ……。

まぁ、イスマイル卿も男爵夫人のレリア卿もあんまり過去の栄光自慢をする様な人柄じゃ

無いから……かもね」


と笑いながら言うけどさ!


「いやいや、笑えねぇって、息子の俺だけ知らないとか普通無いだろ?? どれだけよ!?

……でも、まぁイルパパとレリアママなら確かに自慢話ってあんまりしないしなぁ」


ああ、笑えねェって…………でもまぁ、確かにあの両親なら……普通にありそうだ。

とんでもねぇよ!って感じでガックリ来てた俺にギルは


「う~ん、じゃぁこれも教えておいた方が良さそうだね。

イスマイル卿、レリア卿はそれだけの功績を上げた……そう、英雄と言っていい人達なんだ。

英雄で人望も高い……

でもね、それだけに諸侯のみならず大勢の人達から妬まれてもいるんだよ。

だから……だろうね。

あの人達が爵位の受勲と領土の拝領を頑なに固辞し続けたのは……。

でも、最終的には一代限りという条件と領土はかの【オークウッド大森林】と隣接する

最前線を選び、その守護の役を買ってでたのは少しでも妬みを回避しようとしたんじゃないかな?

後は……君が生まれてきた事も関係するのかもね。

家族の為に安定した生活の場を用意した……ってね」


と、なんとも不思議な透明な表情、

……例えるならギルの碧眼の様に閑静な湖を彷彿させる表情でそう俺に伝えてきた。


「……そうか。親の心子知らずって奴かなぁ……これも。

まぁ、教えてくれてありがとな、ギル」


ギルの教えてくれたこと、両親が英雄で人望高い反面、妬み辛みも買っているって所は

さほど俺には響かなかったけれど、家族のために安定した生活の場ってのは

正直、胸に響きやがった……。

そしてそれを教えてくれたギルに感謝の意を伝えたんだ。


「こんなの、僕じゃなくてもきっと誰かが君に伝えたと思うよ?

だから、気にしないで」


と静かに首を振って謙遜するギルに


「いや、お前の口から聞けて良かったよ。ほかの奴だったらどうだったろうな?

所でギルの方はこれからどうするんだ?」


実際ギルじゃない別の誰かの口から聞かされてたらもっと嫌な感情が沸いたりしたかもだしな。

それはそうと今後の事を聞かれたんだからギルの今後も興味が沸くってもんさ。

ってな訳で聞いてみたぜ。


「僕?……僕は一応ヴァイス家の長子だからね。多分……実家を継ぐことになると思うよ。

ソリッドは冒険者になるんだよね?

だったら僕が将来困った時に助けに来てほしいな。

僕も君が困った時は何時でも力を貸すよ。

正直いってこの学園に来るまではあんまり気乗りしなかったんだけど

君がいたからこの七年間は思いのほか楽しめたからね」


と照れくさそうに片手で頭を掻きつつ俺にそう言ってくれたんだ。

……背中がムズムズする位、嬉し恥ずかしな台詞だなヲイ!

でもまぁ、正直に嬉しいもんだね……こんな風に言ってもらえるとさ。

だから


「おう、勿論だぜ。俺も何時でも力貸すぜ!それと俺が困った時に頼らせてもらうぞ?

その時の為にこいつを持っていってくれないか?」


と言ってこの時の為に二つほど作っておいた一回だけ転移の魔法を使える力を込めた

ペンダントの内の一つをギルに手と共に差し出した。

するとギルが俺の手とペンダントを取って握手をかわし……再会を誓い合ったんだ。


「うん、じゃぁ……また会おう!」

「おう、何時かまたな!」



◆◆◆◆◆◆



 ギルと別れた後、俺は図書館資料室に来ていた。

もう一人会う約束をしていたからね。

で、約束してた奴がいるんだが……暗い……と言うか……雰囲気が重いです。

ドンヨリとした雰囲気を発しながら資料室にある席に着いたアリアに声を掛けた。


「よ……よう?今ギルと別れてきたんだけど……待たせちゃいました?」


雰囲気に圧されて何故か敬語っぽくなったけれど

アリアの注意は引けたようです。


「下僕?……そう、やっと来たんだ。少し……待ってたわ」


普段の元気がありません!?

