第920話 政変の結末
ランバート陛下があの刹那に自分の身を挺して、カイル王子を庇った。
キールはそれに気づき――いや、ランバート陛下の動きがあっても無くてもだが――、カイル王子とウナイの間に『魔法盾』を顕現させたというわけだ。
「――陛下! ご無事ですか!?」
衛士隊長のフロイド・ジュートがランバート陛下に声を掛ける。
「う、うう……、父上——。私は――」
カイル王子が何ごとかを言わんと声を漏らす。が、ランバート陛下がそれを遮った。
「カイルよ。お前のしたことは取り返しのつかない大きな過ちだった。私は、それでもお前が『王の座』に就き、その重荷を背負っていくならと一度は考えた。だが、それは私の取るべき判断としては、あまりに身勝手なものだと、ある人物から厳しく非難された」
ランバート国王がカイル王子に諭すように告げる。
「――カイルに告げる。お前はこれより牢に入り沙汰が下るまで静かに自問するがよい。自分の行いを見つめ直し、最後の言葉をよく考えるのだ。私は――。父は、お前の言葉を待っている。——フロイド、カイルを捕らえて連行せよ。ウナイの身柄は――」
そう言いつつ、キールの方に視線を向けてくる。
「――しばらく私が預かります。ウナイ院長にはまだ『聞きたいこと』がありますので」
と、キールは即答した。
「そうだったな。フロイド、ウナイのことは任せておいて問題ない。カイルを――」
「はっ! 仰せのままに――。陛下——。先ほどは大変なご無礼を……」
ランバート国王の言葉にフロイド隊長が返そうとする。
「――気にするな。それより、時間稼ぎをしてくれたおかげでカイルが間に合った。お前の忠心に対し、心から礼を言うぞ」
「あ、いえ――。もったいなきお言葉にございます。では――」
その言葉の後、フロイド隊長は衛士たちに指示を与えてカイル王子を連行していった。
これでこの場はなんとか収まったようで、キールは気付かれないように小さく息をつく。そして、今一度気を引き締めると、ウナイ院長の方に向き直った。
「ウナイ院長。あなたが持っているという『アルランド王子の声を録音した宝玉』はどこにありますか?」
「――これ、です……」
キールの問いかけに対して、恐怖におののくような表情のウナイ院長は、懐から一粒の宝玉を取り出して見せた。
『幻覚魔法』の術中にあるウナイの眼前では、今どのような光景が展開されているのだろうか。
「……簡単な魔法具です――。少し魔力を流せば、音声が再生されます……」
ウナイがそう説明する。
キールはその宝玉を受け取ると、ランバート王に目配せをした。
「――うむ。おい、ウナイ院長も牢につないでおけ。ただし、正気に戻った時に何をするかわからんからな。『魔術牢』に隔離するのだ」
と、ランバート王がまだ残っている衛士と魔術師に告げた。
『魔術牢』——。
この世界ではどの国にも、どの街にも設置されているありふれた牢だ。
魔術師を捕らえて通常の牢に繋いでも逃亡を阻止することは難しい。
そのため魔術師を捕縛するための特製の『牢』が存在している。それが『魔術牢』だ。
(牢に入れるぐらいまでは、まだ『幻覚魔法』の効果が続いているだろうから、心配ないかな――)
キールは、そう考えをまとめると、ランバート王の言葉通り、衛士たちにウナイ院長を引き渡した。
******
「アルランドも、苦渋の決断だったのだろう――」
宝玉に録音されていた『声』を聴いたランバート国王が、まるで『痛み』をこらえるかのような複雑な表情をにじませ、目を瞑って天井を仰いだ。
今この玉座の間にいるのは、ランバート王、キール、リーンアイム、そして、『リーシャ』の4人だけである。
もちろん、『リーシャ』がここにいるのを知っているものは、部屋の外のものの中には誰もいない――。
玉座の間の扉を閉じたあと、魔法を解いて姿を現したからだ。
「クーデターの計画自体は、本当のことだったんですね――。それも、首謀者はアルランド王子。王子の言葉には深い決意が滲んでいるように聞こえました――」
キールは、ランバート王にそう告げる。
「アルランドがここまで思い詰めていたなんて――。ウナイ院長とレスター公という国家の重臣が二人掛かりで懐柔したのは間違いないとしても……」
と、『リーシャ』こと『疾風』がキールの後を受ける。
「――やはりすべては私の責任であったということだ。アルランドはさぞ無念であったろう」
この『声』を切り札にして、アルランド王子の『反逆』を白日の下にさらし、大義を持つに至ったカイル王子派が、よってたかってアルランド王子とその一党を反逆者集団に一気に仕立て上げたという筋書きは、カイル王子の話を聞くまでもなく容易に想像できる。
しかし、ことの発端には国王に対するアルランド王子の不信感があったという見方も誤りではないだろう。
(それをうまく利用されたというところだが――)
正直言えば、国王がしっかりとアルランド王子の信頼を得ていれば、筋書き通りに事を運ぶのには、随分と時間がかかったことだろう。もしくは、こんなことは起きなかったとも言えそうだ。
「アルランド……。本当にすまない――」
ランバート王は、そう言って右手のひらで自身の目のあたりを覆い隠し、肩を震わせた。




