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ドクン、ドクン。

心臓がうるさい。

ドクン、ドクン。

何かを拒むように、胸の鼓動は続く。

ドクン、ドクン。

ドクン、ドクン。

――……お、なお

誰かが自分を呼んでいる。

知っている声。

大切な、声。

ドクン、ドクン。

――奈緒

拒絶する。これ以上聞くなと。聞いてはいけない、と。

ドクン、ドクン。

――奈緒……

心臓の打つ音が、耳を塞ぐように大きくなっていく。

けれどもその暖かく悲しい声は頭の中にこだまし、どれほど拒んでも聞こえてくる。

ドクン、ドクン。

ドクン、ドクン。

ドクン、ドクン。

――奈緒……

ドクン、ドクン。

――ごめんね

ドクン……。




心臓の音が遠退き、視界がわずかに明るくなった。

見覚えのある、光景。

自分と、自分の手を引く誰か。

……どこにいくの?


――秘密!もうちょっとで着くよ


うん……


――寝ちゃダメだからね?


うん……


――もう……


――あ、ほら。着いたよ!


……わ


――ナイスタイミング


――眩しいねー


まぶしい……


――目、閉じてみて。いいから、ほら


――どう?


あかい……


――そうね。それに暖かいでしょ?


ちょっとさむい


――そう?暖かいよ


――体がね、光に包まれて、柔らかいベットで寝ているような気持ちになるの。分からない?


うん


――そっか。きっと、そのうち分かるよ


わかんないよ


――大丈夫。分かるから


そうかな……


――うん。きっと

微かな笑い声が空気を揺らした。




視界が真っ白に染まり、次の瞬間には空が透けた青に変わっていた。

眩しい光の下、森の中の開けた場所に先ほどと同じ二人がいる。髪の長い少女とその少女の腰辺りまでしかない小さな少女。

――ほらあそこ!


……あ


――かわいいでしょ?


うん。かわいい、おはな


――誰にも教えてない秘密の場所なの


――でも奈緒にだけは教えたげる


いいの?


――もちろん!この場所は大切なところで、奈緒も大切な存在。


――だからね、知っていてほしいの


……そう


――大切にしてね


うん


――よかった

安心したように、柔らかく笑った。




白い光が燃えるような赤に変わる。少女が二人、手をつないでいた。

――ほら、奈緒!見てごらん


……?


――夕日よ。きれいでしょ?


きれい?


――そう。とってもきれい


――太陽が明日を迎えるために沈んでいくのよ


あした?


――明日。太陽が沈んで、夜が訪れて、それからまた太陽が昇ってくるの。そして明日が始まるのよ


――素敵なことでしょ?


わかんない


――そっか。でも、赤く染まる空はきれいでしょ?


……うん。きれい


――ね?そうでしょ

見上げた先で、誰かが優しい顔をした。



燃える赤と流れる青と輝く白が混じる。

視界がぐるりと回り、闇に落ちた。

光が見えた気がした。


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