第二十六話:ライムエル先生の魔法教室~抽出魔法編~
ノインは冒険者ギルドを後にすると、適当に店を回って肉や野菜、調味料を買った。買ったものは全て異時空間収納にて収納できるので、金貨一枚全て使い切るつもりで色々な材料を購入した。
「うーん、これからは野宿しても毎回美味しい料理を作る事が出来そうだ。今回の件が落ち着いたら遠出してもよさそうだな」
今までは食材を持ち運べる量に限りがあったため、出来るだけ野宿を避けてきたノイン。しかし異時空間収納という便利な魔法を覚えたので、たくさんの食材を手ぶらで持ち運べるようになった。これからは野宿でも美味しい料理を作る事が出来るので、遠くに出かけることになっても問題はなさそうだ。
ノインは食材調達を終えると昨日泊まった宿屋へと向かった。宿屋では既にラシュウが馬の準備を終えてノインを待っていた。
「おう、食料は買えたか?」
「バッチリですよ。もう出発するんですか?」
「そのつもりだ。部屋に私物は置いてないか?」
「いえ、全部魔法で収納してるので置いてないです」
「便利だもんだ。ならさっさと出るか。行けるところまで行くぞ」
ラシュウはノインに手綱を渡すと、自分も手綱を取って馬を厩舎から出した。町の中で騎乗するのは危険なので、町の外に出てから乗ることになる。二人は町の外に出るとすぐさま騎乗する。そのままアルベールの方へと駆けていくが、出発した時点で既に陽は傾いていた。三分の一程の道程で、今日の移動はやめることにした。
「これ以上進むと野営の準備が終わる前に陽が沈んじまう。近くに村もないし、今日はここまでだ」
「了解です」
やはり野宿になるようだ。実はノイン、野宿は久しぶりだ。ここ最近はアルベール近辺で日帰りでできるクエストしか受けていなかったからである。というのも、日帰りでアルベールに帰られるのならば、街でその時の気分に合った食事をすることができるからだ。
数日間にわたる長期クエストだと、どうしても野宿をせざるを得ない。その場合、食事は手持ちの食材と現地調達で得たものになるわけだが、どうしても持ち運べる量に限りがあり、満足のいく食事ができない。
だが今は違う。異時空間収納という魔法を習得したからだ。これさえあれば、重さや量を気にする必要はない。食材の持ち運びは自由だし鮮度も保たれる。どれくらいの量を収納できるかはわからないが、現在のところ問題なく収納できている。異時空間収納で常に食材を入れておけばいつ野宿になっても問題は無いだろう。
「よし、俺は馬の世話と枯れ木を集めてくる。食事はまかせたぜ」
「わかりました」
食事をまかせられたノインは早速とばかりに土魔法で調理台を作る。さらに竃を三つ作ると、あっ!と声を上げた。
「しまったな……。異時空間収納覚えたんだから、銅か鉄でできたフライパンと鍋を買っておくべきだったな。土や石で作れるけど熱が伝わりにくいからなあ」
ノインは渋々近くにあった石を使ってフライパン二つと鍋を一つ作った。それを窯の上に置こうとしたところ、ライムエルが話しかけてくる。
『なんじゃ。銅か鉄でそのような器具が欲しいのであれば、わざわざ石で作らなくてもよいじゃろうに』
『なんだ、起きてたのか。鍛冶屋じゃないんだし、俺が銅や鉄でフライパンや鍋を作れるわけないだろう?そもそも、ここに銅や鉄なんてないじゃないか』
『何を言っておる。魔法はイメージじゃぞ。金属の形を変えることなど容易。それに銅や鉄といった金属はその辺の土に含まれておる。抽出して集めればよい』
「なんだって?そんな魔法聞いた事ないぞ?」
思わず声を上げてしまうノイン。ライムエルはノインの頭の上から飛び立ち、ノインと相対して目を合わせながら言う。
『もっと頭を柔らかくせよ。そもそも、今お主が持っておる器具。それは魔法で石の形を変えて作った物じゃろう?なら金属も同じようにできて当然じゃ』
「あっ、確かに……」
言われてみれば確かにその通り。魔法で石や土の形を変えることができるのならば、金属でできてもおかしくはない。そのことにノインは気づかなかったし、試そうとも思わなかった。
『でも、土に銅や鉄が含まれてるなんてのは聞いた事ないぞ。鉱山にある銅鉱石や鉄鉱石を製錬しないと手に入らないんじゃないのか?』
