夜明け
肌に凍みいる闇が全てを覆い隠す世界。
ずしりと構える小高い丘も、遥かまで広がる建物も、それを眺める人影さえも、渦巻く闇に包まれている。
永遠に続く暗黒は途切れることを知らず、どこまでも広がりゆく。
そんな闇の中で、奈緒はその暗がりに溶け込むように立っていた。黒塗りの丘に立ち、見えるはずのないちっぽけな建物の群れに向かっていた。
それはまるでその時を待っているようで。
その時を憎むようで。
あらゆる感情に濡れた無感情な瞳を一心に向けていた。
永遠の闇の時間を、漂っていた。
そして、夜を統べる黒き王者が悲鳴を上げる。
全ての色を食らいつくす黒が白み、隠された色が徐々に溢れはじめた。
闇に沈んでいた緑の丘や身を寄せ合った家々、そして立ち尽くす人までもが姿を現し、本来の色に戻っていく。
永遠の闇が王座から退き、永遠が一瞬に変わった。
沈殿していた黒が透け、淡い青に変わり、白が混じり、輝く色がそれを優しく包み込む。
花が開くように、幼鳥が羽ばたきの時を迎えるように、光が闇を打ち払い、広がり、世界を染めた。
光が世界を統べるとき。
闇が挫かれた。
奈緒はその瞬間を見届けていた。
無感動に、無感情に。
「やっぱり、寒いよ」
そして、呟かれた言葉。
哀しく寂しい音の響き。
光の輝きが柔らかにその声を包み込む。
しかしその抱擁から逃れるように、虚しい音が口から零れ落ちた。
「姉さん」
透けた光が、その小さな体を抱き締めていた。




