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第1章(続き):隠し味の正体


「……刑事さん、そんなに私の料理が気になるのなら、少し召し上がってみますか? 捜査の邪魔にならない程度に」

阿久津は余裕を見せるように、冷えたラタトゥイユを小さなクリスタルの小鉢に分けた。十文字の「ゴミ箱にサプリの袋がなかった」という指摘は、彼女にとって計算内だ。なぜなら、その袋は既にスタジオに備え付けられた最新式の生ゴミ処理機によって、高温乾燥され、微細な粉末へと姿を変えているからだ。

「おや、いいんですか? いやあ、実はさっきからお腹が鳴りっぱなしで」

十文字は遠慮もなくカウンターの椅子に腰を下ろすと、阿久津が差し出した銀のスプーンを手にした。

「いただきます。……ほう、これは……」

十文字が一口、その野菜を口に運ぶ。阿久津はその様子を、腕を組んで冷ややかに見守った。

自分の料理に落ち度はない。味、食感、温度。すべてが「阿久津聖」のブランドを体現している。

しかし、十文字の動きが止まった。彼は咀嚼そしゃくを止め、口の中で何かを転がすように目を閉じる。

「……どうしました? お口に合いませんでしたか」

「いえ。美味しいです。恐ろしいほどに。……ただ、先生。このラタトゥイユ、隠し味に**『苦味』**を効かせましたか?」

阿久津の眉がピクリと動く。

「苦味? ナスの皮か、あるいはピーマンの風味でしょう」

「いえ、違いますね。これは野菜の苦味じゃない。もっと無機質な……そう、薬を噛み潰した時のような、舌の奥に残るエグみだ」

十文字はスプーンを置き、小鉢の中にある「あるもの」を指した。

それは、ソースに紛れたごく小さな、透明な粒だった。

「先生、あなたのスタジオにある生ゴミ処理機。あれは乾燥式ですよね。実はさっき、そこの換気扇から微かに『甘い香料』の匂いがしたんですよ。小早川さんの部屋にあった、あの海外製サプリと同じストロベリーの香りが」

阿久津は息を呑んだ。

「処理機で粉砕され、乾燥したサプリの殻……ゼラチンの微粒子が、キッチンの排気システムを通じて、たった今作っていたこの料理に降り注いだとしたら? 先生は『一工程ごとに道具を拭く』ほど潔癖だ。でも、空から降ってくる目に見えない粉までは計算に入れていなかった」

「……馬鹿げてるわ。そんなの、ただの空想よ」

「空想かどうか、確かめるのは簡単です」

十文字は立ち上がり、キッチンの隅にある生ゴミ処理機の蓋に手をかけた。

「この中の乾燥粉末から、小早川さんの死因となった成分……あるいは彼女のアレルゲンが検出されれば、それは動かぬ証拠になります。……先生、このラタトゥイユ、最後の一口まで責任を持って召し上がれますか?」

阿久津の視線が、自分が作った完璧なはずの料理に落ちる。

そこには、自分が消し去ったはずの「弟子の死」が、粒子となってキラキラと輝いているように見えた。

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