鯛子、着替える①
ヤヒコが個室から出ると、実にいい笑顔をしたエリンが立っていた。
「ヤヒコ君、今の可愛い女の子誰? あと、見たことない男のひともいたけど、友達増えたのね、良かったわね!」
「……エリンさんは俺のこと一体どう思ってるんですかね……」
いつまでも半分ぼっち状態なのを心配されていたらしい。べっこりへこむヤヒコ。
「……あれは鯛子ですよ。あと、あの緑のローブはマックス君です」
「え!? あれが鯛子ちゃん!?」
エリンの目が驚愕に見開かれる。余程予想外だったようだ。まあ、ヤヒコとしても鯛子のいきなりの人化は予想外だったが。
「……で、マックス君って誰??」
「蛇です。ツアーで一緒だった和子さんの召喚獣ですよ。この前のジェイレット島ツアーの時に大きな蛇がいたでしょう」
「ああ、確か、大きくなったり小さくなったりしてた蛇がいたわね……なーんだ、プレイヤーじゃないのね」
「…………」
エリンはとてもがっかりした様子だった。そんなにヤヒコの交友関係が気になるのだろうか。ヤヒコはそんな風に心配されるのを遺憾に思うとともに、心配されるようなしょっぱい交友関係しかないことに気が付き落ち込んだ。
「まだそんなに長時間は変身できないらしいですけど、とにかく人型になれるようになったみたいです」
「そっか、たまに高レベルな召喚士の召喚獣が人間に化けてるのを見るけど、ついに鯛子ちゃんもなれるようになったのね。良かったじゃない」
「ええ、まあ」
「じゃ、せっかく可愛いんだから、何か良い装備でも買ってあげたら? それに、正直言って、あの恰好は目立つわよ?」
鯛子が人型になったという衝撃が大きすぎて今まで流してはいたが、現在鯛子は竜宮城か天の川にでもいそうな、和風と中華風の混ざったような恰好をしていた。どうしてそんな衣装になったのかはわからないが、西洋ファンタジー風の装備ばかりのこのゲームではとにかく大変目立つ。
「確かにそうですね……でも俺、女の子の装備とかちょっとよくわから」
「大丈夫、私も一緒に行ってあげるわ! いいのを選んであげるから今から行きましょう!」
「ええっ!?」
仕事はどうするんだ暇なのかとか、何故いきなり今から買い物に行く話になるのかとか、普通に目立たない上着のひとつでも買ってやればいいんじゃないかとか、ヤヒコには色々と言いたいことがあったが、
「鯛子ちゃん、可愛くなったわねー! 一緒に買い物行きましょう!」
と、エリンが個室に飛び込んで行ってしまったので言えずじまいになった。
「うちのギルドと懇意にしてる服飾生産系ギルドがあるの。うちの店の制服も作ってもらってるのよ」
そう言うエリンに連れてこられたのは、《始まりの町》北側の中ほどにある店舗とギルドハウスが一体になった建物であった。軒先に下がった看板には、『月夜の森』と書いてある。相変わらずエリンの交友関係と言うか人脈は広い。
「こんにちは、今大丈夫かしら?」
店の扉を開けると、ヤヒコ達、そして何故かマックス君まで引きつれてエリンは店の中にずんずん入っていく。
「はーい、いらっしゃいませー!」
店の奥から出てきたのは、赤毛をショートカットにした碧い目の、十代半ばくらいの少女だった。
「あ、エリンさん、こんにちはー! 今日はどうされたんですかって、わあ!」
彼女はエリンに挨拶しかけたが、人型鯛子を見た途端に目を輝かせた。
「やだ、この子可愛い! 何か和風な装備してるし! この装備、どこのお店で買ったんですか!?」
鯛子の周りをぐるりと回り、うきうきした様子の少女。とんでもない食いつきようである。
それに対して鯛子はと言うと、少女の勢いに気後れしたのか、何も言えずに恥ずかしそうにもじもじしてしまっている。
「その子は召喚獣よ。今は人型に変身してるの。この衣装はデフォルトよ」
鯛子の代わりにエリンが返事をする。鯛子は恥ずかしがるあまり、ヤヒコの後ろに隠れてしまった。
「へえ、そうなんですか、すごいなあ……そちらが召喚士さん?」
「そうですけど……」
「そのローブ、この町じゃ見たことないデザインですね、どこのお店で買ったんです? どこのギルドだろう、エンチャントも色々ついてるみたいだし……」
「……えーと」
「ちょっとアカネちゃん、お客さん困ってるよ!」
ヤヒコが少女の勢いに押されて困っていると、店の奥からもう1人別の少女が出てきた。こちらはセミロングの朽葉色の髪に青い眼の少女である。
「ごめんなさい、お客さん、私はミカ、こちらはアカネちゃんです」
新たに出てきたその少女は、赤毛の少女の服の裾を引っ張ってヤヒコと鯛子から引きはがしつつ、自己紹介をする。
「あらためまして、ギルド『月夜の森』へようこそ。今日はどのような装備をお求めですか?」




