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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第838話 南と北とで


 ルクレツィア・ナイリーは風にその髪をなびかせ、指揮台に立っていた。

 集結点で艦隊編成を終え、しばらく南西へと進んだ後、今は南へと針路をとっている。


 これまでのところ、海図に特に変更を加えるような事象は見当たらない。

 エルルートの海図はやはり、かなり精度が高い。


「提督、見えてきました――。『黒霧海(マレ・ネブラ・ニグラ)』です」


 この船、レ・フィーエ号の船長サルバ・ジウラートが緊張した面持ちでルクレツィアに告げる。


 艦隊20隻が魚鱗の陣形を維持しながら、進んでいる正面に、『それ』は見えた。


黒霧海(マレ・ネブラ・ニグラ)』――。


 今回のルクレツィアたちの航海における最大の難関であり、最優先の調査対象である。

 この海域は常に天候が悪く、さらに黒い霧が立ち込めている。


 そして今もルクレツィアたちの眼前に、「黒い壁」のように立ちはだかっていた。


「船長――!! 風が強くなってきました! 3カイリ先からは降ってきます!」


 見張り台の船員が上から報告を叫ぶ。その声にもかなりの緊張感が感じられた。


「――雨が来ますね。あと、30分ほどでしょう」


と、サルバが言った。


「そうか。しかし、今回はあの中の探索こそが最優先任務だ。避けて通るわけにはいかない――。サルバ、各船に通達。陣形を維持しつつ進め、と――」


 ルクレツィアは静かにそう告げた。

 その言葉に、サルバは「信号手」に指示を送る。

 基本的には信号旗というものを使った、エルルート族特有の交信手段である。


 数秒後、レ・フィーエのマストに信号旗が4枚上げられた。

 『陣形、維持、前方、速度維持』の4枚だ。


 数分後――。


 風はかなり強くなり、横殴りに雨が落ちてくる。波もかなり高くなってきており、船体のきしむ音が聞こえ始める。


「視界が悪くなってきましたな――。どうでしょう、少し陣形を狭めては?」


 サルバがルクレツィアに進言する。


「先頭のガ・ドール号から信号!! 視界悪し速度落とす、です!!」


 魚鱗陣の一番前に居るガ・ドール号は、中型船である。そのガ・ドール号の数隻後ろにこのレ・フィーエ号が位置していた。


 前の船が速度を落とせば、前から詰まってくるのが道理。

 

「わかった。艦隊にその旨告げ、足並みを揃えろ。陣形は維持、距離を中距離に――」

と、ルクレツィアが指示を落とした。


「提督――。『通信士』の準備をさせます。中距離なら、彼らの『力』が使えますので――」

と、サルバ。


「ああ、たのむ――」


 ルクレツィアは表情を変えずにそう返した。

 

(さあ、何が来る――。何が来ても私は怯まないぞ。勝負だ、『黒霧海(マレ・ネブラ・ニグラ)』――)


「ガ・ドール号! 『黒霧海(マレ・ネブラ・ニグラ)』に突入しました!」


 見張り台の船員の声が先程よりかすれて落ちてきた。

 ルクレツィアは自船の左右に視線を飛ばす。


 降りしきる雨で視界は悪いが、船影はまだはっきりと確認できる。


「サルバ、行くぞ――」

「はい、提督。なあに、俺たちはエルルートの船乗りだ――。心配はいりませんよ?」

「ああ、頼りにしている――」


 そうして、レ・フィーエ号も黒い霧の中へと突入していった――。



******



 同じころ――。

 ヘラルドカッツ王国カインズベルク――。


 ワイアットは一人の人物と会っていた。


 メストリル王国で、『英雄王』との会談を終えたあと、ミリアとともに、ジョドとべリングエルに跨って、再びこの王都に返ってきたというわけだ。

 もちろん、アリスターも一緒である。 


 そして、今、豪奢な商館の応接室で5()()()テーブルを囲んでいた――。


 ワイアット、アリスター、ミリア、クリストファー、そして――。


「カインズベルク商業ギルド、理事長のカーティス・レーブと申します。この度は、陛下の肝いりということで、このような機会を得られたこと、光栄に存じます――」


 物腰のやわらかそうな紳士がそう告げる。

 年齢は、壮年といったところか。おそらく50代前半――。理事長というにはやや若い気もする。


「ウィリアム・フォン・キュエリーズだ。よろしく頼む――」


 ワイアットはそう告げ右手を伸ばす。


「そんな、握手など――。私は一介の商人ですよ? 王子殿下の手を取るなど、畏れ多い――」

と、カーティス。


「――なら、名を改める。ワイアット・アープだ。俺はただの胡散臭い神父だよ。周りのものはみんなそう言う」

と、右手を伸ばしたままワイアットは告げた。


「左様ですか――。分かりました。ワイアット様、こちらこそよろしくお願い致します」

と、カーティスはそろりと右手を伸ばし、ワイアットの手を取った。


「こっちはアリスター・ジ・ティール。俺の懐刀だ。こいつの発明無くして鉄道は実現できん。あとは――」

とワイアットが皆を紹介しようと言葉を継ごうとするが、それを制するように、カーティスが声を発する。


「――クリストファー・ダン・ヴェラーニ教授。それに、ミリア・ハインツフェルト様、ですね? お二人のことはよく存じております。まさか、この商館に『ラアナの神童』殿と『騎竜魔導士』殿がご来訪される日が来るとは――」


 これに対し、クリストファーがすっと右手を伸ばす。


「クリストファーです。この度は、こちらの要望に応じ機会を作っていただけたこと、感謝申し上げます――」

そう言って、握手を交わす。


「ミリア・ハインツフェルトです。私は、『英雄王』の()()として参りました。今回の会談の内容を報告することになっています。よろしくお願いします」

と、ミリアもクリストファーに倣って握手を交わした。


「――それでは、早速始めましょう。『鉄道』のお話、詳しくお聞かせください」


 全員が席に腰を下ろしたのを確認したカーティスがそう宣言した。


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