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腐ってもタイ! 連載版  作者: 中村沙夜


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魔竜との会談① はじまり

 《始まりの町》に突如現れた2匹の黒い竜。彼等は自分達を魔竜族の代表であると言い、和平交渉をしに来たと言った。


「和平って……プレイヤーは魔竜とかいうのとも戦ってたんですか?」

 ヤヒコはエリンに問う。

「うーん、魔竜なんて初めて聞くわ。誰か、どこかの攻略ギルドか何かが戦ってたのかしらねえ……」

 何かと情報通なエリンも知らないらしい。

 門前に集ったプレイヤー達も、口々に、そんなことあったっけ、みたいなことを話し合い、皆一様に困惑している様子だった。

「しょうがないわね、一応《始まりの町》自治会の代表は私だから、私が出ないといけないわね」

 エリンはそういって黒い竜――魔竜の前に進み出る。

「私はこの町の自治会の代表のエリンです。今回あなたがたは和平交渉をしに来たと仰るけど、詳しくお話を聞かせてもらえないかしら?」

「いいだろう」

「まず、私達はあなたがたと戦った覚えがないのだけれど、あなたがたは人間とどこかで戦ったことがあるの?」

「いや、我々魔竜族自体は人間と戦ったことはない。人間もまた我々の住む地域に現れた記録はない」

「では、どうしていきなり和平なんて話に……」

「現在お前たちが対立しているリッチの『獄炎のアルバート』、吸血鬼の『ランドル伯』、そしてリビングアーマーの『魔鎧将まがいしょうキュイラース』との戦いに、我々は手出しをしない、と言うことだ」

 プレイヤー達の間にどよめきが起こる。


 今まで、プレイヤー達が『魔族領域』と呼んでいる地域で対立している魔族に分類される者達は、プレイヤー達からは命令系統もあまり良く解らず、総大将自らが出てきたリビングアーマーと吸血鬼以外ははっきり言って、敵の名前も実態もあまり良く解っていない状態だったのだ。

 自分達が今現在対立している相手が判明したことは、プレイヤー達には大きいことだった。


「そのかわり、我々の縄張りでの戦闘を避けてもらいたい」

「相互不可侵ってことかしら……それはありがたい話ね」

「そういうことだ」

「私達はあなたがたの縄張りの場所を知らないの。良かったら教えてもらえないかしら? それから、この話は結構大きい話だから、この町以外のひとたちも話し合いに参加させてほしいの。人型になれるなら、この町にどこか宿を手配するから、しばらくこの町にいてもらえないかしら。和平の詳しい内容を詰めるのにも時間がかかると思うの」

「……わかった」

 2匹の魔竜は一瞬黒い霧に包まれたかと思うと、次の瞬間には二十代後半くらいの男と十代後半くらいの女の姿になった。エリンが先導し、2匹は町へ入っていく。


「……何だかでかい話になっちゃったな……」

「そうでござるな」

「でも、一体何が『今度は負けない』なんだろうな」

「さっぱりでござるな!」

 多くのプレイヤー達は三々五々と散って行き、ヤヒコ達も白猫料理店本店に向かう。エリンは忙しいだろうが、とにかく採ってきた囮卵を買い取ってもらわないといけない。

 果たして、白猫料理店本店ではギルド員達が他の町に散らばった主要ギルドに対する連絡でてんてこまいの様子だった。やはりエリンはいなかったので、サーシャに卵を買い取ってもらい、邪魔にならないように早々に店を出る。

 2匹の魔竜はこの町で一番いい宿に逗留することになったらしい。まあ、相手側からの正式な使者らしいので丁重に扱おうということだ。《始まりの町》自治会の面々が手分けしておもてなししているとのことである。


 と、ヤヒコにフレンドの音声チャットが飛んでくる。相手は黒狼だった。どうせ魔竜のことだろうと当たりをつけたヤヒコは仕方なくチャットに応じる。

『ヤヒコ、お前今どこいんの? 《始まりの町》とかにいないか?』

「……竜の話か?」

『そうそう、竜だよ、どうだった? 強そうだったか?』

「まさかお前、戦いに来るつもりか!?」

『うん』

 ヤヒコは頭を抱えた。なぜこいつには戦闘以外に選択肢がないのか。

「だめだぞ、あいつらは魔竜族からの正式な使者なんだから、むしろもてなさないといけないんだぞ」

『えー!? また戦っちゃいけねーのかよ! ちょっとだけでもダメか?』

「ちょっとってなんだよ……」

 黒狼とチャットしつつ、エリンにフレンドメッセージを飛ばす。『黒狼旅団』が魔竜に興味を示していると聞けば、エリンもすぐに対応してくれるだろう。

『もうすぐ《始まりの町》につくからさ、そしたら竜の話聞かせてくれよな!』

「いや、ちょっと待てよって……」

 黒狼は言いたいことだけ言ってチャットを切ってしまった。これは困った。

「どうしよう……このままだと間違いなくトラブルになるぞ……」

 そう言えば、『黒狼旅団』の副ギルドマスターのアルトともフレンド登録してあったことを思い出し、ヤヒコは彼にフレンドメッセージを飛ばす。攻めてきたのではなく使者として来たのだと言えば、上手いこと黒狼を足止めしてくれるだろう。

 そうしている間にエリンからメッセージが帰ってくる。と同時に音声チャットも来た。

『ヤヒコ君、『黒狼旅団』が来るって本当!?』

「黒狼からチャットが来て、もうすぐ《始まりの町》に到着するって言ってました」

『……ちょうどいいわ。向うが不穏な動きをしないうちに、こちらで動きを制限しちゃいましょう』

「どうするんですか?」

『魔竜さん達の警護を依頼するのよ。『黒狼旅団』は戦力としては申し分ないし』

「なるほど。でも、依頼受けてくれますかね?」

『受けざるを得ないでしょう。これから緊急で主要ギルド会議になるし、魔竜さん達にはそれに参加してもらうつもりよ。まさか会議参加者に依頼を蹴ってまで攻撃をしかけたりはしないはずだわ』

「了解です。お仕事がんばってください」


 程なくして《始まりの町》に到着した『黒狼旅団』はエリンとアルトの働きもあり、警護の依頼を受けることになったようだ。黒狼は最初はちょっとすねていたが、間近で魔竜を見られると聞くと、喜んでいたらしい。本当にどれだけ戦いたいのだろう。このまま何事もなく会議が済めばいい、とヤヒコは思った。

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