第十八話:強制依頼
ブライル・ラウルレッド伯爵と会談してから翌日。ノインは朝食を食べ終えると冒険者ギルドへと足を運んだ。目的は近場に高ランクの魔物が出没していないかの情報を得るためだ。もちろん、その情報を得てすぐに倒しに行こうなどとは思っていない。
ライムエルをテイムしたとはいえ、ノイン自身はDランクの魔法使い。前衛のいない魔法使い一人が出来ることなどたかが知れている。まずはノインとライムエルの二人でどれ程の敵であれば倒せるのかを知らなければならない。
ノインは自分の丈に合ったDランクの討伐依頼をこなしつつ、様子を見るつもりでいる。そして徐々に高いランクの魔物を倒していき、いずれはレアな魔物の肉を調理し、食べられればいいと思っていた。
冒険者ギルドは朝早くから依頼を受ける人たちで賑わっていた。というのも依頼を受けるのは早い者勝ち。朝一番に張り出される依頼の中からいい依頼を受ける。割のいい依頼を受けたいのは誰しもが思う事なのだから、朝に冒険者が多くいるのは当然のことだ。
ノインはまずはDランクの依頼が張り出されている掲示板に近づいた。幾人か掲示板の前に陣取って依頼を吟味していたが、ノインが近づいてくるのに気付くと驚いて距離をとった。彼らはノインの頭に陣取る小さなドラゴンに目が釘付けだった。どうやら初めて見たらしい。そのドラゴンというと、冒険者ギルドに入ってから辺りをキョロキョロ見回していた。
『ここに張ってあるのは一体何じゃ?』
『依頼だよ。ここにある依頼を受けて、それを解決して報酬をもらうんだ。お金ないと宿に泊まれないし食事もできないから稼がないとな』
『むぅ、食事ができないのは困るのう。なら、さっさと依頼を受けて解決しようではないか』
既にいくつかの依頼が取られていたが、それでもまだまだ依頼は残っている。ここアルベールの街は、ブルッグベルグ王国の副都と言われるくらいに大きく発展している。冒険者ギルドへの依頼も多く、また近隣の小さな町村からの依頼も掲示板に張り出されるため、掲示板から依頼がなくなるということはまずない。とはいえ、掲示板に残る依頼は割に合わないものが多いのだが。
「うーん、やはりDランクの討伐依頼といえばオークだけど常設依頼だしなぁ……」
オークはDランクの魔物であり、その肉は食用に適している。先日ノイン達も屋台で食べたが、メジャーな魔物肉と言えよう。オークは女性を攫って繁殖用の母体とするため、見つけ次第狩るのが鉄則だ。そのため、オーク討伐はDランクの常設依頼になっている。常設依頼は事前に依頼を受けずとも討伐の証であるオークの鼻を持ち込めば依頼達成となる。
ノインとしては依頼を受けないでいいオークを目的とするならば、態々冒険者ギルドに来た意味がなくなってしまうので別の討伐依頼を受けたいところだ。ただ、Dランク用の掲示板には近場での討伐依頼はないようだ。どうしたものかと悩んでいると後ろから声をかけられた。
「おうノイン、来てたか。ちょうどいい。ツラ貸せ」
「ラシュウさん?何か用ですかね?」
「ああ、とりあえず俺の部屋に行くか」
ノインに声をかけたラシュウは、そのまま階段を上っていく。まだどの依頼を受けるか決めていないノインだったが、ギルドマスターに声をかけられては仕方ない。ラシュウの後を追って階段を上るのだった。
ラシュウの部屋に入ったノインは、ラシュウに促されてソファーに腰を掛けた。そのラシュウも、ノインと相対して座っている。ノインが座ったのに合わせて、女性が二人と一匹にお茶が出された。ありがたい気遣いである。だがお茶請けは用意されなかったので、ライムエルは興味をひかれなかったようだ。定位置であるノインの頭から動こうとはせず、目を瞑っている。
「ラシュウさん、話はどれくらいかかりますかね?俺、まだ今日の受ける依頼決めてないんで、早めに終わらせてもらえると」
「ああ、そりゃちょうどいいな。お前に強制依頼だ」
「え、強制依頼ってマジですか?俺、何かしましたっけ?」