『やはり頭が固いのう。お主、今自分で言っておるではないか。銅鉱石と。銅鉱石は銅が多分に固まった石のこと。つまり、普通の石にも量は少ないが含まれているとは考えられんのか?』
『むむむ……、そう言われればそうかもしれないけど……。でも、どうやって抽出するんだ?』
『それこそイメージせよ。とはいえ、初めてじゃとイメージしづらいか。よかろう、ワシが手本を見せてやろうぞ』
飛んでいたライムエルは地面に降り立つと、右手を地面に置く。そして膨大な魔力が右手から放出された。そのまま右手をゆっくりと引き上げると、右手には薄暗い青緑色に輝く物が握られていた。
『これが土の中に含まれていた鉄を魔法で集めたものじゃ。抽出魔法といったところか。銅でもよかったのじゃが、鉄の方が土に多く含まれておったからな。こっちの方が楽じゃった』
ライムエルから手渡された物は確かに鉄だった。ノインは本当に土の中には鉄が含まれているということを理解した。
『さて、やり方はわかったか?魔力で鉄を引き寄せるイメージで魔法を使えばよい。ということでやってみよ。ワシは遠くから引き寄せたから、まだこの辺りの土にも鉄は含まれておろうて』
「わかった、やってみよう」
ノインもライムエルと同じように右手を地面に置き、魔力を放出する。その魔力が土の中に含まれる鉄を引き寄せるイメージで魔法を使う。少しずつではあるが小さな鉄の塊が右手に出来上がって来た。そのまま続けると、その鉄の塊は段々と大きくなっていき、こぶしくらいの大きさになった。
「おおっ、できた!!けど、かなりの魔力を使ったな……」
大体ノインの保有する魔力の二割くらいだろうか。現代の魔法使いと比べて化け物レベルの魔力量を誇るノインがだ。それくらい使ってようやくこぶし大の鉄を得る事が出来た。
『うむ。魔法は魔力と繊細なコントロール、あとはイメージが無ければ成立せぬ。今の魔法も、土の中に微量に含まれている鉄だけを無理やり集めたのじゃからな。相応の魔力が必要じゃ』
『うーん、こりゃ普段使いする魔法じゃないな。魔力の消費量が多すぎる。普通の魔法使いが使える魔法でもないから、知られていないのも当然かな』
もし、もっと魔力の消費を抑えてこの魔法を行使することが出来るのであれば、鉱山を持たない国でも鉄などの金属を得られるかもしれない。戦略魔法になる可能性を秘めているが、多大な魔力を消費する現状ではそれもまた夢だろう。
ノインは集めた鉄を使ってフライパンを作るイメージを行う。手から魔力がどんどん吸い出されるとともに、手に持った鉄の形が少しずつ変わっていく。形を変えるだけなので抽出魔法よりも魔力の消費は少ないが、それでも石や土の形を変えるよりも魔力の消費が多い気がした。問題なく鉄を使ってフライパンを作る事が出来たが、フライパン一つ作るだけで抽出した鉄を使い尽してしまった。
『なあ、ライムエル。もうちょっと鉄集められないか?この量だとフライパン一つくらいしか作れないからな』
『もう抽出魔法を使えるようになったのじゃから、自分で集めればよいじゃろうに』
『あんまり魔力使いすぎると料理に使う魔力がなくなりそうなんだよ。そうなると夕食は美味い物食えなくなるけどいいか?』
『むう、そういう理由ならば仕方あるまい。しばし待っておれ』
ライムエルはそういって抽出魔法で鉄を集める。ノインはその間に、近くにあった木を風魔法で切り倒し、いい感じの大きさに切ってフライパンの取っ手を作った。後ほどフライパン一つと鍋を一つ作る予定なので、その分の取っ手も作っておく。
ついでに食器とスプーンも木を削って作っておく。食器類も買っていなかったからだ。
『よし、これくらいでよいかの』
ノインがそのような作業をしている間にライムエルも鉄の抽出を終えたようだ。その抽出した鉄は、三十cm四方の鉄塊となっている。
『かなりの量を抽出したんだな……』
『少ないよりはよいじゃろう?』
『まあ、確かに』
ノインはその鉄塊を使い、フライパンと鍋を作った。残った鉄は異時空間収納で収納して、また必要時に応じて使う予定だ。
「さて、思った以上に時間をかけちゃったな。早速調理に入るか」
ノインは調理台に様々な食材を取り出して調理に入った。




