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魔法学園


 魔法使いになると決めてから一週間が経つ。

 その間で周囲の環境が一変した。

 まだ一度も登校していないけど、一応俺は転校したらしい。

 戦闘服としての機能もあるって言う学生服ももらった。

 あと魔法使いらしく結界って奴の中で戦闘訓練を受けている。

 最初は訳もわからずぼこぼこにされたけど、七日たった今ならすこしはやれるはず。


「さぁ、行くよ」


 振るわれる剣撃を、握り締めた刀で捌く。

 舞いのような連撃を弾きつつ、タイミングを見計らって仕掛ける。

 剣撃を大きく弾いて隙をこじ開け、踏み込み、一撃を見舞う。


「甘い」


 ただ見透かされたように退避され、剣撃は空振りとなる。

 直ぐさま地面を蹴って追撃に向かうと、それを読んでいたみたいに手の平を向けられた。


「ばーん」


 手の平に火炎が集い、火球となって放たれる。

 至近距離で避けられそうもない。

 だから、俺は左腕に魔力を纏わせ、その火球に裏拳を食らわせて軌道を逸らす。

 そうして更に先へと跳び、袈裟斬りに斬り掛かった。


「へぇ」


 感心したような表情を浮かべて素直に切られる。

 肩から脇腹に抜ける斜めの太刀傷が走り、その肉体は崩壊して掻き消えた。


「お見事。たった一週間で脅威的な成長だ」


 目の前から消えてなくなったはずの大和先生が俺の背後から現れる。

 抜き身の刀を鞘に納めつつ振り返ると、小さく拍手をしていた。


「その分身の難易度は実戦級だ。それを難なく倒せるなら、十分に戦力として数えられるね」

「俺もいよいよ魔法使いデビューってこと?」

「いや、これから魔法使いとして重要な儀式をしてもらう。それが終わったら晴れてキミも魔法使いだ」

「儀式か……」


 魔法使いだから当然だけど、魔法を使えるようになるんだよな、俺も。


「魔法使いに……俺のイメージだと杖を振るって呪文を唱えるような感じだけど」

「まぁ、そういう魔法使いもいるけど、もっと多種多様だよ。キミがどういう戦闘スタイルになるか、引いてはどんな魔法使いになるか。それがこの儀式で決まるわけだ。早速、やり方を教えよう。そこに座って」


 指示に従って胡座を掻く。


「目を閉じ、息を大きく吸い、吐き出し、己の内側に意識を集中する」


 そう言いつつ大和先生は俺の後ろに立って両肩に手を置いた。


「魔力と魂はイコールだ。魂の形によって魔力もその姿を変える。今から合図を送るから、キミの魂の形を見てみよう。さぁ、行くよ」


 両手を通して両肩から先生の魔力が雪崩れ込んでくる。

 それに押し流されるように、自分自身の奥深くまで意識を届かせた。

 そうして暗い闇の底に見えてくる、一つの灯火。

 それは次第に鮮明になり、その輪郭をはっきりと認識する。

 瞬間、俺の中にある魔力が全身から発露した。


「へぇ、蝶々か」


 両肩から重みが消え、閉じていた瞼を持ち上げる。

 すると、目の前にひらひらと舞う蝶が映り込んだ。

 人差し指を差し出すと、魔力で構築されたそれがとまった。


「珍しいね。大抵の場合は何らかの動物になるんだけど、昆虫は稀だ」


 蝶は一匹だけでなく、ほかにもたくさんいる。

 周囲を跳び回り、指にとまっていた蝶もそれに参加した。


「これで儀式は終わり?」

「あぁ、儀式自体はね。それから発露した魔力の形を見て今後の方針を決める訳だけど……そうだな」


 蝶が飛び交う中で立ち上がると目が合う。


「決めた。あれにしよう」


 そう呟いて火を灯すと、そこから一振りの刀を引き抜いた。


「見た?」

「見た」

「じゃあ、やってみて」

「無茶言うな!」


 俺の回りでひらひらしてる蝶が見えないのか?


「別に僕みたいに炎でやる必要はない。キミなりに刀を一振り造れば良い」

「造ればったって」


 先生は火の塊から刀を出していたけど、蝶の場合はどうすればいい。

 蝶の塊から刀を引き抜くとか? なんかちょっと違う気がするな。

 真似する必要はないみたいだし。

 俺なりに刀を一振り造るなら、そうだな。


「こんな感じ、か?」


 完成図を脳内に描くと、周囲の蝶が反応を示した。

 一所に集まり、自らを刃へと変えていく。

 無数の蝶が形となって一振りの刀を構築した。


「よく出来ました。それは胡蝶刃こちょうじんって言う魔法さ」

「胡蝶刃……」

「蝶の魔物に魅入られた昔の魔法使いが開発した魔法さ。かなり幅広く応用が利く。まぁ、開発した本人と相性が悪かったせいか、ほとんど活躍しなかったけどね」


 しっかりとした感触があって質量もある。

 無数の蝶から出来ているとは思えないくらい、この一振りには現実味があった。


「気に入った?」

「あぁ、なんとなくだけど。これしかないって感じがする」


 この一振りはよく手に馴染んだ。


「おめでとう。これでキミも晴れて魔法使いだ」

「じゃあ」

「あぁ、早速だけど実戦に移ってもらう。キミと、もう一人とね」

「もう一人?」

「あぁ、キミの同級生だ」


 そう言って指が鳴らされ、白い空間が崩壊する。

 粉々に砕け散ると、周囲の景色が一変して廃墟と化した雑居ビルの一角となった。

 近くにコンビニがあって人が寄りつかない良い立地だと初日に言っていたっけ。


「さぁ、会いに行こう」

「どこにいんの? そのもう一人って」

「どこって決まってるでしょ? 魔法学園だよ」

「あー」


 そう言えば転校してたっけ。

 俺は胡蝶刃の魔法を掻き消して、その場を後にする大和先生に付いていった。

 廃墟と化した雑居ビルを出てすこし移動し、立派な学園校舎を視界に納める。

 そのまま敷地内に入って校舎の敷居を跨ぐと、内部は随分と静かだった。


「はじめて入ったな」


 以前から何度か見かけてはいたけれど、校舎ってこうなってるんだ。

 魔法学園って言っても前にいた学校とそんなに変わらないな。

 敷いて言えば小綺麗になったくらいか。


「ほら、ここだよ」


 校舎の一角にある教室の扉が開かれると、その先には一人の女子がいた。


「おはようございますっ。あ! あなたが転校生さんですか?」


 真っ直ぐ艶のある黒髪を背中の辺りまで伸ばした女子生徒。

 前髪は切り揃えられた姫カットで、どことなく幼げな印象を受ける。

 目が丸くて大きいのも原因かも知れない。

 学生服を身に纏い、所作の一つ一つが女の子らしい。


「私、望月七奈もちづきななって言います! これからよろしくお願いしますねっ!」

「あ、あぁ」


 でも、なんだろうな。

 この違和感は。


「猫被りもその辺にしておいたらどうだい? たぶん、もう見抜かれてるよ」


 大和先生がそう言った瞬間、それまであった女の子らしさが消失する。


「はぁ……なんでわかるかなぁ」


 猫なで声のように高い声音も相応に低くなり、言動も荒っぽくなる。

 でも、その様子に驚きはなかった。

 なんというか、こっちのほうが彼女らしいと、なぜだかそう思える。


「せっかく、あんたくらいの男子が喜びそうな女の子を演じてあげたってのに。まぁ、いいわ。よろしくね」

「あぁ、よろしく」


 こっちのほうが仲良くなれそうだった。

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