……卒業式で哀しんで……いや、それもあるんだろうけど、それだけじゃ無さそう……かな?


「な、なぁ?「下僕、アンタ好きな娘っている?」」


俺が声を掛けようとしたその瞬間、突然のアリアの質問。

さすがの俺も戸惑ったさ。

でも、茶化せる雰囲気じゃなかったんで正直に答えた。


「いや、ん~特定の誰かって意味なら……いないと思うぞ」


と俺の答えなんて聞いちゃいない風に


「……結婚を決められた相手っている?」


ブフォッ!?

……なにやら投げ遣りな感じで更に聞いてきたよ!?

あまりの質問に危うく吹く寸前だったぜ……。


「ッ!……いや、まだそういう相手はいないぞ?」


吹くのを何とか堪えた俺は無論、正直に答えたさ。

それにしてもアリアの様子が変だ……ってかおかしいって!

その俺の答えを聞いたのかアリアは


「ッなら、下僕。……私と結婚しなさい」


切羽つまった感じで言ってきたんだ。

間違っても愛の告白……とかじゃないよなぁ……これ。

正直いってアリアが何を考えてるのか判らないよ。


でもどう考えても茶化せる雰囲気じゃないし……

……よしッこういう時は本音を正直にぶっちゃけた方がいいだろ

……少なくてもその方が後悔しないよな……多分。


「そうだな……いいぞ?……好きか嫌いかで言ったら好きだしな、アリアの事は。

今はまだ恋愛感情を持っているとは言えないけど……一緒になったら好きになれると思うしな。

……でも、アリアが俺に言いたい事ってホントにそれなのか?

勘だけど何か違うんじゃないのか?」


ッウォオオオオォオォォオォォォォオォオォォオォォォオォオォォォ!!!???

なんてこったよ!?滅ッ茶苦ッ茶恥ずかしいぞ!??

何だ?何だこれッ!?多分今の俺は顔が真っ赤っかだわ、これ!ヤバッ!?

落ち着け……落ち着け……俺、いつもの深呼吸だ。


スゥウゥウウゥゥウ……ハアァァアアァアアァア……よし、大分落ち着いたぞ?

……にしても、凄ェ恥ずかしい……間違いなく黒歴史ナンバーワン!になりそうだぞ。

後で思い出したら絶対、転げまわる事間違いないってこれ!?

でも、この場面じゃ他に言えそうな台詞が思いつかなかったもんな……。


っと、アリアは……

俺の返事が相ッ当に意表を付いたのか……最初は唖然……とし

次に顔が燃えそうなほどに真っ赤っかになって……

最後に……


「……プッ……プププッ・プァアハハッハハハッアッハアッハハハッハアハッハハ!!!」


大笑いこきやがった!!!??

な……なんだ!?それ!クァ~~ッ!ムカツク!!


「ッッ……ッ……!!!!!!!!!!」


……俺の無言の抗議?に気付いたのか大笑いで大爆笑していたアリアが笑いの涙を浮かべ

それを指で拭いお腹をピクピク痙攣させながらも


「プ……クックク……ご、ゴメン……プッ……ゴメンなさい、わ……笑っちゃって……ゴメンなさい。

ククッ……ク……」


一応、謝ってきたんだ……笑いをかみ殺しながらだけどなッ!

…………ハァ、でもまぁ、さっきまでの重い空気は払えたし……いいかなぁ。

そうでも思ってないと、あれだ。……泣くぞ?俺は。マジ、ハァ。


「……いいよ、もう。どうせ俺にはキザな台詞は似合わないし

クサかったのも自覚してるしな……ハァ」


と、俺がため息を付きつつマジで凹みながら答えると


「ウウン……笑っちゃったりしてホントにゴメンなさい。

まさかあんなに大真面目な顔で『いいぞ?』何て言って貰えるとは思ってなかったわ。

ホントにごめんね。嫌な……思いさせちゃった」


と、またアリアが泣きそうになってる!?

