閑話 ハロウィン③
「わお……」
いつもひきこもっている島から久しぶりに人里にやってきた和子は、その光景に息をのんだ。
たまには召喚獣の皆をショッピングに連れて行ってやろうとして《始まりの町》に来た結果、この惨状である。
『まちのかぼちゃってすごいんですねえ! うちのおにわのかぼちゃはみんなおとなしいのに……』
隣ではマックス君が暢気な感想を述べている。
大勢のカボチャ達が町をのし歩くその光景は、ある意味壮観であった。
そんな中、見覚えのある人物がこちらに向かって来るのが見えた。向うはこちらに気づいていないらしい。和子は声を張り上げた。
「ヤヒコさーん!」
「ヤヒコさーん!」
道の所々で芽吹くカボチャの種をちまちまちまちま燃やして回っていたヤヒコは、どこからか自分を呼ぶ声に顔を上げ、辺りを見回した。
「ヤヒコさん、こっちですー!」
再びの呼び声。
前方に手を振る見知った人影があった。和子だ。
「あ、和子さん! 何でここに?」
和子はお供の召喚獣達を皆連れてきているようだ。
「ちょっとみんなでお買い物でも、と思ったんですけど……この町、一体どうしちゃったんですか?」
「突然町中のカボチャが暴れ出しまして……多分運営なりのハロウィンイベントなんだと思います。悪いんですけど、カボチャやっつけるの手伝ってくれませんか?」
「いいですよ。皆、カボチャをやっつけますよー!」
召喚獣達と共に、えいえいおー! などと掛け声をかけ、和子は気合を入れているようだ。
「あ、種を残すとそこから増えるみたいなので、なるべく全部燃やしちゃってください!」
「了解です!」
和子のような高レベルの術士が参加してくれるとなればありがたい。
その場を和子達に任せ、ヤヒコは再び町を走る。
町中でカボチャとの攻防が行われているが、初心者や低レベルプレイヤー、非戦闘員のNPCなどは蔓延る蔓に釣り上げられて身動きの取れない状態になっている者も多かった。ヤヒコはそういう者達の救援も行っていた。
「《ショックウェーブ》!」
MPのコストパフォーマンスの良い下級衝撃魔術で蔓を千切りつつ、ヤヒコは進む。
そして十何人目かの吊し上げられた人物を見て目を丸くした。
「レ、レィエルディスさん!?」
人型になった地竜が、宙ぶらりんにされつつのんびりリンゴをかじっている。
「おお、ヤヒコか。人間とは変わった祭りをするものだな。わざわざ凶暴な植物を町中に放し飼いにし、吊下がるとは。まるで戦闘訓練だ」
「いや、ハロウィンはそんなイベントじゃないです……」
とりあえず地竜を蔓から解放する。
「本当はこんなに暴れる植物じゃないんですよ。甘くてホクホクで美味しいだけの野菜のはずです」
「なんと、この実は食べられるのか!? では早速……」
「駄目ですよ!」
ヤヒコは道端で芽吹くカボチャの種を示す。
「ほら、生のままだと種がすぐ芽吹いちゃいますから、そのまま丸呑みにしたら、お腹の中でカボチャが生えますよ!」
「お、恐ろしい植物だな……では、どのようにして食えばよいのだ?」
「煮たり焼いたりしてから食べてくださいね! あと、とりあえずこの暴れカボチャは危険なのでやっつけるの手伝ってください」
「うむ、承知した」
さりげなく地竜にも仕事を押し付けるヤヒコ。そんなヤヒコにフレンドチャットが飛んできた。
『おい、ヤヒコ! お前今《始まりの町》にいるか!?』
黒狼だった。
「……何だ? カボチャか?」
『そうだよカボチャだよ! 何かすげー楽しそうなイベント起こってるらしいじゃん! 今からそっち行っても間に合うか?』
相変わらず戦闘にしか興味のない困った奴だが、こんな時には都合が良い。
「まだうようよいるから、急げば間に合うんじゃないか? 一番大きいカボチャも残ってるし」
『一番大きい!? マジか! よっしゃ、今から行くぜ!』
「待て、奴らには面倒な特性が……って、切りやがった……」
黒狼は用事だけ済ますとすぐチャットを切ってしまった。仕方がないのでアルトにフレンドチャットを繋ぐ。
『ヤヒコさん、どうしました? 今こっちは団長が騒いでて……』
「ああ、それなんだけど、カボチャはきっちり種まで燃やさないと種から増えるから、火魔術使える奴連れてきてくれ」
『なるほど、了解しました。情報ありがとうございます』
チャットを終えるとヤヒコは溜息をついた。彼等『黒狼旅団』が来れば大体のカボチャは片付くだろう。
「大ボスはあいつらに任せればオッケーかな……」
そんなことを呟きつつ、路傍のカボチャの芽を燃やす作業に戻る、あくまで裏方なヤヒコであった。
その後5分とかからず飛んできた『黒狼旅団』により、噴水広場を占拠していた大カボチャは討伐された。ギルドマスターは「久しぶりに強いやつと戦えて楽しかった」とコメントした。
大カボチャはその場で中身をくりぬかれ、種は焼却処分、身は食され、そして外皮は巨大ジャックオランタンとして噴水広場を飾ることとなった。
他の中小のカボチャ達も大体が駆除され、中身が無事なものは討伐戦後に行われた、お疲れ炊き出しカボチャパーティーの料理の具材として利用されたが、町中で砕かれた大量のカボチャに含まれていた全ての種を処理しきることは難しく、ハロウィンが過ぎるまで、時折カボチャが生えては暴れ、プレイヤー達はその駆除に走ったとか。
そんなこんなで大騒ぎなハロウィン月間であったが、皆の尽力のかいあって、本命の仮装パーティー並びに仮装コンテストは無事に行われた。ただ、コンテストにて優勝した6人組のチームは、まるで本物のようなクオリティの仮装だったと大層噂になったという。
季節物なのに大幅に遅刻しました……orz
大反省です。




