第二十五話:ルワズ冒険者ギルド会談
ノインたちはしばらく屋台を巡って腹を満たすとルワズの冒険者ギルドへと向かった。ラシュウがいつ戻ってくるかはわからないが、他にする事もないので冒険者ギルドで待つことにしたのだ。冒険者ギルドには酒場が併設されているので、飲み物を飲みながら待つのも悪くはない。
ノインは冒険者ギルドの受付嬢にラシュウが来たら酒場のノインに連絡してもらうようにお願いをし、酒場にて待つことにする。ノインはアルコールが入っていない飲み物を注文した。この後話し合いの場が設けられるはずなので、酔わないようアルコールを避けたのだ。ちなみにライムエルは眠っている。
(なんか視線感じて居心地悪いな)
ノインにチラチラと視線を向けてざわつく冒険者たち。それもそうだろう。最近冒険者の間で噂されているドラゴンテイマーがルワズの町にいるのだから。ライムエルを頭の上に乗せているノインが目立ってしまうのは仕方ないことだ。
アルベールの冒険者ギルドなら知り合いの冒険者も多いので、遠巻きに見るのではなく声をかけてくるかもしれない。だが、ここは初めて訪れるルワズの冒険者ギルド。それも仕方のないことかもしれない。
そんな中で飲み物を飲みながら時間を潰していると声をかけられた。先程ラシュウの件でお願いをした受付嬢だ。
「ノインさん、ラシュウギルドマスターが到着されました。ご案内せよとのことですので、私についてきていただけますでしょうか?」
「わかりました」
ノインはようやく好奇の目から逃れられると思い、足早に受付嬢の後をついていく。案内されたのはギルドマスターの執務室。そこには既にラシュウがソファーに座って待っていた。他にももう一人、頭頂部が薄い男性が座っている。恐らくはこの人がこのルワズの冒険者ギルドのギルドマスターなのだろう。
「おう、待ってたぜ」
「お疲れ様です。流石は元Aランク冒険者。早かったですね」
「プレデターデーモンプラントみたいな想定外の魔物がいなけりゃあな」
ノインと一緒の時は移動速度もセーブしていたのだろう。引退したとはいえ元Aランクの戦士と現役の魔法使い(テイマー)とでは鍛え方や身体の使い方が違う。
「ラシュウさん、こちらが先程お話に出てきた……」
「おお、こいつがさっき話に出てたノインだ」
「初めまして、ノインさん。私はこのルワズの冒険者ギルドのギルドマスター、カールズというものです」
カールズは立ち上がってノインへと挨拶をする。ラシュウとは違い筋肉質ではなく、線が細い。魔法使い系の冒険者もしくはギルド職員からギルドマスターになったのかもしれない。ノインも応じて挨拶をする。
「初めまして。Dランク冒険者のノインです。頭の上で寝てるのはドラゴンのライムエルです」
「いやはや、まさか小さいとはいえテイムされたドラゴンをこの目にするとは思いませんでした。ささ、こちらに来て座ってください。詳しくお話も聞きたいですしね」
カールズはノインをソファーに座るように促す。ノインはそれに従いソファーに腰を下ろした。
「さて、カールズには簡単に状況を説明した。お前さんのドラゴン、ライムエルがプレデターデーモンプラントを倒したってことをな。あとはドラゴンで空から状況確認に向かったことまで話してる」
「俄かには信じられないお話です。ですが、ここ最近森の様子もおかしかったですし、辻褄は合います。今後調査隊を派遣するためにも、ノインさんが空から偵察したことをお話しいただけますか?」
「わかりました。それでは、上空から見た様子をお話します」
ノインの思っていた通り、既にラシュウがある程度の説明をしていたようだ。そのためノインは、ライムエルによって上空から見た様子を話すことにした。フーズベール大森林の中央部付近に巨大な樹木形態のプレデターデーモンプラントの残骸が残っている事。ライムエルのブレスによってプレデターデーモンプラントの核が破壊され、プレデターデーモンプラントの中心部が貫かれている事。その際に火災が発生したが、ライムエルによって既に鎮火されている事。
「なるほど、それではもう危険は無いと考えていいわけだね?」
「ええ、そうですね。あ、そうだ。証拠になるかわかりませんが、プレデターデーモンプラントの魔石を取ってきました」
ノインはそう言うと、異時空間収納からプレデターデーモンプラントの魔石を取り出した。プレデターデーモンプラントの魔石は直径2mほどの球状の巨大魔石だ。出した際にドンという音と共に床が揺れた。
「「……」」
これまで見た事も無いような巨大魔石を目にしたからだろうか。それとも何もないところからその巨大魔石を取り出したからだろうか。ラシュウとカールズの二人は驚きのあまり声が出ないようだ。あっけにとられた様子でノインと巨大魔石を見ている。
そのまま固まっていた二人だが、しばらく時間が経つと気を取り直してノインに話しかけた。
「あー、確かにこんな巨大な魔石があるってことは、それだけ大物の魔物を仕留めたってことだし、お前の証言も信用できそうだ。な、カールズ?」
「ええ、それはそうなんですが……。この巨大な魔石はいったいどこから出てきたのでしょう?」
「実はつい先日から時空魔法の異時空間収納の魔法が使えるようになったので……」
「「……はあぁぁぁぁぁぁ!?」」
二人は少し間をおいて驚きの声を上げた。その大きな声に反応してか、ライムエルが片目を半分ほど開けるが、特に大きな問題も起きていないことがわかると、また目を閉じて眠り出した。