マジ、勘弁してくれ!それならまだ笑われてる方が精神的に楽なんだって!


「イヤイヤイヤ、……嫌な思いなんてしてないぞ!?

……まぁ 取り合えず落ち着け。嫌なことでもあったんなら愚痴とか話くらい聞くからさ」


焦って慌てて慰めると

アリアはポツポツと話し始めたんだ。


「ゴメン……ね。私……卒業したら多分お見合いをさせられるわ。

これでも一応、第二王女だし……ね。

国の為に……国の調和の為に……

そしてそれが王家に所属する王族としての義務だって事もわかってるわ。……でも」


と、そこでアリアの言葉が途切れ


「判っていたけど、納得がいかなかった……か?」


俺がそう聞いてみた。

するとアリアは小さく首をコクンと頷き


「ウン……イヤで……嫌で……この、学園での七年間がとっても楽しくて……

あっという間に……過ぎ去って……それが終わって……楽しかった時が終わって……

そして……知らない人と結婚なんて嫌よ!

このとっても楽しかった七年間が終わって何処の誰とも知らない人となんて!」


……少しずつ少しずつアリアは不満を漏らしていった。

多分、その鬱屈とした不満を普段から抑えていたんだと思う。

なら、吐き出させてあげた方がいいんだろうなぁ……。


楽しかった七年間が終わって……その後に嫌な未来が待っている。

楽しかった分だけその後にやって来るかもしれない嫌な未来が不安だったんだろうか?

そうして俺が黙ってアリアから漏れる言葉を聴いていると


「だから……アンタに……この七年間一緒にいて楽しかったアンタならって……」


とアリアが呟いた。

成る程……ね。

俺はその楽しかった七年間の……アリアにとっての象徴みたいなモノだったのかな?


「成る程ね……それでさっきの結婚しなさいって台詞に繋がったんだ」


俺が尋ねるとアリアはコクンと頷いたんだ。


「ごめんなさい、私、自分のことばっかりで……それに嬉しかったから……

緊張が抜けて……笑っちゃってごめんね?」


成る程ね……それでさっきの大笑いか……フゥ。

……馬鹿にされて笑われた訳じゃなかった!……結構きつかったからなぁ……助かったぁ。


「イヤイヤ、そんなの全然構わないさ。

……それに、アリアのそういう不安とか悩みに全然気付けなかったんだしな。

友達としても失格だったよ」


俺がそう言うとアリアは静かに首を左右に振り


「ウウン、アンタは全然悪くないわ。……さっきも……今もね。その、ありがとう」


不安や悩みを吐き出せて少しはスッキリしたのか何時もの笑顔が少し戻ってきたよ。

やっぱりアリアは笑ってる方が絶対いいよな!


「そうだ!これから先何か不味い事や不安があったらこれを使ってくれ。

何時でも助けにいってやるからさ!」


と俺はギルにも渡した手作りのペンダント……これは鍛冶細工で作ったもので

キーワードを唱えると【召還門】(サモンゲート)の魔法が一回だけ使えるように力を込めた魔具なんだ。


「これは?」


とアリアが俺の言葉を聞き、ペンダントを受け取って尋ねてきた。


「キーワードを使うことで一回だけ俺をそのペンダントの下に呼び出す魔具さ。

ちなみにキーワードは“我、求めるは友を招く時空の扉也”だぜ」


俺がそう言うとアリアは何時もの不敵な笑顔を取り戻し


「フン、判ったわ! 私が困った時はこき使ってやるんだからね!だから別れは言わないわ!

だから、その……勘違いしないでよね!!」


と、俺にビシッ!と指を差しきっぱりと言い切ったんだ。



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