強制依頼とは、冒険者ギルドから特定の冒険者に与えられる依頼であり、断ることは出来ない。もし断るのであれば、ペナルティとして冒険者ランクを下げられたり、罰金を科せられたりする。
だが基本的に強制依頼は、魔物が異常発生するスタンピートや魔物の集落の破壊など、冒険者の手を借りなければ町村の人々に被害を与えてしまうような事柄に対して発せられる。あるいは、問題行動をした罰として奉仕活動として指示されることもある。
Dランクのノインが個人的に呼び出されて強制依頼、と言われれば、誰だって何かしらの問題行動をしたと思われるのは当然だろう。だが、ノインには何かしらの問題を起こした記憶はない。
「あー、お前ドラゴンをテイムしただろ?いくら子供のドラゴンとは言え、ドラゴンをテイムした奴がDランクってのもおかしな話だからな。そのドラゴンの実力を測って、それに見合ったランクに上げようって話だ」
「なんだ、そうでしたか」
問題行動ではないが、確かにドラゴンをテイムしたことで問題が発生しているようだ。最強の魔物の一角であるドラゴンをテイムした冒険者がDランク、と言われれば外聞も悪いだろう。
「でも、ランクってそんなに簡単に上げられるもんなんですか?」
「そんなわけあるか。ただ、お前の場合は前例のないドラゴンテイマーってことだから本部に問い合わせてな。そしたら、Cランクまでならすぐに上げても問題ないってよ。お偉いさん方は対外的なイメージも考えて本当はAランクにしたいみたいだがな。だが、高位の冒険者は貴族は当然として、下手すりゃ王に謁見することもある。礼儀作法の勉強もせにゃならんから今すぐには無理だな。とりあえずはドラゴンの力を確認しておきたい」
「なるほど……。ところで、どうやってライムエルの力を確認するんです?」
「とりあえず何種類かの魔物を倒すのを見せてもらいたい。俺が付き添う形で、魔物狩りに行くぞ。無理そうなら俺が倒すから大丈夫だ」
ラシュウは現在はギルドマスターの職についているが、元はAランクの冒険者。ライムエルが倒せずとも最悪自身でなんとかできるとの判断だろう。
「えっ!?ギルドマスターのラシュウさんが付き添ってくれるんですか?ラシュウさん、もしかして暇なんですか?」
「阿呆か!ドラゴンをテイムした冒険者が急にうちの支部に現れたんだから暇なわけあるかよ!」
ノインとライムエルの対応が最優先事項だと言わんばかりに声を荒げるラシュウ。ドラゴンのテイムなど前代未聞なのだ。それも仕方ないだろう。ノインはばつの悪そうにそっぽを向いている。
「あー……、ちなみにどこに行くんです?」
「フーズベール大森林だ」
フーズベール大森林は、今ノインたちがいるアルベールの街から南へ徒歩三日ほどの距離にある。CランクからFランクの魔物が生息している大きな森であり、森の中心部に行くほど強い魔物が生息している。
フーズベール大森林の近くにはルワズという町もあるので、そこを拠点にして魔物を狩る冒険者が多数いる。定期的に魔物を狩ることで、森の外へ出る魔物の数を減らしているのだ。
「馬を使って飛ばせば、今日中にはルワズに着くだろう。そこで一泊して明日から森に入るぞ。というわけで、二時間後に南門に集合な。馬はこっちで用意しておくが、昼飯くらいは自分で用意しろよ」
「了解です」
ラシュウもこれから準備をするという事なので、ノイン達は部屋を後にした。馬を使ってルワズの町に今日着くはずなので、野営の用意は必要ないだろう。
ノインはもともと討伐依頼を受けるつもりで冒険者ギルドを訪れていたので、特に追加で用意する物は無い。昼食も猫舞亭の料理人であるグライセに頼み、ライムエルの分も含めてお弁当を作ってもらっているので問題ない。ただ、日帰りの予定が何日か宿に帰らないことになる。猫舞亭に何日か空けることを伝える必要があるだろう。
「うーん。猫舞亭に連絡をしに行っても時間余るよなぁ。でもやることもないし……。とりあえず猫舞亭で話をしてから適当に時間でもつぶすか」
ノインは頭の上で寝ているライムエルを伴って、冒険者ギルドを後にするのだった。