「あれ、ラシュウさん。俺が異時空間使える事、ラウルレッド伯爵から話がいってません?ラウルレッド伯爵からラシュウさんに話をつけてもらうことになってたんですが……」
「いや、初耳だな……。つか、ラウルレッド伯爵に会ったのって確か二日前じゃなかったか?昨日こっちに来たわけだから、俺のところまで話が回ってこなかったんだろう」
「あー、なるほど」
ラシュウの言に納得するノイン。確かにラシュウとラウルレッド伯爵が会って話す時間は無かっただろう。そのためラシュウもカールズと一緒に驚いたということだ。
「あの、すいません……。ノインさんが遺失魔法である時空魔法を使えるってこと、私が知ってもよかったんですか?プレデターデーモンプラントもそうですが、こっちの話も大事ですよ……?」
「ええ、まあ。ラウルレッド伯爵が言うには、遺失魔法である時空魔法が使えるという事が知られていれば、ドラゴンをテイムしていても手を出しにくいだろうとかなんとか……。なので、時空魔法が使えるのを広めた方がいいらしくて」
「あー、そういう話になるのか。はぁ……、ちょっとラウルレッド伯爵と話を詰めた方がよさそうだ。ドラゴンに時空魔法、プレデターデーモンプラントもそうだ。国家レベルの案件ばっかじゃねえかよ。ったく、こんな短期間で面倒事ばっか持ち込みやがって」
「すいません……」
ノインはここ数日の間にドラゴンをテイムし、時空魔法を習得している。加えて、今まで人が成し得なかった暴食亡国の異名を持つプレデターデーモンプラントの討伐。その後始末を全て所属している冒険者ギルドのギルドマスター、ラシュウにのしかかってきている。全てノインが悪いわけではないが、文句を言われても仕方ないだろう。
「カールズ、状況が変わった。俺は急いでラウルレッド伯爵と今後について直接打ち合わせするわ。プレデターデーモンプラントに時空魔法。どっちも一ギルドマスターのレベルで収められるものじゃねえ」
「そうですね……。本当でしたら調査の方にお二人も加わってほしかったですが……。私の方でやっておきます。詳細はまとめて上にあげておきますね」
「ああ、そっちはまかせた」
ラシュウは目の前に置いてあるコップのお茶を一気に飲み干すと勢い良く立ち上がった。
「よし、ノイン、すぐに準備してアルベールに戻るぞ」
「え?今から出ても今日中にアルベールには着かないと思いますけど……」
「そんなことはわかってる。少しでも早く戻ってラウルレッド伯爵と面会せにゃならんからな。少しでも距離を稼いでおきたい。だから行けるところまで行って道中の村で宿をとるか……、最悪野宿だな」
「マジっすか」
「マジだ。つーかお前、野宿なんて簡単なんだろ?魔法で料理したり簡易小屋作ったって聞いたぞ?」
ラシュウの言う通り、ノインにとって野宿などお手の物だ。普通の魔法使いは戦闘に関わることにしか魔法は使わない。限りある魔力を無駄にしないためだ。だがノインは戦闘以外にも魔法を使う。一般の魔法使いよりも保有する魔力量が多いため、使ったとしても戦闘に支障は出ないから誰も文句は言わない。
「小屋はともかく、料理は材料がなければできないですよ?」
「うん?そういや異時空間収納とやらに食材は入ってないのか?」
「最近使えるようになったばかりですし、保管するにも今は先立つ物が……」
「なるほど。そんじゃこれやるから適当に買って来い。準備できたら宿屋な」
ラシュウはそういうとノインに金貨を手渡す。
「いいんですか?」
「ああ、必要経費だ。そんじゃお前が来るまで少し休んでおくわ。そんじゃカールズ、そっちはまかせたぜ」
そういってラシュウは体を休めるべく、一足先に部屋を後にする。ノインも続いて部屋を出ようとするが、巨大魔石について話していないことを思い出した。
「あ、この巨大魔石ですが、どれくらいの値で売れますか?」
「うーん、これだけの魔石は私も初めて見ます。もしかすると国宝レベルの魔石かもしれません。国に献上するという対応になるかもしれませんね。そもそもこの魔石、プレデターデーモンプラントのものです。どうしても国家レベルでの対応になるでしょう」
「ええっ!……ということはお金にならないという事ですか?」
せっかく手に入れた魔石が換金できずに国に渡さなければならないということに驚くノイン。もっとも、プレデターデーモンプラントの魔石はライムエルのおかげで偶然見つけたものであり、ノイン自身の力で手に入れたわけではない。そのため、実はノインはそこまで未練はなかったりする。
「いえ、その場合は形としては献上になりますが、それに対して褒賞が貰えるかと思いますので大丈夫ですよ。そうそう、ラウルレッド伯爵にお会いするのでしたら、そこで相談してはいかがでしょうか?この魔石を見せるだけでも信憑性は増すでしょうし、詳しい話もできるかと。それに、私もこれだけの魔石を預かるのは怖いですし、持ち運ぶのも一苦労しそうですから」
「わかりました。そうします」
ノインは巨大魔石に触れて再度異時空間収納にて収納する。瞬く間にその場から消えた巨大魔石に驚くカールズ。
「いやはや、時空魔法は便利そうですね。どうすればノインさんのように使えるようになるのでしょうか?」
「すいません、いつの間にか自然に使えるようになっていたので、どうやったら使えるようになるのか私にも分からないんです」
「そうですか、それは残念です……。おっと、ここで話しこんでしまってはラシュウさんに怒られてしまいますね。またずれお話を聞かせてください」
「はい、機会がありましたら。それでは失礼します」
そうしてノインも部屋を後にするのだった。




